孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

妬かせるアリア。フィガロの結婚(22)『早く来て、いとしいひと』

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初演のスザンナ役を演じたナンシー・ストレース

フィガロの結婚』第4幕第10場

すっかり女性不信に陥り、スザンナを疑っているフィガロが、暗闇の中、茂みに隠れていると、スザンナの恰好をした伯爵夫人と、伯爵夫人の衣装を身に着けたスザンナ、そしてマルチェリーナが現れます。

スザンナを信じているマルチェリーナは、フィガロの動きをふたりに伝え、策略の中身も教えてもらって、協力することになったのです。

マルチェリーナは、バルバリーナが隠れている小屋に隠れます。

スザンナは、フィガロが近くに隠れているのを察知し、伯爵夫人にしばらく独りにしてほしいと頼み、自分を疑ったフィガロを懲らしめるために、魅力的なアリアを歌うのです。

第27曲 スザンナのレチタティーヴォとアリア『とうとう待ってた時が来た~さあ早く来て、いとしい人よ』

スザンナ

レチタティーヴォ・アコンパニャート

とうとう待ってた時が来た。

思いっきりあの人の腕に抱かれる時が。

心配ごとは私の胸から出て行って。

私の喜びの邪魔をしないでちょうだい。

この場所の心地よさと、空と地の美しさが、

恋する気持ちに応えてくれているようだわ。

夜のとばりが私の忍び逢いを守っている。

(アリア)

さあ早く来て、いとしい人よ。

恋があなたに快楽を与えるこの場所に。

まだ月が夜空に上らぬうちに。

まだ暗く、みな静かなうちに。

ここでは小川がつぶやき、

そよ風が戯れている。

その甘いささやきに心は安らぐ。

花は笑い、草は爽やかに香る。

ここでは全てが私たちを愛の喜びに誘う。

早く来て、いとしい人よ。

この茂みの中で、あなたに薔薇の花飾りをかけてあげたいの。

↓ クルレンツィス版はこちら。

このアリアは、〝薔薇のアリア〟と呼ばれ、その抒情の豊かさで聴く人を魅了します。

終幕に至って初めて聴く、スザンナの愛の歌なのです。

夕闇の中、空には星が輝き、庭には草花のかぐわしい香り、小川のせせらぎ、そしてそよ風。

そこで恋人を待つ、胸の高まる時間。

 

自分を疑ったフィガロが隠れて聴いているのを承知で、艶っぽい愛の歌を歌うのですが、フィガロはそれを伯爵に向けたものと思っていますので、もう絶望の極みです。

しかしスザンナは、フィガロに罰としてもっと嫉妬させてやろう、という意地悪な行為として歌うのですが、もちろん、気持ちはフィガロに向けて歌っているわけです。

えてして、女性は自分を好きだと分かっている男に、嫉妬させるような振る舞いをあえてすることがありますが、もちろん、興味の無い男にはしませんので、男はこのフィガロのように混乱するわけです。

女性の方が上手で、男は翻弄される。でも結局泣かされるのは女性…?

男と女の機微をどこまでも深く描くオペラです。

英国から来た歌姫

ウィーン初演でスザンナ役を演じたのは、ナンシー・ストレースという英国から来た歌手ですが、夢見るような瞳を持った美女だったと伝えられています。

どんなにか聴衆の心を奪ったことでしょう。

彼女は、1783年にウィーンに来て、皇帝ヨーゼフ2世をはじめ、ウィーンの聴衆を魅了します。翌年、21歳も年上のヴァイオリニスト、フィッシャーと結婚しますが、妻を虐待したとして、夫はヨーゼフ2世から国外追放処分を受け、離婚します。何やら、皇帝の下心も見え隠れしますが…。

そして、1786年5月1日、ブルク劇場において、記念すべき『フィガロの結婚』初演でスザンナを演じます。

フィガロを初演したベヌッチと恋に落ちたと言われていますが、今の芸能界でもよく聞く、〝共演をきっかけに〟ということでしょうか。

でも、モーツァルトとも親しく、〝あやしい〟と言われています。

その証拠として、ふたりの手紙もありますが、何といっても、ナンシーが英国に帰ることになったとき、告別演奏会でモーツァルトが彼女のために書き下ろしたコンサート・アリアが、あまりにも特別だからです。

コンサート・アリアとは、オペラから題材を取っていますが、劇中で歌われるのではなく、コンサートで独立して演奏するために作られたアリアです。

特に前段のレチタティーボ部分が劇的なため〝シェーナ〟と呼ばれます。

モーツァルトがナンシーのために作曲した曲は、オーケストラに加えてピアノのオブリガートがついており、告別演奏会ではモーツァルト自身がそれを弾いたのです。

ピアノはモーツァルトが最も自分の気持ちを語った楽器であり、他の曲ではアリアの伴奏はオーケストラかピアノのどちらかで、両方というのは例がありません。

この曲で、歌に絡み合うピアノは、アインシュタインによれば〝音楽による愛の告白〟であり、さらに彼は『モーツァルトの妻コンスタンツェにそれを感じ取る耳がなくてよかった』とまで言っています。

それはちょっと気の毒な言い方ですが、そもそも、コンスタンツェは夫にあまり妬いた形跡がありません。

モーツァルト自身は、『私が冗談を言った相手と結婚しなければならないとしたら、私は200人の妻を持つことになるでしょう』などと、自分がモテるとほのめかしていますが、自分で言う人ほどたいしたことはないのが常ですね。笑

ともあれ、ふたりの関係は分かりませんが、モーツァルトが、この〝初代スザンナ〟に特別な思いを持っていたのは間違いないでしょう。

そのアリアをご紹介しておきます。

モーツァルト:コンサート・アリア『どうしてあなたを忘れよう~恐れないで、愛しい人よ』K.505

マリー・ソフィー・ポラック(ソプラノ)

アカデミア・ディ・モナコ

このCDは、モーツァルトのほか、サリエリほか当時の作曲家が、ナンシーのために作った曲を集めたものです。

またYouTubeでこの曲の動画も見つけましたのでご紹介します。

歌:チェチーリア・バルトリ、ピアノ:内田光子、指揮:リッカルド・ムーティという、超豪華メンバーの演奏です!

バルトリの歌は迫力がありすぎて、本当のナンシーの歌はもっと軽く、玉を転がすようなものだったのでは、とフィガロの結婚の曲からは想像されますが、もちろん、これはこれで素晴らしいです。


Mozart Scena and Rondo K.505 C.Bartoli M.Uchida R.Muti VPO

 

次回、いよいよ大詰めです。

 

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