孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

運命の夜、闇夜の騎士団長殺し。ドン・ジョヴァンニ(2)『イントロダクション』

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剣を抜くドン・ジョヴァンニ。後ろにレポレロ。

モーツァルトドン・ジョヴァンニ』 第1幕 第1場

幕が開くと、真っ暗な闇夜。

とある邸宅の前を、マントをつけた一人の男がぶつぶつボヤキながら、行ったり来たりしています。

彼は、ドン・ジョヴァンニの従者のレポレロ。主人の今夜の獲物は、このあたりの有力者である騎士長(騎士団管区長、コメンダトーレ)の令嬢、ドンナ・アンナ

彼女は、ドン・ジョヴァンニとも顔見知りの貴族、ドン・オッターヴィオと婚約中ですが、結婚前にモノにしてしまおうと、彼女の部屋にこっそりと夜這いをかけたところなのです。

レポレロは、門の前で見張り番。ボヤキの歌は、実にそれらしく、はまっています。フィガロのように、貴族の横暴を批判していますが、フィガロと違うところは、ただのグチのレベルにとどまっている、ということです。

第1曲 導入曲

レポレロ

夜も昼も苦労するのは、喜んでもくれぬご主人様のため。

雨にも風にも耐え忍び、食うにも寝るにもままならない。

俺も貴族になりたいもんだ!

召使いなんかもうまっぴらだ!

まったく、なんて立派な旦那様。あなたは美女と家の中。

俺は表で見張り番。

おや? 誰か来たぞ・・・

見つかっちゃまずい。(隠れて様子をうかがう)

ドン・ジョヴァンニが邸宅から飛び出してきますが、その腕はドンナ・アンナに強くつかまれています。

さすが騎士長の娘、気丈にも、自分を襲った犯人を逃がすまいとしているのです。音楽も、ふたりが引っ張り合いをしているさまをリアルに描写します。

ふたりが激しくもみ合っているうち、騒ぎを聞いた父親、騎士長が剣を取って助けにきます。

ドンナ・アンナ(ドン・ジョヴァンニの腕を離さず)

殺されたって、あなたを逃がさないわ!

ドン・ジョヴァンニ(顔を隠しながら)

バカな女だ!いくら騒いでも無駄だ、どうせ私が誰か分かるまい。

レポレロ(姿を現して)

えらい騒ぎだ!うちの旦那、またやらかしたな。

ドンナ・アンナ

誰か来て!召使いたち!悪者よ!

ドン・ジョヴァンニ

黙れ、私を怒らせると怖いぞ!

ドンナ・アンナ

悪党!

ドン・ジョヴァンニ

このアマ!

レポレロ

旦那の女遊びのせいで、とんだとばっちりを喰らいそうだ・・・

ドンナ・アンナ

私は絶対にあなたを許さない!

ドン・ジョヴァンニ

この女は危ない、執念深く俺を破滅させるつもりだ。

レポレロ

旦那の騒ぎに、俺まで巻き込まれるぞ。

(騎士長が剣を抜いて登場する。ドンナ・アンナは父の姿を見て、ドン・ジョヴァンニの腕を離し、助けを呼びに家の中に入る)

騎士長

娘を離せ、悪党め!決闘だ、剣を抜け!

ドン・ジョヴァンニ

失せろ、俺の相手にはならん。

騎士長

そう言って逃げる気だな!

レポレロ(陰で)

この場から逃げ出したいよ!

騎士長

勝負しろ!

ドン・ジョヴァンニ(剣を抜く)

哀れなやつだ、そんなに死にたいのか!

ふたりは戦いますが、年老いた騎士長は、ドン・ジョヴァンニの相手ではありません。

ドン・ジョヴァンニの剣が、ついに騎士長の体を貫きます。

致命傷を負った瀕死の騎士長、それを冷然と見つめるドン・ジョヴァンニ

モーツァルトの音楽は、死にゆく騎士長の姿を冷徹に描写します。

演出によっては、この場面で騎士長は悪者の正体を知り、驚愕しつつ死んでいきます。

村上春樹の新作『騎士団長殺し』の題材になった場面です。

騎士長(致命傷を負って)

ああ、助けてくれ!人殺しにやられた・・・!

息が苦しい、胸から魂が抜けていくのが分かる・・・

ドン・ジョヴァンニ

ああ、不運なやつだ・・・息苦しくて、胸から魂が抜けていくのが分かる・・・

レポレロ(陰で)

なんて悪行を!こいつはやり過ぎだ!

胸がどきどきして、こっちが気絶しそうだ・・・

(騎士長は息絶える)

ドン・ジョヴァンニ 第1幕 第2場

レチタティーヴォ・セッコ

ドン・ジョヴァンニ(低い声で)

レポレロ、どこにいる?

レポレロ

あいにくと、ここに。旦那は?

ドン・ジョヴァンニ

ここだ。

レポレロ

死んだのは旦那ですか?ご老人ですか?

ドン・ジョヴァンニ

バカ言うな!老いぼれだ。

レポレロ

お見事!いい仕事をふたつもなさって。娘を犯し、父親を殺し。

ドン・ジョヴァンニ

あいつが望んだから、かなえてやったまでだ。

レポレロ

じゃあ、アンナ様も犯されたがってたんですかい?

ドン・ジョヴァンニ

黙れ、俺を困らせるんじゃない。ついて来い、さもないとお前も同じ目にあわすぞ!

レポレロ

はいはい、もうしゃべりません。

(地面からマントと灯りを拾ってふたり退場)

ドン・ジョヴァンニ 第1幕 第3場

家に入ったドンナ・アンナが、婚約者のドン・オッターヴィオと、灯りをもった召使いたちとともに、駆け付けます。しかし、そこは凄惨な殺人現場と化していました。

レチタティーヴォ・セッコ

ドンナ・アンナ(決然として)

ああ、お父様が危ないの。早くお助けしなくては。

ドン・オッターヴィオ(剣を手にして)

お役に立つなら、私の全ての血を流しましょう。でも、悪者はどこに?

ドンナ・アンナ

このあたりだわ・・・

(遺体を見つける)

第2曲 レチタティーヴォ・アコンパニャート

ドンナ・アンナ

神様!なんてひどい光景が私の目の前に!

お父様、お父様、ああいとしい私のお父様!

ドン・オッターヴィオ

お父上・・・

ドンナ・アンナ

あの男が殺したんだわ! この血・・・この傷・・・このお顔・・・

もう死の色におおわれて・・・息もしていない・・・手足も冷たくなって!

私のお父様・・・いとしいお父様・・・大好きなお父様・・・

気が遠くなる・・・死にそう・・・

(気を失う)

ドン・オッターヴィオ(召使いたちに)

ああ!この人を助けるんだ。探してくれ、持ってきてくれ、嗅ぎ薬か気付け薬を。

さあ、ぐずぐずしないで。

(召使いが出ていく)

ドンナ・アンナ!私のいいなずけ!いとしい人!

悲しみのあまりに、かわいそうなこの人まで死んでしまいそうだ!

ドンナ・アンナ

ああ・・・

(召使いが戻ってくる)

気がついた!でも、その薬もたのむ。

ドンナ・アンナ

私のお父様!

ドン・オッターヴィオ

(召使いたちに)

その恐ろしいものを隠してくれ、この人の目から遠ざけてくれ。

(召使いたちが遺体を運び去る)

いとしい人よ・・・しっかりして・・・元気を出して・・・

ドンナ・アンナとドン・オッターヴィオの二重唱

ドンナ・アンナ(激しく絶望して)

消えて、ひどい人、消えて!

私も一緒に殺して。ああ、神様!私に命をくださった方が死んでしまったのだから。

ドン・オッターヴィオ

聞いてください、いとしい人よ、聞いて。

私を見てください。ここにいるのはあなたの恋人ですよ。

あなたのためだけに生きている男です。

ドンナ・アンナ

あなたなのね・・・ごめんなさい・・・いとしい方・・・

私、苦しくて、つらくて・・・

ああ、お父様はどこ?

ドン・オッターヴィオ

お父上は・・・つらい思い出は忘れるのです。

これからは、私があなたの夫とも父ともなりましょう。

ドンナ・アンナ

ああ、もしできるなら、この血の復讐をすると誓って!

ドン・オッターヴィオ

誓いますとも!あなたの目にかけて。

誓いますとも!私たちの愛にかけて。

アンナ、オッターヴィオ

ああ、なんという誓い!なんという酷い瞬間!

複雑な胸のうちを、心は波立ち、揺れ動く。

ドンナ・アンナ

この血の復讐をすると誓って!

ドン・オッターヴィオ

誓います、あなたの目と、私たちの愛にかけて!

(退場)

父が殺されるというアンナの悲劇を、モーツァルトの音楽は迫力たっぷりのドラマチックな音楽で描いています。

この音楽の中で、悲嘆の淵から、アンナは突然、一気に復讐の鬼へと変貌します。

優しい婚約者、オッターヴィオは、ただただアンナとの穏やかな結婚生活を望んでいるのですが、愛する人に迫られては、その仇討ちに協力しないわけにはいきません。

この温度差は、最終幕で表面化することになりますが、ここを注意深く聞くと、オッターヴィオが微妙にアンナにひきずられている音楽の伏線も感じられるのです。

ふたりの悲壮な誓いの歌でオペラの導入のドラマは終わり、次の場面へと移っていきます。

 

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