孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

あらすじ・対訳最終回、大団円。フィガロの結婚(25)『第4幕フィナーレ③皆の者、出合え』

 

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スザンナと思っていたら伯爵夫人!驚くアルマヴィーヴァ伯爵。

フィガロの結婚』第4幕終景

フィガロの結婚、いよいよ最終回です。

伯爵に対し、伯爵夫人の恰好をしたスザンナと、フィガロが不倫をしているように見せかけ、激高した伯爵が皆を呼びます。

第28曲 第4幕のフィナーレ⑤

伯爵(フィガロを捕まえて)

皆の者、出合え!出合え! 武器を取れ!

フィガロ(怖がるふりをして)

伯爵様だ!

伯爵

皆の者、早く来い!

フィガロ

もうダメだ!

(アントニオ、バルトロ、バジリオ、ドン・クルツィオ、松明を持った召使いたちがやってくる)

アントニオ、バルトロ、バジリオ、ドン・クルツィオ

何ごとです?

伯爵

非道な奴らが、私を裏切り、私を辱めたのだ!

アントニオ、バルトロ、バジリオ、ドン・クルツィオ

びっくり仰天、驚きだ! とても本当とは思えません。

フィガロ(傍白)

みんな驚いているな。なんとも愉快だ。

伯爵

(小屋にいる者を引きずり出す)

抵抗しても無駄だ!

出てきなさい、奥方よ!

そなたの貞節に対する褒美を与えよう!

(ケルビーノが出てくる)

小姓だ!

(バルバリーナが出てくる)

アントニオ

娘だ!

(マルチェリーナが出てくる)

フィガロ

母さんだ!

(伯爵夫人の服装をしたスザンナが出てくる)

アントニオ、バルトロ、バジリオ、ドン・クルツィオ

奥方様だ!

伯爵

全ては露見したぞ。

ここにいるのは不実な女だ。

スザンナ(伯爵夫人の服装)

(伯爵の足元に跪く)

どうかお許しください。

伯爵

ダメだ!ダメだ!望んでも無駄だ。

フィガロ

(伯爵の足元に跪く)

なにとぞお許しを!

伯爵

ダメだ!ダメだ!誰が許すか。

一同

(全員跪いて)

どうかお許しください!

伯爵

いいや、絶対に許さん!!

(スザンナの服装をした伯爵夫人が出てきて、顔を見せる)

伯爵夫人

では、私からお願いしてみましょう。

一同

ああ、何たることだ!

夢か、幻か?

とても信じられない!

第28曲 第4幕のフィナーレ⑤

伯爵(伯爵夫人に跪いて)

伯爵夫人よ、どうか許してくれ。

伯爵夫人

私は貴方より素直ですので、はい、と申します。

一同

ああ、これでみんなが満足だ…

この許しの場面の音楽が、映画『アマデウス』では、ライバル、サリエリの嫉妬心に火をつけます。

これこそ神の音楽だ、神が人類に許しを与えている。

しかも、この私ではなく、あのゲスな小男(モーツァルト)を通じて!

神は不公平で、残酷だ…なぜ神は私にこの音楽を創る力を与えず、この音楽を理解する力だけを与えたのだ…。

伯爵が伯爵夫人に謝るのは二度目で、一度目は第2幕フィナーレの中ですが、音楽は軽いものです。

しかしここでは、胸に沁みとおるような、心からの謝罪と、許しの音楽です。

あれだけ好色だった伯爵が全てを悟り、改心したとは、言葉だけでは信じにくいですが、音楽を伴うと、素直に信じられてしまうのです。

まさに、音楽の力のすごさです。

第28曲 第4幕のフィナーレ⑥

一同

苦しみと、つらさと、バカげたことばかりの一日を、

愛だけが喜びと満足で終わらせることができるのだ。

花嫁よ!花婿よ!友人たちよ!

さあ、踊ろう! 楽しもう! 花火を上げよう!

マーチに乗ってウキウキ行こう!

皆さん祝いの会場へ!

(幕)

こうして、人間ドラマ『フィガロの結婚』の幕は、大団円のうちに下ります。

原作者ボーマルシェは理不尽な封建制度への反抗、貴族の支配に対する平民の抵抗、という政治的なテーマのストーリーを、誰もが引き付けられてしまうような、恋愛ドラマに仕立てました。

そこでは、男女の機微が、さまざまに描かれ、共感を呼びます。

台本作者ダ・ポンテ作曲家モーツァルトは、政治的なセリフは除き、ラブ・コメディに改作しつつも、音楽の力によって、より人間の心のうちまで、言葉を超えて表現することに成功しています。

そして、理不尽への抵抗精神もしっかり残しました。

この原作にモーツァルトが曲をつけたのは、まさに奇蹟としか言いようがありません。

罪ある母

ただ、せっかくの良い幕切れに、ちょっと嫌な話がありまして。

実は、ボーマルシェの原作には、さらに続編があるのです。

題は『罪ある母』。

セビリアの理髪師』『フィガロの結婚』と合わせて、〝フィガロ三部作〟といわれています。

この母とは、伯爵夫人ロジーナのこと。

伯爵夫人は、ケルビーノ(原作ではシェリュバン)の名付け親の立場だったからです。

この続・フィガロの結婚では、ケルビーノは伯爵夫人への憧れを抑えることができず、ついにある夜、寝室に忍び込んで思いを遂げます。

そして、出征して戦死。伯爵夫人はケルビーノの子を産む…という悲劇です。

フィガロの結婚の幸せがぶち壊しになるような筋なので、当時も人気がなく、後世からも、ボーマルシェが筆力衰えた晩年に書いた失敗作、と評されています。

映画のヒット作の〝Ⅱ〟があまり受けないことが多いのと一緒ですね。

これは〝フィガロⅢ〟ということになりますが。

ただ、この悲劇は19世紀を先取りしており、スタンダールの『赤と黒』などに影響した、という研究もあります。

源氏物語にも通じるものがあります。ボーマルシェ光源氏は知らなかったでしょうけれど。

18世紀の演劇やオペラは、悲劇であっても、最後は無理やり、めでたし、めでたし、にしてあります。

グルックの有名なオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』などはその代表です。

王侯貴族が観ていますし、最後は大団円で、というのがお約束でした。

しかし、19世紀以降、市民のための演劇やオペラは、そんな玉虫色の最後ではなく、悲劇は悲劇として終わらせる方が好まれました。

『椿姫』も『リゴレット』も『トスカ』も『蝶々夫人』も『カルメン』も、有名なオペラの最後はだいたい悲しい終わり方です。

罪ある母』に曲をつけよう、という作曲家は出ませんでしたが、時代を先取りしていたとすれば、さすがはボーマルシェ、といえるかもしれません。

 

モーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』のご紹介は以上です。

長くお付き合いいただき、ありがとうございました。

ぜひ、実際の舞台を観ていただきたいと思います。

オペラは知っている曲が出ると楽しいので、事前にネタバレした方がむしろ楽しめると思うのです。

 

www.classic-suganne.com

 

なお、ご紹介してきたドロットニングホルム宮廷劇場の実際の映像はなかなかないのですが、最近のものを見つけましたのでご紹介します。

私のお気に入りの、第3幕のアルマヴィーヴァ伯爵のアリアです。

テノール:フロリアン・サンペイ、指揮:マルク・ミンコフスキ 


Florian Sempey "Hai gia vinta la causa" 2015

 

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