孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

オトナになったモーツァルト『ヴァイオリンとヴィオラのためのシンフォニア・コンチェルタンテ 変ホ長調 K.364(320d)』

失恋は人を大きくする 

モーツァルト21歳から22歳にかけての“マンハイム・パリ就活旅行”は、肝心の就職に失敗したばかりか、母の死、失恋と、散々な結果に終わりました。

母を異国に葬り、ひとり失意のうちに帰国したモーツァルトに、ザルツブルクは宮廷オルガン奏者の職を与えます。

優秀な音楽家を召し抱えるのは領主にとって一種のステイタスですから、大司教も不義理を水に流したのでしょう。

しかし、外のレベルの高い世界を見てしまい、最先端の音楽やそれを喜ぶたくさんの聴衆を知ってしまった彼には、また元の小都市ザルツブルクで領主のためだけに働くのが、どれだけ不満だったかは容易に想像がつきます。

ザルツブルクと言えば、モーツァルトの生地ということを抜きにしても、ザルツァッハ川に映る美しい街並み、丘の上のホーエンザルツブルク城のたたずまい、映画『サウンド・オブ・ミュージック』のドレミの歌の舞台となったミラベル庭園など、その風光明媚さでヨーロッパでも有数の人気のある、みんなが行きたい世界遺産の観光都市。

ですから、モーツァルトがことごとに嫌い、罵るのには違和感を覚えますが、“こんな田舎町になんかいられるか!!”とタンカを切って大都市に出た若者が、夢破れて帰京し、温かく迎えられてしまったようなものなのでしょう・・・。

しかし、試練は人を成長させます。

モーツァルトという愛すべき変人の、その波乱の人生をたどりながらその曲を聴いていくと、どんどん成長、深化していくのが分かって、とても味わい深いです。

だからといって、若いころの曲もけっして色あせることはなく、晩年の曲にはない輝きがあって、いつまでもフレッシュなのですから、天才というのはすごいです。

その画期の代表のひとつが、『ヴァイオリンとヴィオラのためのシンフォニア・コンチェルタンテ 変ホ長調』だと思います。

私はこの曲を聴くたびに、〝モーツァルトもオトナになったな…〟としみじみしてしまうのです。(上から目線ですが…)

シンフォニア・コンチェルタンテ(サンフォニー・コンセルタント、協奏交響曲は、パリで流行した曲種であり、モーツァルトも満を持して管楽器のための曲を作ったのに、妨害(陰謀?)にあってか、演奏できなかったばかりか、楽譜までなくされた経緯は前述しました。

ザルツブルクには定期演奏会などないのですから、戻ってもこのような曲の演奏の場所は無かったと思われるのですが、再度この曲種に挑戦して出来たのがこの曲です。

ザルツブルクでは何人もの管楽器ソロ奏者を揃えられなかったとみえて、独奏楽器はヴァイオリンとヴィオラのコンビですが、これがまた、渋くていい味を出しているのです。

モーツァルトのヴァイオリン・コンチェルト(ソロ・コンチェルト)は5曲ありますが、ヴィオラが独奏として登場するのは、完成したものではこの曲しかありません。

この曲は、古楽器の演奏が少ないのですが、次の演奏は素晴らしいです。

日本の誇る古楽器ヴァリオリニスト、寺神戸亮が、古楽器演奏の大御所クイケンと共演しています。

ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364(320d)

Sinfonia Concertante E-Flat Major K.364(320d)

演奏:寺神戸亮(独奏)

シギスヴァルト・クイケン(独奏・指揮)ラ・プティット・バンド

Ryo Terakado / sigiswald Kuijken & La Petite Bande

第1楽章アレグロ・マエストーソ

堂々としたスタートですが、派手さはなく、落ち着いた、まさにオトナの雰囲気で始まります。

まずヴァイオリンがさりげない感じで登場し、ヴィオラが続きます。

ヴィオラは、オーケストラでは突出することはなく、しかし欠かせない縁の下の力持ちのような地味な存在で、なかなかソロ楽器にはなりにくいのですが、曲が変ホ長調にもかかわらず、ニ長調調弦され、ヴァイオリンと対等で響くように工夫さえています。

そして繰り広げられる二者の対話の華麗なことといったら… 

第2楽章アンダンテ

一挙に暗い雰囲気になり、面食らいます。

第1楽章が華麗だっただけに、“いったい何があったの!?”と違和感がぬぐえませんが、すぐその気分に引き込まれていきます。

モーツァルトは、悲しい曲も、悲しいままにしておきません。

途中で、暗い中に淡く光が差し込むような部分が必ずあり、心奪われるのです。

そして、優しさ。泣いている人を慰めようとしたら、逆に慰められてしまったような、不思議な思いになる曲です。 

第3楽章プレスト

また一転、この上なく明るい曲です。泣いていたふたりが、今は笑いあって追いかけっこをしています。ぴったりと息を合わせて。

そして、幸せな気分のうちにフィナーレを迎えます。 

この曲でのふたつの楽器を恋人同士に例えたら、ヴァイオリンとヴィオラ、どちらが男で女だろう?といつも考えるのですが、結論が出たことはありません…。

 

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