孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

この上なく甘美な、真夏の婚礼の音楽。モーツァルト『ハフナー・セレナード ニ長調 K.250』

f:id:suganne:20180722182844j:plain

ザルツブルク・ミラベル庭園

200回を迎えました。 

おかげさまでこのブログも今回で200回を迎えることができました。

読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます。

区切りの曲は、私としても特別な思い入れのある、モーツァルト〝ハフナー・セレナード〟です。

特別といっても、私が初めて買ったCDの曲、というだけのことなのですが。

私がモーツァルトにのめり込んだ、もう30年前になろうかという高校時代は、ちょうどレコードに代わってCDが普及し始めた頃でした。

レコードは繊細で、ちょっと扱いを手荒にしようものなら、すぐ傷がついて、同じ場所から針が先に進まなくなってしまいます。

お気に入りのレコードに限って、頻繁に聴くものですから、傷がつきがちで、たまったものではありません。高価なレコードにつけてしまった傷は、永遠に癒せない心の傷ともなったのです。

それに比べてCDの頑丈なこと。よほどなことがなければ針飛びはありません。

また、聴きたい楽章を取り出して聴いたり、飛ばしたりできるのも、まさに〝神〟の道具としか思えませんでした。

レコードもそうそう買えるものでもないので、もっぱらはFM放送をテープに録音したものを聴いていましたが、テープはなおさら頭出しがやっかいでした。

何度も聴いていると、からまったりもして…。

こんなことは当時としては当たり前でしたが、まるで戦前の話でもしているようで、隔世の感があります。

初めて買ったCD

さて、音楽ばかり聴いていたものですから、大学受験に失敗し、浪人記念?に初めてのCDプレイヤー、ソニーのミニコンを買ったのです。

そして買った初めてのCDが、この〝ハフナー・セレナード〟でした。

数あるモーツァルトの中から、なぜこの曲を選んだのか覚えていないのですが、それこそ繰り返し、繰り返しききました。

現役合格した同級生が大学生活を謳歌している中、浪人のつらさを大いに慰めてくれました。とくに、第6楽章のアンダンテはこの上なく私を癒してくれたのです。

私は堪え性が無く、10分机に向かっては、ベッドに転がり込んで1時間音楽を聴く、という有様で、受験勉強の妨げになること甚だしかったのですが、メンタルだけは健康に維持されたのです。

大学入学後はバイト代をつぎ込んでCDを買い漁っていましたが、友人から『CDは今にすたれてMDになるぞ』などと脅かされました。

せっかく買ったCDが、かつてのビデオのベータのように再生できなくなる可能性にゾッとしましたが、幸いにしてその後CDはずっと保ちましたね。

今ようやく、データ配信定額聴き放題サービスに取って代わられようとしています。

それが、このブログの第1回〝Apple Musicの衝撃〟になります。

www.classic-suganne.com

真夏の夜の婚礼音楽

このセレナードは、前回の〝セレナータ・ノットゥルナ〟と同様、モーツァルトマンハイム・パリ旅行に出る前、ザルツブルクの宮廷作曲家時代1776年に作曲された作品です。

モーツァルト家と親しかったザルツブルクの富豪、ハフナー家の当主、ジークムント・ハフナー2世の依頼で、その妹マリア・エリザベートの結婚式にあたり、その前夜祭の出し物として作曲されました。

ジークムント・ハフナー2世の父は4年前に亡くなっていましたが、ザルツブルク市長を務めた有力者でした。

以前、モーツァルトがウィーンに出た後、父レオポルトから、そのハフナー2世が貴族に列せられることになったため、祝いのセレナードを書くよう頼まれ、超多忙の中で出来たはじから1楽章ずつ送った話をご紹介しましたが、それは後に人気曲『シンフォニー 第35番 ニ長調 K.385〝ハフナー〟』となりました。

モーツァルトには〝ハフナー〟と名付けられた曲が、シンフォニーとセレナ―ドの2曲あるというわけです。

演奏はちょうど今頃の季節、7月21日の夜でしたが、完成したのは例によって前日でした。

当時のオーケストラは初見が当たり前のようで、実際にどんなレベルの演奏だったのか気になりますが、当時の記録からすると、うまくいったようです。

さすが、小都市とはいえ、音楽の町ザルツブルクです。

場所はミラベル庭園の近くにある『ロレート夏の家』というハフナー家の別邸の庭でした。

婚礼前夜。かがり火に照らされた外の舞台で演奏されたこの華やかな曲は、いかに素晴らしく夏の夜を彩ったことでしょうか。

この曲は全8楽章という大規模なものです。

特に第2楽章から第4楽章は、実質的にヴァイオリン・コンチェルトになっています。

セレナードは機会音楽ということで、シンフォニーより軽いイメージもありますが、当時の認識は逆で、シンフォニーは始まりの序曲、いわば前菜であり、セレナードは様々は楽曲を組み合わせた、もりだくさんの主菜だったわけです。

後の〝ハフナー・シンフォニー〟ももともとはセレナードであり、その中から4楽章を抜粋してシンフォニーに仕立てたのですが、元の曲は失われてしまいました。

編成は、フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2に、ヴァイオリン2部とヴィオラ2部にバスです。

ただし、フルートとオーボエは重ねては使われませんので、おそらく同じ奏者が持ち替えたと思われます。また、バスもおそらくコントラバスのみで、チェロは使われません。

オーケストラ自身が、マーチで入場!

また、セレナードの前後に、マルチア(行進曲) ニ長調 K.249 が演奏されます。

これは当時のセレナードの慣習で、聴衆の待つなか、オーケストラ団員はこの曲を演奏しながら、文字通り行進しつつ入場してきて、譜面の置かれた舞台に着席するのです。

もちろんマーチは暗譜しなければなりませんから、前日にようやく完成させたモーツァルトに、さずがに団員たちも『勘弁してくれよ~』とぼやいたことでしょう。

曲が終わったあとも、同じ曲を奏でながら団員は退場していきます。まさに〝催し物〟という感じですね。

私は一度、マーチを当時と同じように演奏しながら入場してくる演出のコンサートを聴きましたが、すごく楽しかったです。

モーツァルト:セレナード 第7番 ニ長調 K.250 (248b)〝ハフナー〟

W.A.Mozart : Serenade no.7 in D major, K.250 (248b) “Haffner”

演奏:フランス・ブリュッヘン指揮 18世紀オーケストラ

Frans Brüggen & Orchestra of the 18th Century

行進曲 ニ長調 K.249

セレナード本体とは音楽的なつながりはなく、キリッとした付点リズムのトゥッティと、管楽器の優しいトリオの強弱のコントラストが楽しいマーチです。これから始まる音楽の饗宴への期待に、胸をわくわくさせてくれます。

第1楽章 アレグロ・マエストーソーアレグロモルト

冒頭、3回の和音のあと、奔馬が駆けてくるようなリズムをヴァイオリンが刻み、魅了されます。序奏に続き、ヴァイオリンが奏でるメインテーマはしびれるくらいにカッコよく、颯爽としています。時々優しい抒情も挟みつつ、息をつかせぬほどに元気よく、めくるめく世界を現出します。単なる祝祭音楽ではない、緊張感にあふれた真剣な音楽になっていて、何度聴いても聞き飽きることがありません。終わり方も、冒頭の和音をもってくるという、気の利いた演出です。

第2楽章 アンダンテ

どこまでも優雅なアンダンテで、ゆっくりと入ってくるソロ・ヴァイオリンが繊細に歌い上げます。美しく着飾った花嫁が、喜びとともに、少しマリッジブルーものぞかせるかのようです。これに続く、3つの協奏楽章では、独奏ヴァイオリンに合わせて、オーボエの代わりにフルートが用いられています。

第3楽章 メヌエット

この華やかな曲の中で、唯一の影となっているト短調メヌエットです。その高貴な陰影は、ずっと後のト短調シンフォニーのメヌエットを思わせます。トリオではソロ・ヴァイオリンが優雅に歌い、管楽器たちが伴奏します。次のロンドの輝かしさを引き立てる役ももった楽章です。

第4楽章 ロンド:アレグロ

ソロ・ヴァイオリンが名人芸を繰り広げる、コンチェルト・ロンドです。フリッツ・クライスラー(1875-1962)がヴァイオリン独奏曲として編曲し、ヴァイオリン教室でもおなじみの定番曲となっています。ロンドのテーマは5回演奏され、その間に変奏が4回行われます。その表情の豊かさにはまったく圧倒されます。ヴァイオリンは縦横無尽にはしゃぎまわり、この曲前半のクライマックスを形作っています。

第5楽章 メヌエット・ガランテ

わざわざ〝優美なメヌエット〟と銘打たれており、前曲の騒ぎの興奮を冷ますかのように、襟を正した、気品あふれるメヌエットです。トリオでは弦のみで、2部に分かれたヴィオラが切ないメロディを奏でるのが、強い印象を残します。

第6楽章 アンダンテ

私の大好きな、かけがえのない楽章です。さりげなく始まりますが、聴くほどに優しく、心に沁み入っていきます。楽想は自由で、まるで即興曲のように、変奏しながら語りかけてくるのです。オーボエの歌は切ないばかりに甘美。ここにあふれている思いは言葉では言い表せません。

第7楽章 メヌエット

前曲の夢を醒ますかのような、きっぱりとしたメヌエットです。オーボエの代わりをフルートが務めます。トリオがふたつあり、最初のものでは、ゆったりとたゆたう弦に、フルートが美しく和します。第2トリオでは、トランペットがマーチのように、勇ましいリズムを刻みますが、非常に味わい深いものです。

第8楽章 アダージョアレグロ・アッサイ

 いよいよこの大曲もフィナーレを迎えます。ゆっくりとした、万感胸に迫るような序奏のあと、元気いっぱいの、かつスケールの大きな終楽章がスタートします。弦が刻む8分音符に載せて、管楽器が時にその豊かな顔をのぞかせます。まさに花火大会の終わりのような盛り上がりをみせて、前夜祭を華やかに締めくくるのです。

 

きょうは7月24日ですが、この曲が演奏されたのが7月21日、ハフナー家の婚礼は翌7月22日。私の結婚式は7月23日で、真夏の婚礼ということでも、この曲には格別な縁を感じています。

www.classic-suganne.com

 

ポチッとお願いします。


にほんブログ村


クラシックランキング