孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

スペインでは1003人‼︎ オペラ『ドン・ジョヴァンニ』(3)『カタログの歌』

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カタログの歌

モーツァルトドン・ジョヴァンニ』 第1幕 第4場

闇夜に〝騎士団長殺し〟をしでかしたドン・ジョヴァンニドンナ・アンナの家から離れた路上に、レポレロとともに逃れてきます。

ちょっと落ち着いたところでレポレロが『旦那様、お話があります』と、あらたまって言上し、ドン・ジョヴァンニは『何でも言え』と許します。

レポレロは『何を言っても怒らないって誓ってくださいますか?』と念を押し、ドン・ジョヴァンニは受け合ったので、謹んで申し上げます。『旦那様、あなたの生活は、ならず者のそれですよ。』と。

ドン・ジョヴァンニは案の定怒り出したので、レポレロは、『もう何もしゃべりません、息もしません!』。ダメだこりゃ。

機嫌を直したドン・ジョヴァンニは『これからさる貴婦人と逢う約束をしているのだ』と〝次の計画〟をレポレロに伝えます。

レポレロも『はい、新しい女はリストに加えるため、私も知っておく必要がありますからね』などと応じていると、ドン・ジョヴァンニは『シーッ。ちょっと待て、女の匂いがする』と、鼻をくんくんさせ、遠くから近づく人影を見つけて、美人のようだぞ!と、サバンナで獲物を見つけた豹モードになります。

レポレロは、旦那の嗅覚と眼力はいつもながら大したもんだ・・・とあきれながら、ふたりで陰に隠れて様子を見ます。

ドン・ジョヴァンニ』 第1幕 第5場

第3曲 ドンナ・エルヴィーラのアリアと三重唱『ああ、誰か教えて』

ドンナ・エルヴィーラ

ああ、誰か教えて、あのひどい人がどこにいるかを。

あの人を、恥ずかしいけれど、私は愛してしまったの。

でも、あの人は私に誠実ではなかった。

ああ、あの不実な男を見つけたら、そして私のところに戻らないのなら、ひどい目にあわせてやりたい!その心臓を引き裂いてやるわ。

ドン・ジョヴァンニ

聞いたか! 惚れた男に捨てられた女だな。

ドンナ・エルヴィーラ

あの男をひどい目にあわせてやりたい!その心臓を引き裂いてやるわ。

ドン・ジョヴァンニ

かわいそうに、かわいそうに。慰めてやろう。

レポレロ(傍白)

この手で1800人も慰めてきたんだからな・・・

ドン・ジョヴァンニが、慇懃に『お嬢様、お嬢様・・・』と声をかけ、顔を合わせたとたん、さすがの彼も思わず『ヤバい!』と声を上げます。

暗闇で分かりませんでしたが、彼女は、ドン・ジョヴァンニが過去に捨てた女、ドンナ・エルヴィーラだったのです。

彼女が追いかけていたのは、ほかでもない、ドン・ジョヴァンニでした。

彼女はまくしたてます。『ここにいたのね!!悪者、裏切者、嘘つき!!』

レポレロは、うんうん、旦那の的確な肩書だ、とうなずいています。

ドン・ジョヴァンニは『話を聞いてくれ・・・』と言い訳を試みますが、彼女はさえぎり、『あなたに何が言えるの!あんな悪事をしておいて?あなたは私の部屋に人目をしのんで入ってきて、まことしやかな誓いの言葉や口説き文句で私の心をとりこにしてしまった。私に愛の心を呼び起こさせてしまった、ひどい人!私を妻と呼んでくれたのに、天と地の聖なる掟にそむき、恐ろしく大きな罪を犯して、3日後にはブルゴスから去っていったの。私を捨て、私から逃げ、私を後悔と涙にひたらせた。それもあなたを愛してしまった罰・・・』とさんざんに嘆き、責めたてます。

ちなみに、騎士長殺しのとき、ドンナ・アンナの部屋に忍び込んだドン・ジョヴァンニが何をしたか、ふたりの間に何があったか、は、このオペラの大いなる謎なのですが、このドンナ・エルヴィーラのセリフには、ひとつのヒントがあります。

それは、ドン・ジョヴァンニは、決して強姦魔、レイプ犯ではなく、まず女性の心を落とし、合意のもとに征服する、ということです。

そして、征服後は容赦なく捨ててしまうのですが、現在の法律でも強姦は犯罪ですけど、合意があるとなると難しいところです。ドンナ・エルヴィーラのように、結婚がからめば慰謝料はとられるでしょうが、それでも逮捕されるわけじゃありませんから、余計にタチが悪いかもしれません。

さて、ドン・ジョヴァンニは、きまり悪そうに『俺にもわけがあってね、それはこの男に聞いてくれ』と、レポレロに押し付けます。

ドンナ・エルヴィーラがレポレロを『わけって何!?』と問い詰めている隙に、ドン・ジョヴァンニは姿を消してしまいます。

逃げられた・・・!と悔しがるエルヴィーラに、レポレロは『ほっておかれた方がいいですよ、愛するに値しない人です。』とさとします。

そして、1冊の帳面を取り出し、『あなたは、最初の女でもないし、最後の女でもない。この手帳をご覧なさい、あの方が口説いた女性のリストです。どの町、どの村、どの国も、あの方の恋の冒険の舞台なのです。』と言って歌うのが、有名な『カタログの歌』です。

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ドンナ・エルヴィーラにカタログの歌を歌うレポレロ(後ろに逃げるドン・ジョヴァンニ
第4曲 レポレロのアリア『奥様、これがうちの旦那の』(カタログの歌)

レポレロ

可愛い奥様、この目録をご覧なさい、あの方が口説き落とした女性のリストです。

作者はこの私。一緒に読んでみましょう。

イタリアでは640人、ドイツじゃ231人、フランスで100人、トルコで91人。

そして、このスペインでは・・・1003人!

その中には、田舎娘もいれば、都会の女も、メイドもいる。

伯爵夫人、男爵夫人もいれば、侯爵令嬢、王女様もいる。

あらゆる身分、あらゆる容姿、あらゆる年齢、おかまいなしです。

金髪の女には優しさを、栗色の髪の女には変わらぬ貞操を、亜麻色の髪の女には親切さをほめそやす。

冬には太った女が、夏にはやせた女がお好み。

大柄な女は堂々として立派だし、小柄な女も可愛いもんですなぁ。

年配の女性を手掛けるのは、リストに載せる楽しみのため。

でもあの方が一番熱中するのは、若い処女。

お金持ちだろうが、醜かろうが、美人だろうが、スカートさえはいていれば、あの方が何をするかは、あなたもご経験済みでしょう。

(退場)

歌の後半には、レポレロはすっかり調子に乗って自分に酔い、鼻歌交じりで、プレイボーイ気分で歌うのが、まったく凡夫の浅ましさです。

女性蔑視も甚だしいですが、人数はともかく、ドン・ジョヴァンニに近い男は現代にもたくさんいることでしょう。さる有名な脚本家が、同じようなリストを作っていたことを奥さんに暴露され、大変なスキャンダルになったこともありました。ホストに入れ込んで破産する女性も数知れません。現実世界にも通じるものがあるのが、このオペラの怖いところであり、魅力でもあるのです。

一人残された、かわいそうなエルヴィーラ。よりによって、こんな男に引っかかるなんて・・・という悔恨に暮れつつ、より一層の復讐の念を誓って、退場します。

次回、ドン・ジョヴァンニは新たな獲物をロックオンします。

 

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