孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

いろんな思いが入り混じって、私の頭はめちゃくちゃだ。オペラ『ドン・ジョヴァンニ』(12)

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皆に袋叩きにあうレポレロ

モーツァルトドン・ジョヴァンニ』第2幕 第7場

ドン・ジョヴァンニの服装を着せられ、ドン・ジョヴァンニのふりをして、ドンナ・エルヴィーラと一緒にいるレポレロはどうなったでしょうか。

恋は盲目、といいますが、エルヴィーラはドン・ジョヴァンニがすっかり改心して、自分の元に帰ってきてくれたと信じ込み、レポレロを放してくれません。

レポレロは真っ暗な路地で、エルヴィーラの相手をしつつ、手探りで逃げる道を探しています。

そして迷い込んだのは、よりにもよって、ドンナ・アンナの家でした。

庭では、 ドン・ジョヴァンニに殺された父騎士長の葬儀が終わったと見え、喪服のドンナ・アンナを婚約者ドン・オッターヴィオが慰めています。

見つかったら間違いなく命はありません。

レポレロとエルヴィーラは、反対の出口から逃れたところ、運悪く、ツェルリーナマゼットに見つかってしまいます。

アンナとオッターヴィオも駆けつけ、飛んで火にいる夏の虫、とばかり、みんなでレポレロをドン・ジョヴァンニと思って殺そうとします。

レポレロは、殺されてはたまらないと、マントを脱いで、正体をあらわします。

あっけにとられる一同…。

第19曲 六重唱『暗い場所でたったひとり』

エルヴィーラ

こんな暗い場所でひとりになったら、どきどきするわ。怖くて死にそうよ。

レポレロ(傍白)

探せば探すほど見つからなくなるとは、全く呪われた門だ。

静かに、静かに、おっと、見つかった。ずらかるチャンスだ。

(門を間違えて入る。アンナとオッターヴィオが喪服姿で、灯りを持った召使いを連れて登場。レポレロとエルヴィーラはそれぞれ物陰に隠れる。)

オッターヴィオ

もう泣かないで、いとしい人。

心を安らかにしてください。

あなたの嘆きに、お父上もかえってお心を痛めておられるでしょう。

アンナ

せめて私にささやかな慰めだけは残してください、いとしい方。

死だけが、私の涙を終わらせることができるのです。

エルヴィーラ(小声で)

夫はどこにいったのかしら。

レポレロ(別の場所で、小声で)

見つかったら終わりだぞ!

エルヴィーラ、レポレロ

あそこに門がある。そっと、そっと、出ていこう。

(出ようとして、ツェルリーナ、マゼットに出くわす)

ツェルリーナ、マゼット

待て、悪党、どこに行く!?

アンナ、オッターヴィオ

あの悪者がいる…! どうしてここに!?

アンナ、ツェルリーナ、オッターヴィオ、マゼット

非道な男は死ぬがいい! 嘘つきは死んでしまえ!!

エルヴィーラ

これは私の夫です、どうかお許しください!

お許しを! お許しを!

アンナ、ツェルリーナ、オッターヴィオ、マゼット

ドンナ・エルヴィーラ!? 信じられない……

エルヴィーラ

どうか許して! 

アンナ、ツェルリーナ、オッターヴィオ、マゼット

いや、いや、無理です!死ぬんです!

(オッターヴィオが剣を抜いて殺そうとすると、レポレロはマントを脱ぎ、ひざまづく。)

レポレロ(涙声で)

どうかお許しを!お許しを!皆様方…

わたしゃ、あの男じゃない、この方が間違えているんです。

命ばかりはお助けください、お願いです!

アンナ、エルヴィーラ、ツェルリーナ、オッターヴィオ、マゼット

なんと! レポレロ!? まただまされたのか!?

なんたること…これからどうなるのだ?

まさに混乱の極み。一同、驚くやら、あきれるやら、この寸劇のフィナーレを歌います。まるで、ミュージカルのように楽しい重唱です。

真面目な場面とふざけた場面が、目まぐるしく入れ替わるこのオペラが、ドラマ・ジョコーソ(陽気なドラマ)であることを思い出させてくれます。

レポレロ

いろんな思いが入り混じって、俺の頭はめちゃくちゃだ。

こんな嵐を抜け出せたら、まったく奇跡というものだ!

アンナ、エルヴィーラ、ツェルリーナ、オッターヴィオ、マゼット

いろんな思いが入り混じって、私の頭はめちゃくちゃだ。

いったいきょうはなんという日!

思いもかけないことばかり!

(アンナのみ、召使いを連れて家の中に退場)

モーツァルトドン・ジョヴァンニ』第2幕 第9場

レポレロと分かったら分かったで、彼はみんなから集中砲火を浴びます。

ツェルリーナ『うちのマゼットを殴ったのはあなたね!?』

エルヴィーラ『ドン・ジョヴァンニの格好をして、ずっと私をだましたのね!?』

オッターヴィオ『その格好で、何を企んでいたのだ!?』

マゼット『みんなでこいつをぶっ殺しましょうぜ!』

レポレロは、必死で、弁解のアリアを歌います。

第20曲 レポレロのアリア『ああお許しを、皆様がた』

レポレロ

ああ、お許しを、皆様がた!

ああ、お許しを、私めを!

お怒りはごもっとも、でもあたしが悪いんじゃござんせん。

主人が権力をふるって、無理やりあたしに罪を負わしたんでさ。

(エルヴィーラに)

エルヴィーラ様、どうかお許しください! 事の次第はご存知ですよね?

(ツェルリーナに)

マゼットのことはなんにも知っちゃいませんよ。

(エルヴィーラを指して)

この方が証言してくださいますよ、もうかれこれ小一時間はこの方とご一緒でしたから。

(オッターヴィオに)

旦那様! あなた様には、何も申し上げることはございません。

何か怖くて…思いがけないことが…

外は明るく…中は暗くて…

出口はないし…扉に、壁と…

(間違って入ってしまった門を指さして)

あちらに行きまして…ここに隠れまして…

ああ、分かってきましたよ…

最初からここが分かっていましたら…

(そっと門に近づく)

とっとと逃げておりました…!

(逃げてしまう)

皆、レポレロの逃げ足の速さに呆れますが、彼は主犯ではありません。

アンナは、父を喪ったショックに加え、さらにバカバカしいことばかり続く有様に、打ちひしがれて家の中に入ってしまいました。

婚約者オッターヴィオは、残った皆に、ドン・ジョヴァンニがアンナの父を殺した犯人であることは明白であり、彼を告発し、復讐することを宣言します。

そして、自分が復讐に行ったことをアンナに伝えてほしい、というアリアを歌います。

第21曲 ドン・オッターヴィオのアリア『私の愛する人を慰めに行ってください』

ドン・オッターヴィオ

私の愛する人を慰めに行ってください。

あの美しい目から落ちる涙を止めてあげてください。

あの人の苦しみに、もうすぐ私が復讐すると伝えてください。

そして、彼の死の知らせを持って、私は戻るつもりです、と。

このアリアは、平凡な感じで始まりますが、だんだんと盛り上がっていき、華やかなテノールコロラトゥーラに彩られます。

前述しましたが、ウィーンでの再演に際し、オッターヴィオ役を演ることになった歌手フランチェスコ・モレッラが、このコロラトゥーラが難しいと嫌がったので、 モーツァルトは差し替えでなく、別のアリアを書いて第1幕に挿入しました。劇の筋を重視した現代の感覚では信じがたいことではありますが。

今の上演では、両方歌われています。

男声のコロラトゥーラは、英雄的な心情を表すのに使われます。しかし、オッターヴィオのそれは、どこか自己満足的で、自分に酔っているように聞こえるのも、野性的なドン・ジョヴァンニと対比された、この優柔でおぼっちゃま的な貴公子の性格を表して余りあります。

実際、オッターヴィオはこれだけ大げさに復讐に行く、と言っておいて、行ったのは司法官のところでした。警察に通報するだけ、いわば110番するのにこれだけの大アリアを歌ったのか、と滑稽にもなりますが、それもモーツァルトの狙いなのです。

音楽は素晴らしく、時々無性に聴きたくなるアリアです。

 

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