孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

救世主来臨のお告げ。ヘンデル:オラトリオ『メサイア』あらすじと対訳(3)『降誕の預言』

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死海文書の中のイザヤ書

それでは、ヘンデルメサイア』の第1部より、第2曲から第7曲までを聴いていきます。

ヘンデルメサイア』HWV56

Handel : Messiah HWV56

エマニュエル・アイム指揮ル・コンセール・ダストレ

Emmanuelle Haim & Le Concert D’Astree

第1部『預言と降誕』

第2曲 レチタティーヴォ・アコンパニャートテノール

あなたがたの神は言われる

『慰めよ、わが民を慰めよ。優しくエルサレムに語り、呼びかけよ。その服役は終わり、その罪は許された、と。』

呼びかける声が聞こえる

『主のために、荒れ野に道を整えるのだ。まっすぐに進める道を通せ。われらの神のために。』

イザヤ書40:1-3)

実に温かい神の言葉から、全曲が始まります。バビロン捕囚での、50年にわたる苦役に耐えた民に対し、皆、十分がんばったのだから、神に背いた罪は償われた、との赦しの言葉です。

テノール独唱のヘンデルの音楽もこの上ない、優しい癒しに満ちています。

これを受けて、民たちは勇躍、主を迎える準備をしよう、と沸き立ちます。

神は、人々の罪を許すために、救世主、メシアを与えてくれる、というのです。

第3曲 アリア(テノール

全ての谷は埋めて高くし、全ての山と丘は低くされる

曲がった道はまっすぐに、でこぼこ道は平坦にされる

イザヤ書40:1-4)

テノールの希望に満ちたアリアです。

人々は、来るべきメシアのために道を整えますが、谷を埋め、山や丘を削って平坦にする、というのは、バラバラだった人々の心をひとつにならしてゆく、という暗喩です。

〝高くし〟(exalt)という歌詞では、音楽も高まってゆき、〝曲がった〟(crooked)という言葉ではくねくねと、〝平坦に〟(plain)という言葉では長い音符で描写します。

第4曲 合唱

こうして主の栄光が現わされ、全ての生ける者はそれを見る

主の口が語られた通りに

イザヤ書40:1-5)

初めての合唱曲です。救世主をくださるという神の栄光を、皆で喜び歌う曲です。『三位一体』を象徴する3拍子で、神の栄光を讃えています。

第5曲 レチタティーヴォ・アコンパニャート(バス)

万軍の主が言われる

『私はほどなく、もう一度天と地と、海と陸地を揺り動かす。

諸国民をも、ことごとく揺り動かして、全ての国民が待ち望む者が来る。』

(ハガイ書 2:6-7)

『あなた方が待ち望む主は、たちまち、彼の神殿に来る。

神の約束であるその使者は、歓喜をもたらす。

見よ、彼は来る。』 と、万軍の主は言われる

(マラキ書 3:1)

重々しいバスが、メシア来臨の預言を語ります。〝万軍の主〟とは、天の軍勢、すなわち天使の軍団と、人間の軍全てを率いる、ということです。通常は神を指しますが、父なる神、子イエス聖霊は一体(唯一の神)であるという、三位一体の教義ではイエスのことも指すようです。メシアはただで与えられることはなく、その来臨の前に天変地異を起こす、というのです。そして、そのメシアは、ユダヤ人だけでなく、全ての国民に与えられる、という驚きの預言です。かなり後、7世紀に興るイスラム教も、旧約聖書聖典とみなしていることを考えれば、この預言通り、ユダヤ教徒キリスト教徒、イスラム教徒の3教徒によって、世界の諸国民は、現代の今も揺り動かされているといえるのではないでしょうか。

第6曲 アリア(アルト)

しかし、彼の来る日に誰が耐えうるのだろうか

彼が現れるとき、誰が彼の前に立てるだろうか

彼は金銀を精練する者の火のような方なのだから

(マラキ書 3:2)

アルトかバスで歌われます。皆が待ち望んでいたメシアではありますが、いったいその厳しい裁きに耐えられるだろうか、という不安を訴えています。アリアの中間部では、まさに金銀を吹き分ける精錬所の熱火のような激しい表現になります。人間はどこまでも弱い存在、という歌です。

第7曲 合唱

そして彼はレビの末裔を清める

彼らが主に正しく献げ物を捧げる者となるために

(マラキ書 3:3)

レビの末裔とは、祭司職のことです。金銀を吹き分ける火で、彼らが正しい捧げ物ができるように清める、ということです。ユダヤ教では、祭司職だけが独占した資格ですが、キリスト教では、主によって清められた者なら誰でも資格がある、という解釈です。

次回、さらに旧約の預言、第8曲からご紹介します。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。


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