孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

狙われた花嫁と〝初夜権〟 フィガロの結婚(2)『プロローグ』

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鏡を見るスザンナと、床を測るフィガロ

モーツァルト  オペラ『フィガロの結婚』登場人物

フィガロの結婚の幕開けにあたり、登場人物をご紹介します。

アルマヴィーヴァ伯爵

スペイン・アンダルシアの大法官にして、広大な所領を持つ領主。理想の女性を求め、フィガロの助けを得て、憧れのロジーナを妻にすることに成功。しかし、生来の女好きであり、結婚後も他の女性を口説きまくっている。国王の信頼厚く、今度英国大使に任じられることになっている。

伯爵夫人ロジーナ

貴族の孤児だったが、フィガロの策略で、自分に下心のあった後見人バルトロの元を逃れることができ、アルマヴィーヴァ伯爵夫人となる。しかし今では、夫の浮気に悩む日々。

フィガロ

本業は床屋だが、頼まれごとは断れず、また自分からも首を突っ込む〝なんでも屋〟。頭が切れ、行動力もあってみんなから頼られているが、少しお調子者の面も。アルマヴィーヴァ伯爵の結婚を取り持った縁で、伯爵に雇われ、伯爵家の従僕として邸で働くうち、メイドのスザンナと恋に落ち、結婚することになる。

スザンナ

伯爵夫人付きのメイド。美人で色気たっぷり、しかも明るくて機転がきき、伯爵夫人には絶大な信頼を得ている。フィガロが夢中になって口説き落とした。

バルトロ

医者で、ロジーナの後見人をつとめたが、いつか自分のものにするつもりで監禁状態にしていた。それをフィガロの策略で奪われたため、フィガロに怨みを抱いている。

マルチェリーナ

伯爵家の女中頭で、独身の熟女。若い頃はバルトロの愛人になっていたが、今は若いフィガロにご執心。フィガロにお金を貸したりして、何とか結婚に持ち込みたいと狙っている。

バジリオ

伯爵家に出入りする音楽教師で、でしゃばりでおしゃべり。伯爵にゴマをすって取り入り、女あさりのお先棒を担いでいる。

ケルビーノ

貴族の子弟で、小姓として伯爵に仕えている少年。思春期を迎え、女性に興味津々の年頃。伯爵夫人に憧れている。オペラでは、小柄な女性が男装して演じる。(ズボン役)

アントニオ

伯爵家の庭師。スザンナの叔父。酒好きで、いつも酔っぱらっている。

バルバリーナ

アントニオの娘。ケルビーノと同じくらいの年齢。可愛い顔をして、なかなかしたたか。

ドン・クルツィオ

判事。この当時、領内の裁判権は領主が握っているが、法律面からその判決を助ける。

 

それでは、幕を開けましょう。

舞台は、宏大、壮麗なアルマヴィーヴァ伯爵邸セビリアから10kmほど離れたアグァス・フレスカスという架空の場所ということになっています。

フィガロの結婚は、副題が〝たわけた一日〟となっており、全4幕が朝から夜までの1日の出来事で完結しています。

これは、フランス演劇の三一致の法則、すなわち劇は「時の一致」(1日で完結)、「場の一致」(同じ場所で完結)、「筋の一致」(ひとつの出来事で完結)で作るべし、という原則に従ったものです。

フィガロの結婚』第1幕第1場

伯爵邸の1室。部屋には大きな椅子のほかは、まだ何もありません。

きょうはフィガロとスザンナの結婚式当日。

フィガロは床に這いつくばって何かの寸法を測り、スザンナは鏡の前で花嫁のヘッドドレスの試着をしています。

1曲目、結婚式の朝を迎えたふたりの、気もそぞろなデュエットです。

(歌詞は正確な対訳というわけではなく、私の意訳も入っています)

第1曲 スザンナとフィガロの小二重唱『5、10、20』

フィガロ(寸法を測りながら)

5、10、20、30、36、43・・・

スザンナ(鏡の前で)

うれしい、私にぴったりだわ。私のフィガロ、見てよ!ねえ、見てったら!

フィガロ

うんうん、きれいだよ。ほんとに君に似合ってる!

スザンナ、フィガロ

ああ、うれしい結婚式の朝、スザンナお手製のこの髪飾りは、優しい花婿の目にはどんなに可愛く見えることでしょう。

 

レチタティーヴォ

スザンナ

何を測ってるの? 私のフィガロ

フィガロ

伯爵が下さる俺たちのベッドが、ここにうまく収まるかどうか、だよ。

スザンナ

この部屋に?

フィガロ

もちろん。伯爵がこの部屋も俺たちにくださったんだ。

スザンナ

じゃあ、あんたが一人で住めば。

フィガロ

な、なんでさ!?

スザンナ

そのわけ、聞く覚悟ある?

フィガロ

だって、この部屋はこのお屋敷で一番便利なんだよ?

スザンナ

あんた、バカじゃないの?

フィガロ

どういたしまして! でもこれ以上の場所、あると思う?

早くも微妙なすれ違いが。単純な旦那と、訳知りな女房。ふたりの関係性はすでに決まっているようです。

第2曲 スザンナとフィガロの小二重唱『夜中に奥様が』

フィガロ

夜中に奥さまが、リン、リン、と鈴でお呼びになる。そしたらお前はすぐにお側に行ける。

伯爵が俺に御用のときは、ドン、ドン、とお呼びになる。そしたらひとっ跳びで駆け付けられる。

スザンナ

そうね! 朝、伯爵がお呼びになる。

リン、リン!

そしてあんたは遠くへお使いに。

リン、リン! ドン、ドン!

すると悪魔があの方をこの部屋に連れてくる。それこそ、ひとっ跳びに・・・

フィガロ

スザンナ! ちょっと待った・・・

スザンナ

聞いてよ!

フィガロ

早く言えよ!

スザンナ

続きを聞きたかったら、私を疑っちゃだめよ・・・?

フィガロ

どうしても聞きたいぜ・・・いやな予感で寒気がしてくる・・・

 

結婚のワクワク感も一瞬で吹き飛び、不安にかられたフィガロに、スザンナはわけを話します。

レチタティーヴォ

スザンナ

伯爵は、よその美女のお尻を追っかけるのにもお飽きになって、今度はこのお屋敷の中で恋の運試しをするおつもりなの。

でも、今あの方が食欲を起こしているのは、奥様じゃないのよ。

フィガロ

とすりゃ、誰だ?

スザンナ

あなたのスザンナよ!

フィガロ

お前!?

スザンナ

そう、この私。だから、お部屋が近ければ、ご計画に便利というわけ。

ありがたいことね、気を遣っていただいて。あんたも、あんたのお嫁さんも。

フィガロ

うまい話だと思ったんだがなあ…

スザンナ

待って、まだあるの。歌の先生で、伯爵の便利屋をやっているバジリオが、レッスンのたびに私をそそのかしてくるわ。

フィガロ

なんだと、バジリオの野郎め!

スザンナ

ねぇ、伯爵が私に持参金をくださるのは、あんたが美男子だからだとでも思った?

フィガロ

そのつもりだったがなぁ。

スザンナ

あの方は、そのお金で私と30分ばかりお楽しみになろうっていうことなのよ?

例の封建的特権で・・・。

フィガロ

何だって! そんなもの、ご自分の領地で廃止したのは伯爵本人じゃないか。

スザンナ

そうよ。でも、今は後悔していて、私から復活なさりたいようだわ。

フィガロ

上等じゃないか! 親愛なる伯爵さま、どうなるか、楽しみですな・・・

〈呼び鈴が鳴る〉

フィガロ

奥様がお呼びだ。

スザンナ

じゃあね、私のフィガロ

フィガロ

気をつけろよ!

スザンナ

あんたもね!

スザンナが言っている封建的特権とは、一般に〝初夜権〟と言われているものです。

中世の封建時代、領主の権限は領内では絶対で、領民の生殺与奪の権一切を握っていました。

初夜権は領主の特権のひとつで、領内で領民の結婚があると、領主は花婿より先に花嫁と初夜を共にし、処女を奪うことができる、という理不尽極まりない権利なのです。

中世暗黒時代には、そんな横暴な領主がいたかもしれませんが、モーツァルトの時代には既に伝説化しており、歴史的研究でもそのような権利が本当に行使されたのか、実在を疑問視する学者もいます。

ボーマルシェは、貴族の理不尽をあげつらうために、このような〝都市伝説〟をあえて持ち出したとも考えられます。

平民フィガロの、貴族との闘いが始まります。

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初夜権行使の想像図。花嫁をエスコートする領主と、なすすべなく立ちつくす花婿。

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