孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

妻とは知らずに。フィガロの結婚(23)『第4幕フィナーレ①そっと近づいてみよう』

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フィガロの結婚』の台本作者、ダ・ポンテ

フィガロの結婚』第4幕第11場

スザンナ伯爵に向けた愛の歌をイヤというほど聞かされたフィガロは、茂みの中でただただ打ちひしがれています。その歌は、実は自分に向けられたものなのに。

スザンナは、スザンナの服装をした伯爵夫人と交代し、フィガロとは逆の茂みに隠れます。

準備は完了、後は伯爵が来るのを待つのみ。

伯爵が、伯爵夫人を暗闇でスザンナと思って口説いたところで正体をバラし、とっちめるという〝モニタリング〟企画のスタートです。

ところが、現れたのは、またもMr.トラブルメーカー、ケルビーノ

小屋でバルバリーナと密会の約束があるので、やってきたのです。

そして、スザンナに化けた伯爵夫人を見つけてしまいます。

ここから、終幕までずっと音楽が続きますが、メインで聴いているドロットニングホルム宮廷劇場の演奏はトラックの切れ目が長く、クルレンツィス版は細かく区切られているので、両方の演奏を平行してご紹介していきます。

第28曲 第4幕のフィナーレ①

ケルビーノ

そっと近づいてみよう。

面白そうだ。

伯爵夫人(スザンナの服装)(独白)

ああ、もし今伯爵が来たら困ったことになるわ。

ケルビーノ(伯爵夫人に)

スザンナかい?

答えないな。

手で顔なんか隠して。

よし、いたずらしてやろう。

(伯爵夫人の手を取り、愛撫する)

伯爵夫人(スザンナの服装)

図々しい子ね。早くあっちへ行って!

ケルビーノ

そんなこと言うなよ。

君が何でここにいるか知ってるんだよ。

(遠くから伯爵登場)

伯爵

スザンナはどこかな。

スザンナ、フィガロ(お互い離れたところから)

恋の蝶々がおいでなすった。

ケルビーノ

そんなに冷たくしないでよ。

スザンナ、伯爵、フィガロ(それぞれ独白)

胸がドキドキする。

彼女のところに男がいるぞ?

伯爵夫人(スザンナの服装)

さあ、もう行ってちょうだい!

さもないと人を呼びますよ!

スザンナ、伯爵、フィガロ(それぞれ独白)

声からすると、あれは小姓だ。

ケルビーノ

キスくらいいいだろう? じっとしてて。

伯爵夫人(スザンナの服装)

キスですって? なんて厚かましい!

ケルビーノ

伯爵がもうすぐすることを、どうして僕がしちゃいけないんだい?

スザンナ、伯爵、フィガロ(それぞれ独白)

なんて向こう見ずな!

ケルビーノ

ちぇっ、とぼけちゃって。

僕は椅子の後ろで全部聞いてたんだよ。

スザンナ、伯爵夫人、伯爵、フィガロ(それぞれ独白)

こいつ(この子)がいると、全部めちゃくちゃになってしまう。

(伯爵がふたりの間に入っていく)

ケルビーノ

じゃあ、いいね!

(ケルビーノは伯爵夫人にキスしようとして、間に入ってきた伯爵にキスしてしまう)

伯爵夫人(スザンナの服装)、ケルビーノ

大変、伯爵だ!

(ケルビーノは逃げる。代わりにフィガロが近づく)

フィガロ

何が起こってるんだ?よく見えない。

伯爵

もう二度とやれないよう、これでもくらえ!

(伯爵はケルビーノと思って、フィガロに平手打ちをくらわす)

フィガロ

あいたた!でしゃばったらとんだ目にあった。

スザンナ、伯爵夫人(スザンナの服装)

(笑って)

でしゃばって、とんだ目にあってるわ。

伯爵

どこにでもでしゃばるから、こんな目にあうのだ。

ケルビーノは、伯爵夫人の前ではガチガチになるくせに、相手がスザンナで、しかも浮気をしていると思っているので、やりたい放題です。

しかも相手は、憧れの伯爵夫人本人なのに。

伯爵は何かやろうとするたびにケルビーノに邪魔されるので怒り爆発ですが、彼は自分と同じことをしようとしているからこそ、バッティングするのです。

しかも彼は、自分にはない若さを持っている。

彼への憤りには、明らかに嫉妬の心理もあるのです。

フィガロはどさくさ紛れのとばっちりで平手打ちを食らいますが、第3幕でスザンナにも誤解で食らっていますから、2回目というわけです。

さていよいよ、伯爵とスザンナ(実は伯爵夫人)の逢引が始まります。

音楽も調子が変わって、それらしくなります。

第28曲 第4幕のフィナーレ②

伯爵(スザンナの服装をした伯爵夫人に)

邪魔者もいなくなった。

さ、こっちへおいで。

伯爵夫人(スザンナの服装、声色で)

はい、そちらにいきます、伯爵様。

フィガロ(傍白)

なんて心がけのよい花嫁だ!

伯爵

それでは、手を。

伯爵夫人(スザンナの服装、声色で)

どうぞ。

伯爵

かわいい…

フィガロ(茂みの中で)

かわいいだと!?

伯爵

なんて愛らしい指、

なんてなめらかな肌。

ぞくぞくしてくるよ。

情熱がよみがえる。

スザンナ、伯爵夫人(スザンナの服装)、フィガロ

恋に目がくらんで、見境がなくなっている…

伯爵

持参金のほかに、このダイヤもあげよう。

私の愛のしるしとして、受け取るがよい。

伯爵夫人(スザンナの服装)

何でもいただきますわ。

スザンナ、伯爵夫人(スザンナの服装)、伯爵、フィガロ

全てうまくいっているな。

いよいよこれからだ。

伯爵夫人(スザンナの服装、声色で)

(伯爵に)

松明が見えますわ、誰か来るかも。

伯爵

では、その小屋に入ろう、私の美しいヴィーナスよ。

フィガロ(茂みの中で)

世の中のバカな亭主ども、これを見るがいい。

伯爵夫人(スザンナの服装)

暗がりにですか?

伯爵

望むところだ。本を読むんじゃないんだからな。

スザンナ、伯爵夫人(スザンナの服装)

罠にかかったわ。うまい具合に。

フィガロ

あいつ、ついていくぞ。もう疑う余地はない。

(茂みから出て行く)

伯爵

誰だ!?

フィガロ

通りがかりの者だ!

伯爵夫人(スザンナの服装、声色で)

(伯爵に)

フィガロですわ。一度隠れませんと。

(右手に退場する)

伯爵

行きなさい。私もあとから行く。

(森の中に消える)

伯爵夫人も、自分の策略とはいえ、夫が愛人をどう口説くかを実演されているわけで、実に残酷な場面です。

ボーマルシェの原作では、ふたりの会話はより意味深で、夫婦というもの、を掘り下げています。

ボーマルシェフィガロの結婚』第5幕より

伯爵

いやどうも、肌理が細かくて、柔らかい手だね、伯爵夫人の手はこんなに佳くはないよ。

伯爵夫人(傍白)

まあ、ひどいことを!

伯爵

こんなに締まっていて、むっちりしている腕! うま味があって、いたずら好きな、こんな綺麗な指が夫人にあるだろうか?

伯爵夫人(スザンナの声色で)

これが恋と申すもの?

伯爵

恋というものが…心の語りぐさなら、快楽は恋の報酬だね。報酬なればこそ、お前の膝に引き寄せられる。

伯爵夫人

では、もう奥様はおいとしいとは思し召しません?

伯爵

いとしいとは思うがね、だが3年も一緒にいると、夫婦の間も興覚めてくるものさ!

伯爵夫人

では、奥様になんの御不足が?

伯爵

(彼女を愛撫しながら)

お前の持っているものがさ、愛いやつだ…

伯爵夫人

はっきりおっしゃって。

伯爵

…なんと言うか、もっと紋切り形でないもの、ふるまいに、もっとぴりっとしたところをね。なんとなく味のある、たまには言うことをきかない、とでもいうか?女というものは、我々を愛しさえすれば、勤めを果たしたと思っている、そうきまってしまうと、愛して、愛して愛し続けて、あんまり機嫌をとりすぎ、ねちねちと世話を焼きすぎて、それが年中で、休みなしときたひには、誰だって、いつかは、日ごろ求めていた幸せもうんざりするものだということがわかるよ。

伯爵夫人(傍白)

まあ! なんという教訓だろう!

伯爵

いや全く、シュゾン、俺は考えたよ、世の常の女房からは消え失せた楽しみを他に求めるのは、女たちが我々男の興味をつなぐ術を究めないからだ、とりかえひっかえ、恋の新味を見せて、いわば、変わったものの面白さで女を手折る面白さをひきたたす術を究めないからさ。

伯爵夫人(つんとして)

では何から何まで女がいたらないのでございましょうか?

伯爵(笑いながら)

そこで男には責任なしかね? それが男女の自然なら、変えるわけにもいくまい? 我々男の勤めは女どもを手に入れることで、女の勤めは…

伯爵夫人

女の勤めは?

伯爵

我々男を手放さぬようにすることだが、えて忘れがちだ。

伯爵夫人

それは私のことではございません。

伯爵

こちらでもない。

フィガロ(傍白)

こちらでも。

スザンナ(傍白)

こちらでも。

伯爵

こだまに響くね、小声で話そう。……

*1

さらに残酷な思いをしているのは、新妻が口説かれているのを、陰でじっと聞かされているフィガロ

伯爵は伯爵で、自分の口説き場面を実は皆に見られているわけですから、後で思えば顔から火が出るほど恥ずかしいことです。自業自得ですが。

そんなわけで、劇中、喜劇の真骨頂、クライマックスの場面ですが、喜劇は悲劇の裏返しともいえるでしょう。

 

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