孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

ドン・ファンの本領発揮、甘い誘惑のデュエット。オペラ『ドン・ジョヴァンニ』(4)『あそこで手を取り合おう』

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モーツァルトドン・ジョヴァンニ』 第1幕 第7場

舞台は一転、さわやかな朝になります。

若い村人の男女がたくさん集まり、騒いでいます。そう、きょうは村で結婚式が行われるのです。若い新郎、新婦を囲んで、村人たちが祝福しています。

第5曲 二重唱と合唱『若い娘さんたち、恋をするなら』

ツェルリーナ

若い娘さんたち、恋をするなら時期を逃してはダメよ。

胸の中で心がときめいたら、直す薬はこれだけよ。

ああ、なんて楽しいんでしょう!

合唱

ああ、なんて楽しいんでしょう!

ラララ、ラララ・・・

マゼット

移り気な若者たちよ、あっちこっちとフラフラするなよ。

その場限りのお祭りは長続きしないぞ。

でも、俺のほんとのお祭りはこれからだ。

ああ、なんて楽しいんだろう!

合唱

ああ、なんて楽しいんだろう!

ラララ、ラララ・・・

ツェルリーナ、マゼット

さあみんな、楽しくやろう。

歌おう、踊ろう、飛び跳ねよう!

なんて楽しいんだろう!

合唱

ああ、なんて楽しいんだろう!

ラララ、ラララ・・・

ドン・ジョヴァンニ 第1幕 第7場

そこに、ドンナ・エルヴィーラをうまくまいて合流した、ドン・ジョヴァンニとレポレロがやってきます。

ドン・ジョヴァンニは、たくさんの若い男女(特に女性)を見て、うれしくなってしまいます。レポレロもちゃっかり『これだけいれば、俺にも何とかなるコがいるかも』とつぶやいています。

ドン・ジョヴァンニは、貴族らしく『皆さん、こんにちは!どうぞ続けてください。婚礼ですかな?』 と挨拶します。

はい、私が花嫁です、とおずおず挨拶したのは、ツェルリーナという可愛い娘。ドン・ジョヴァンニは一瞬でロックオンします。

で、花婿は?と尋ねると、私です、と名乗り出たのがマゼットという若い農夫。

ドン・ジョヴァンニが『うむ、立派な若者だ。親愛なるマゼット君に、親愛なるツェルリーナ!気に入った、ひいきにしてやろう』と告げていると、村娘の中で悲鳴が。

見ると、レポレロが娘にちょっかいを出して、つねられています。

ドン・ジョヴァンニが咎めると、『私もひいきにしてやろうとしてたんで・・・』と言い訳。

ドン・ジョヴァンニはレポレロに命じます。『皆さんを私の屋敷にお連れしろ、チョコレートにコーヒー、ワインにハムをふるまうのだ!皆さんを楽しませてあげるのだ!』

そして小声で『マゼットを楽しませておくんだ、分かったな』。

レポレロは合点承知、ドン・ジョヴァンニはツェルリーナを別途エスコート。

マゼットはレポレロに連れていかれようとしますが、ツェルリーナと引き離される展開に、おずおずと意を唱えます。

マゼット『旦那様、ツェルリーナは僕なしではいられないんです・・・』

レポレロ『あんたの代わりに、旦那様がいらっしゃるんだ、あんたの役目は果たしてくださるから、大丈夫だよ』

ドン・ジョヴァンニ『そうだ。ツェルリーナは騎士が守るから安心したまえ。彼女は私があとで送り届けるから、先に行っていなさい。』

マゼットは不安で、でも・・・とツェルリーナを見ますが、なんと当人も、これまで味わったことのないドン・ジョヴァンニの紳士的なエスコートに、ポーッとしてしまっています。彼の強烈なフェロモンに抗える女性は少ないのです。

ツェルリーナ『心配しないで、私は騎士様が守ってくださるから・・・』

マゼット『なんだって?こん畜生め!』

ドン・ジョヴァンニ『まあまあ、ふたりとも、ケンカはやめて。マゼット君、よく考えなさい。早く行かないと、後悔することになるよ・・・』

剣をちらつかせて脅されたマゼットは、完全にブチ切れて、アリアを歌います。

第6番 マゼットのアリア『分かりました、旦那様』

マゼット

分かりました、旦那様、分かりましたよ。

頭を下げて、去ればいいんでしょう。それであなた様がご満足なら。

逆らうことなんかできません、あなた様は騎士なんだから。

疑うことなんかできません、あなた様はご親切だから。

(ツェルリーナに、傍白で)

悪い女!ひどい女だ!いつも俺を苦しませて!

(レポレロに)

行くよ、行きますとも!

(ツェルリーナに)

ここに残れ、残るがいい!ほんとに貞淑な女だな!

騎士様が、お前を貴婦人にしてくれるってさ。

(マゼット、レポレロ、村人たち退場)

こうして、マゼットは花嫁から引き離され、ドン・ジョヴァンニはツェルリーナとふたりきりになります。予定通り、ドン・ジョヴァンニはツェルリーナを口説きにかかります。

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ドン・ジョヴァンニ 第1幕 第7場

レチタティーヴォ・セッコ

ドン・ジョヴァンニ

やっとふたりになれたね、可愛いツェルリーナ。

あのバカ者を追い払えてよかったね。

ツェルリーナ

旦那様、あの人は私の夫です・・・

ドン・ジョヴァンニ

誰が?あいつが?私のような貴族、高貴な騎士が、黙って見過ごすことができようか。こんな美しい顔、甘く優しい顔を、あんな農夫が汚すなんてことを。

ツェルリーナ

でも、私あの人と結婚するって約束したの。

ドン・ジョヴァンニ

そんな約束には一文の価値もない。君は農婦になるような女ではない。別の運命が待っているよ。このいたずらっぽい眼、こんなにきれいで小さな唇、この穢れなくかぐわしい指に・・・。まるでクリームチーズのような肌触り、バラのような香りだ・・・

ツェルリーナ

あぁ・・・でもイヤ・・・

ドン・ジョヴァンニ

なんでだい?

ツェルリーナ

結局はだまされるわ。私知ってるの。貴族の方々って、女に対して誠実じゃないって。

ドン・ジョヴァンニ

それは平民たちのやっかみだ。貴族は眼を見れば、誠実かどうかわかる。さあ、時間がもったいない。今すぐ君と結婚しよう。

ツェルリーナ

あなた様が?

ドン・ジョヴァンニ

そうだ、この私がだ。あのちょっとした別荘は私のものだ。ふたりきりになろう。そこで結婚するのだ、いとしい人よ。

第7曲 小二重唱『あそこで手を取り合おう』

ドン・ジョヴァンニ

あそこで手に手を取り合おう。

あそこで君は、はい、と言うだろう。

ご覧、遠くはないよ。行こう、いとしい人よ。

ツェルリーナ

行こうかしら、いいえ、行っちゃだめだわ。胸がドキドキする。

本当に幸せになれるかしら。でもからかわれているのかも。

ドン・ジョヴァンニ

さあ、おいで、可愛い人。

ツェルリーナ

マゼットがかわいそう・・・

ドン・ジョヴァンニ

君の運命を変えてやろう!

ツェルリーナ

もうダメ・・・負けそう!

ドン・ジョヴァンニ

行こう、行こうよ!あそこでふたりは許し合おう。

ツェルリーナ

行こうかしら、やめようかしら。

ドン・ジョヴァンニ

あそこで君は、はい、と言う。

ツェルリーナ

だまされているのかも・・・

ドン・ジョヴァンニ

さあおいで、可愛い人。

ツェルリーナ

マゼットがかわいそう!

ドン・ジョヴァンニ

君の運命は変わるのだ!

ツェルリーナ

もうダメ・・・負けそう!

ドン・ジョヴァンニ

さあ、行こう!

ツェルリーナ

行きましょう・・・

二人

行こう、行きましょう、いとしい人よ。

この汚れない恋の苦しみを和らげるために。

(腕を組んで、別荘の方に歩き出す)

この有名なデュエットで、観客はドン・ジョヴァンニの実力を目の当たりにするのです。ツェルリーナがついに〝行きましょう〟(Andiam !) と言ってしまったとき、観客はあーあ、とため息をつくことになります。

この曲はもうひとつ、ドロットニングホルム宮廷劇場版を掲げておきます。ドン・ジョヴァンニホーカン・ハーゲゴート、ツェルリーナは私の大好きなソプラノ、バーバラ・ボニーです。

男が女性を口説き落とすシーンにモーツァルトが曲をつけたのは、もう1曲あって、次作のオペラ『コシ・ファン・トゥッテ(女はみんなこうしたもの)』第2幕の『フィオルデリージ陥落の二重唱』です。ここでも、口説き落とされた女性は、だまされているのです。いずれも女性の揺れ動く心が絶妙に音楽化されているのですが、両方だまされる場面であることは皮肉と言わざるを得ません。

さて、ツェルリーナはこのままドン・ジョヴァンニの毒牙にかかってしまうのか、それは次回に。

 

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