孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

あなたの悪事を拡散してやる!オペラ『ドン・ジョヴァンニ』(5)『信用してはいけません、不幸な方々』

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ドンナ・エルヴィーラに扮した、往年の大歌手ヤルミラ・ノヴォトナ

モーツァルトドン・ジョヴァンニ』 第1幕 第10場

ドン・ジョヴァンニに魅惑のメロディーで誘惑され、口説き落とされて別荘に向かう村の花嫁ツェルリーナ。その前に一人女が立ちはだかります。それは、ドン・ジョヴァンニにかつて捨てられ、追いかけているドンナ・エルヴィーラ

彼女は、ツェルリーナを口説いている様子を目撃し、救うために飛び出してきたのです。

ドン・ジョヴァンニはあわてて彼女に、これは気晴らしなんだ、と、言い訳のつもりでうっかり本当のことを言ってしまいます。

エルヴィーラは、気晴らしですって・・・?そうよ、気晴らしでしょうよ!酷い人!と叫びます。

ツェルリーナは、この方のおっしゃっていることは本当なのですか?とドン・ジョヴァンニに尋ね、彼は『彼女は私に惚れてるのだ。私はかわいそうに思って、愛しているふりをしているのさ』と取り繕いますが、エルヴィーラは怒りに満ちた歌を歌い、ツェルリーナを保護し、連れて去ってしまいます。

第8曲 ドンナ・エルヴィーラのアリア『消えてしまいなさい、裏切者は』

ドンナ・エルヴィーラ

消えてしまいなさい、裏切者は。

もう何も言わせないわ。

口は嘘だらけだし、目も当てになりません。

私の苦しみを見れば、信じられるでしょう。

私の不幸を見れば、不安を感じるでしょう。

消えて!消えて!裏切者は!

(ツェルリーナを連れて、退場)

ヘンデル風の、短くも鋭いアリアです。

まさに、ラブホテルに連れ込まれる寸前に危うく助け出された、というところです。

ドン・ジョヴァンニは、どうも、きょうは悪魔が私の楽しみを邪魔して喜んでいるようだ、何もかもうまくいかん・・・とひとり悪態をついて悔しがっています。

そこに、新たなるピンチが。

父騎士長を殺されたドンナ・アンナドン・オッターヴィオのふたりが通りかかり、ドン・ジョヴァンニを見つけたのです。

ドン・ジョヴァンニは、ふたりが、昨夜の犯人は自分だと知っているのでないか、と、ギクッとします。

しかし、ふたりは何も気づいていませんでした。それどころか、アンナはドン・ジョヴァンニに、力を貸してください、と頼みます。

ドン・ジョヴァンニはホッとして、『美しいドンナ・アンナ、全てをあなたに捧げます。あなたの平穏を乱した残酷な男は誰なのですか・・・?』とまた調子に乗り始めます。

そこに、ツェルリーナをマゼットのもとに送り届けたドンナ・エルヴィーラが戻ってきます。そしてふたりに、どなたか存じませんが、ご不幸な方々、この悪者は信用してはダメですよ!とヒステリックに騒ぎ立てるのです。

そして、これまでドン・ジョヴァンニを、友情あふれる紳士だと思って信用していたドンナ・アンナとドン・オッターヴィオの中に、疑念が生まれていきます。その心理の移り変わりを、ちょっとコミカルな要素も入れて描写した、素晴らしい四重唱になります。

ドン・ジョヴァンニ 第1幕 第12場

第9曲 四重唱『信用してはいけません、不幸な方々』

ドンナ・エルヴィーラ

信用してはいけません、不幸な方々、この悪人の心を。

この野蛮人は私を裏切り、さらにあなた方をも裏切ろうというのです。

ドンナ・アンナとドン・オッターヴィオ

おお、なんという気高い顔立ち!

なんと優しくも威厳のある方だろう!

この方の真っ青なお顔、涙には同情を禁じ得ない 。

ドン・ジョヴァンニ

かわいそうなこの娘は、気がふれているのです。この女とふたりにしてください。きっと気も鎮まるでしょう。

ドンナ・エルヴィーラ

ああ、不実な男を信じてはいけません!

ドン・ジョヴァンニ

気がふれているのです、心配しないでください。

ドンナ・エルヴィーラ

行かないで、まだここにいてください。

ドンナ・アンナとドン・オッターヴィオ

いったい誰を信じたらよいのか。

この方の中で、何か分からない苦しみが暴れまわっているが、いったいこの方はどんな不幸に遭われたのか、理解できないことがたくさんある。

ドンナ・エルヴィーラ

軽蔑、激しい怒り、いらだち、苦しみが私の中で暴れまわっているけれど、あの裏切者には、理解できないことがたくさんある。

ドン・ジョヴァンニ

何か分からない恐れが、私の中で暴れまわっているけれど、彼女には理解できないことがたくさんある。

ドン・オッターヴィオ

私はここを動きません、この事件の真相を知るまでは。

ドンナ・アンナ

気がふれた様子はないわ、この方の顔つき、言葉には。

ドン・ジョヴァンニ(傍白)

私がここを去ったら、何か疑われるかもしれない。

ドンナ・エルヴィーラ

あの憎たらしい顔から、腹黒い心を見抜かなければいけません。

ドンナ・アンナ(エルヴィーラに)

すると、あの方は?

ドンナ・エルヴィーラ

裏切者ですわ!

ドン・ジョヴァンニ

かわいそうな女だ!

ドンナ・エルヴィーラ

嘘つき!

ドンナ・アンナとドン・オッターヴィオ

なんだか疑わしくなってきた・・・

ドン・ジョヴァンニ(エルヴィーラに小声で)

静かにするんだ、さもないと、みんなが周りに集まってくるぞ。恥ずかしくないのか、悪評が立つぞ。

ドンナ・エルヴィーラ(大声で)

そんなことどうでもいいわ、悪い人!

もう私、恥も外聞もないの。

あなたの犯した罪と私の境遇を、みんなにバラしてやるわ!

ドンナ・アンナとドン・オッターヴィオ

あの声をひそめた話しぶり、あの顔色の変わりようは、あまりにもはっきりした証拠なので、私には確信がついた。

(ドンナ・エルヴィーラ退場)

エルヴィーラは、たくさんの女性を落としてきたドン・ジョヴァンニの中でも、結婚の約束までし、めずらしく3日も一緒にいたのですから、彼にとっても〝上玉〟で、その気高さはアンナやオッターヴィオにも感銘を与えています。

ドン・ジョヴァンニを社会的に抹殺してやろうとしたエルヴィーラの行動は、今で言えば〝SNSで拡散してやる〟といったところでしょうか。

ドン・ジョヴァンニの悪行にあきれているはずの観客も、この四重唱ではなぜか、ドン・ジョヴァンニの身になって、バレやしないかハラハラしている自分にも気づくのです。

ドン・ジョヴァンニはアンナに次のように告げて、エルヴィーラを追って去っていきます。

『あわれで不幸な女です!彼女に早まったことをしてほしくないので、後を追い、そばにいてやります。どうかお許しを、ほんとうに美しいドンナ・アンナ。もしお役に立つなら、私の家でお待ちしています。お友達よ、さようなら。』

ドン・ジョヴァンニが、あまり信用できない人物だと知ったアンナとオッターヴィオでしたが、自分には関わりはないと思っていました。

しかし、このドン・ジョヴァンニの甘い最後の言葉を聞いたアンナは、あることに気づいてしまいます。

それは次回に。

 

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