孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

貴婦人の居眠りを覚ます?びっくりシンフォニー。ハイドン『交響曲 第94番 ト長調〝驚愕〟』

f:id:suganne:20180321210210j:plain

ヴァン・スヴィーテン男爵(1734-1803)

貴婦人は居眠りをしたか

ハイドンシンフォニーザロモン・セット(ロンドン・セット)』の2曲目は、交響曲 第94番 ト長調〝驚愕〟』です。

数あるハイドンのシンフォニーの中でも、最も親しまれている曲で、代表作といってもいいでしょう。

音楽は4楽章とも円熟の極致ですが、第2楽章アンダンテが有名な〝驚愕楽章〟です。

ゆっくりと落ちついたテーマがピアノ(弱音)で始まり、ピアニッシモ(最弱音)で繰り返したあとに突然、ティンパニを伴った全合奏(トゥッティ)によるフォルテの「驚愕音」が鳴らされ、すこぶる驚かされるため、初演後すぐに〝サプライズ・シンフォニー〟と呼ばれるようになりました。

ふつう、第2楽章は静かでゆっくりとした緩徐楽章で、いきなりこんな音が鳴ることはないのですから、当然です。

一度聴いてしまえば、身構えることができますが、初めて聴くと心臓に悪いです。

ハイドンがこの曲を作曲しはじめたときのスケッチ(草稿)にはこの打撃音は無いので、後からの思い付きで加えられたのは間違いないです。

それについては、ハイドンが第2楽章で居眠りを始めるロンドンの貴婦人たちを苦々しく思い、驚かしてやろうとこのようないたずらを思いついた、というのが当時からいわれていました。

しかしのちに、本当ですか?とハイドン本人に突っ込んだ人がいました。

するとハイドンはムッとして『私のシンフォニーで居眠りをする人なんかいなかった。ロンドンでは私の曲は全ての楽章が熱狂的に迎えられた。』と答えたそうです。確かに、ハイドンにとっては失礼な話です。

確かに、聴衆の熱狂ぶりは当時の新聞にも書き立てられ、証言も多数ありますので、居眠りはなさそうです。ましてや、貴婦人が人前でそんなはしたない真似をするとも思えませんから、居眠り対策ではなかったでしょう。

でも、ハイドンが聴衆の意表を突こうとしたのは間違いありません。

ハイドン交響曲 第94番 ト長調 Hob.Ⅰ:94  

F.J.Haydn : Symphony no.94 in G major, Hob.Ⅰ:94

クリストファー・ホグウッド指揮アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック

Christopher Hogwood & Academy of Ancient Music

第1楽章 アダージョーヴィヴァーチェ・アッサイ

序奏は木管の癒されるハーモニーから始まり、弦楽がそれに答えます。それが繰り返されますが、2度目は短調で暗い陰を出し、続く主部の明るさを引き立てます。

そうして導入された主部は、うきうきと両手を振って歩き出すような軽快な音楽です。しかしはしゃぎすぎず、浮かれすぎず、高貴な香りも漂わせる、ハイドン円熟の極致です。

第2楽章 アンダンテ

いよいよ有名なびっくり楽章です。変奏曲になっており、親しみやすいテーマと4つの変奏、そしてコーダ(終結部)からなっています。テーマの2度目の繰り返しのあと、打撃音が鳴るのは前述のとおりです。当時のシンフォニーの愛称には、『ティンパニの打撃つき』というものもあります。〝サプライズ〟と言われるのは、緩徐楽章で通常使われないトランペットとティンパニが使われるから、という説もありますが、これはモーツァルト交響曲第36番〝リンツの先例があります。しかしこれも例外的だったため、ハイドンモーツァルトのアイデアを、まだ知られていないロンドンで試してみたのかもしれません。そもそも、その〝リンツ〟はモーツァルトの曲の中でもハイドンの影響が濃いといわれていますので、天才がお互いに影響し合っているのが興味深いことです。変奏も素晴らしく、激しさも加えて展開していきます。人気の理由は打撃音ではなく、曲そのものの素晴らしさにあります。とても居眠りなどしていられないでしょう。

第3楽章 メヌエット:アレグロ・モルト

メリーゴーランドに乗っているような、楽しいメヌエットです。弦楽とファゴットで奏でられる中間部のトリオも抒情豊かで、思わず口ずさみたくなります。

第4楽章 フィナーレ:アレグロ・ディ・モルト

弦楽のみでひそやかに、情熱を込めたテーマが奏でられ、2回目にはフルートが加わりますが、この時点ではまだ卵の状態。ほどなく一気に孵化して、疾走を始めます。まさに手に汗握るような盛り上がりを見せる、素晴らしいフィナーレです。終結部でもティンパニの打撃が轟き、今聴いても新鮮なシンフォニーですから、どれだけ当時の聴衆を熱狂させたか、想像に余りあります。

演奏もさまざま

びっくりシンフォニーはハイドンのユーモアたっぷりの曲なので、演奏者も遊んでみたくなるのでしょう。でもミンコフスキのこの演奏はちょっとやり過ぎで、こういうのは私は好きではないですが、まあ一度お聴きください。驚きますよ。

また、びっくり音も、どこまで大きくするかは考えどころです。あまり大きいと、ちょっと安心して聴けなくなります。そういった意味で、メインで掲げたホグウッドの演奏が一番常識的で、愛聴しているのですが、こちらのロイ・グッドマン指揮のハノーヴァー・バンドの演奏が、私の知る限り、古楽器での演奏では一番大きな打撃音です。娘が赤ん坊の頃、この演奏をかけていたら、揺りかごから飛び上がるほ ど驚いてしまい、妻に怒られました。娘が長じてからも大きな音を嫌うのはそのトラウマかもしれません…。まったく、ひどいことをしたものです。

この演奏は変奏ごとにトラックが分かれています。

またムッとしたハイドン

ハイドンはこの曲に自信を持っており、実際大人気だったのですが、後年、またハイドンをムッとさせた人がいました。

ハイドンはロンドンで、先輩ヘンデルオラトリオに触れ、その人気ぶりに自分でも作ってみようと、ヘンデルが作曲しなかったミルトンの『失楽園』を元にしたオラトリオの台本を持ち帰り、ウィーンに帰ってから作曲しました。

これが有名なオラトリオ天地創造』ですが、素晴らしい傑作だったため、第2弾を、という声が上がり、じゃあ自分が台本をつくっちゃる、と手を上げた貴族がいました。それが、モーツァルトの保護者として有名で、映画『アマデウス』にも登場するヴァン・スヴィーテン男爵です。

男爵は、モーツァルトにバッハやヘンデルを紹介し、影響を与えたことは以前ご紹介しました。

男爵は大変な音楽愛好家で、自身も作曲もしていましたが、才能としては殿様の道楽の域を出ませんでした。

しかし、大パトロンですから、ハイドンも断れなかったのですが、男爵の台本はしょせんアマチュア、あまり出来の良いものではなく、ハイドンを作曲上大いに苦しめました。

そうは言ってもハイドンもプロですので、どうにかこうにか完成させたのがオラトリオ『四季』です。

さすがハイドン、これも『天地創造』と並ぶ傑作となり、ハイドンの2大オラトリオとして讃えられていますが、ハイドンは『四季』に全力を注いだ結果、以後の創作力が失われてしまった、と嘆いています。

この作曲中、ハイドンはびっくりシンフォニーをめぐって男爵と衝突したのです。

『四季』は、農民が主役となって、1年の四季の移ろいを歌い上げるのですが、春が来て農夫が喜び勇んで畑に種を播く歌があります。

ハイドンは、ここで、聴衆へのサービスとして、自分の『びっくりシンフォニー』を引用しました。モーツァルトが、『ドン・ジョヴァンニ』のフィナーレで、前作『フィガロの結婚』の人気曲『もう飛ぶまいぞ、この蝶々』を引用して受けたのを意識したのかもしれません。

しかし男爵は『それなら、もっと知られている他の作曲家のオペラの有名曲を使うべきだ。』と言ったのです。

ハイドンはブチ切れて『私のアンダンテも大変よく知られています!!』と怒り、男爵の意見を聴き入れませんでした。

ハイドンに対して、なぜみんな失礼なのでしょうかね…

では、その歌もお聴きください。

ハイドン:オラトリオ『四季』

第1部『春』第4曲 アリア『農夫はいま、喜びいさんで』

ジョン・エリオット・ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

テノールアントニー・ロルフ=ジョンソン

 

ポチっとよろしくお願いします! 


にほんブログ村


クラシックランキング