孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

闇夜の森に響く、孤独なフルート。バッハ『無伴奏フルートのためのパルティータ 』

f:id:suganne:20180225135638j:plain

フラウト・トラヴェルソ

古いフルート、フラウト・トラヴェルソ

バッハ無伴奏を、チェロ、ヴァイオリンの順に聴いてきましたが、最後はフルートです。

古楽器のフルートは、フラウト・トラヴェルソと呼ばれています。

それは、バロック以前にはフルートというのは縦笛、つまり今のリコーダーを指していたので、横笛の方を区別して〝横向きの(traverso)〟をつけて、〝横向きのフルート〟と呼んだのです。

構造は単純で、穴を指で押さえるだけです。キーがついたのは19世紀以降ですので、様々な制約がありました。

牛若丸や光源氏が吹いている、日本古来の横笛と基本的には同じです。

まず、指で穴をふさぐわけですから、どうしても音は小さくなります。リコーダーも同様ですが、改造が行われなかったので、音量の小ささから、宮殿の一室での演奏から大ホールでのコンサートに時代が移り変わった際、ついていけずに近代の大オーケストラには加われず、小学生の教育楽器になってしまいました。

フルートは改造がうまく行われたために、オーケストラの一員として残ることができましたが、それでも木管楽器の中では音量は小さい方です。

娘が吹奏楽部でフルートを担当していますが、ソロ以外では、金管楽器に押されてトゥッティでは哀しいかな、なかなか音を聴き取りにくいです。

ともあれ、リコーダーがいったん滅びたために、トラヴェルソという言葉が取れて、今では単にフルートと名乗ることができるようになりました。

また、フラウト・トラヴェルソには調性の制限もありました。ニ長調ト長調イ長調では比較的大きな音が出せるのですが、それ以外では不安定で弱々しい音になりがちです。

そのため、モーツァルトは表現の幅が狭いためにフルートが嫌いだったと言われています。そうは言いながらも素敵な曲を書いているのですが。

www.classic-suganne.com

しかし、音量は小さいですが、今のフルートよりも陰影の富んだ繊細な響きが出せるので、古楽器ブームの中で数多くの名手が出て、人々を魅了しています。

思えば、音楽の鳴る場所が、宮殿の一室から大コンサートホールに変わり、そこで音量を大きくするために楽器の改造が行われましたが、今は音楽消費の中心がレコード、CD、そしてデータ配信になり、音量は自分の好みに自由自在に調節できるようになったので、古い楽器の魅力が見直された古楽器ブームは、時代の流れの当然といえるかもしれません。

無伴奏のフルート曲

さて、バッハの無伴奏フルート曲ですが、このパルティータ1曲しかありません。これも、チェロやヴァイオリンの無伴奏曲と同じ、ケーテン時代の作といわれています。

他の無伴奏曲と同様に、大変な難曲で、誰がこれを演奏できたのか?ということが研究上の謎になっていますが、ケーテンのような田舎の小宮廷にはとてもいるとは思えず、近くの大都市、ザクセン選帝侯(当時はポーランド王も兼任)の宮廷がある、ドレスデンの奏者、ビュファルダンのためではないか、と言われています。

無伴奏ヴァイオリンの方も、バッハ自身のための作曲でないとすれば、同じくドレスデン宮廷楽団の名手ビゼンデル以外にはいないのではないか、という学説があります。

ただ、息継ぎのことを考えていないのではないか、としか思えない部分があり、またバッハの他の曲に似ている部分も多いことから、最初はフルートのために作曲されたのではないのではないか、という説も根強くあります。

しかし、編曲であったとしても、バッハがこれをフルートのために作曲したのは間違いありませんので、当時の奏者の名人芸は現代人の想像以上のレベルであったということでしょう。少なくとも、現代でも演奏できる人がいるわけですから。

では、夜明け前の闇夜のしじまに響くかのような、神秘の音色をお楽しみください。

 

バッハ:無伴奏フルートのためのパルティータ  イ短調 BWV1013

J.S.Bach : Sonata for Flute Solo in A minor, BWV1013

演奏:マルク・アンタイ(フラウト・トラヴェルソ)Marc Hantai

第1楽章 アルマンド

いったいどこで息継ぎをすればよいのか、というようなアルペジオ(分散和音)が続きます。最後のフレーズが次のフレーズの始まりになっているのが、さらに演奏を困難にしています。しかし、どこまでも切ない音色が、夜の森に響くかのような、印象深い曲です。最後の長音にもしびれます。

第2楽章 コレンテ

いつもはフランス語でクーラントと書くところ、わざわざイタリア語で表示しているということは、テンポを速めにイタリア風に演奏せよ、というバッハの意図をうかがわせます。16分音符の連続はまさにフルートの名人芸の極致で、聴いていてため息が出ます。無伴奏曲でバッハは、それぞれの単楽器の実力の限界に挑戦しているかのようです。

第3楽章 サラバンド

はじめて、フルートの十八番であるカンタービレな魅力を活かした曲になります。トラヴェルソの抒情豊かな歌を心行くまで味わえます。

第4楽章 ブレー・アングレーズ

ブレーはフランスのヴェルニュ地方に起源をもつ舞曲なのですが、わざわざアングレーズ、すなわち〝イギリス風の〟とつけているのが不思議です。イギリスは、この時代のイメージでは大陸の洗練された文化とは対極の、ヨーロッパの田舎ですから、農民のダンスのような素朴さを表現しているようです。これも演奏に大変な技術を要する難曲ですが、聴く方は、フルート1本とは思えない、楽しく充実した響きを楽しむことができます。

 

ポチっとよろしくお願いします!

 


にほんブログ村


クラシックランキング