孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

滑らかな喉に捧げたアリア。モーツァルト:オペラ『後宮からの誘拐』あらすじと対訳(4)『第1幕のフィナーレ』

太守とコンスタンツェ登場!

モーツアルトオペラ『後宮よりの誘拐』、あらすじと対訳の4回目です。

ベルモンテコンスタンツェとの再会を夢見て、ポーっとなっているのを、ペドリロはあわてて隠れさせます。

太守(パシャ)セリム一行が、舟遊びから帰ってきたのです。

豪華なトルコの衣装を着た親衛隊(イェニチェリ)が太守を護りながら、歌います。

合唱の前に行進曲があって、遠くから近づいてきて、親衛隊が整列してから太守を迎える合唱になるのですが、この行進曲は長い間行方不明で、近年になって発見されたのです。

この行進曲がない頃は、親衛隊と太守は数小節の間に舞台に登場、勢ぞろいしなくてはならず、演出家泣かせでした。

オペラ『後宮からの誘拐』第1幕第6場

W.A.Mozart : Die Entführung aus dem Serail K.384

演奏: ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団

John Eliot Gardiner & The English Baroque Soloists , The Monteverdi Choir

第5曲a 行進曲

第5曲b 合唱『偉大な太守を讃えて歌え』

このような盛り上げ方はモーツァルトの大得意とするところです。

自身も手紙に次のように書いています。

トルコ親衛隊の合唱は、そのような合唱として、これ以上は望めないものです。短くて楽しい、それこそウィーン人向きに書かれています。(1781年9月26日 父レオポルト宛)*1

合唱

偉大な太守を讃えて歌え

熱い歌よ、響け

我らの喜びの歌よ、浜辺にこだませよ!

4人の独唱

涼しい風よ、彼に向かって吹け

さざめく波よ、おだやかに鎮まれ!

交わす合唱よ、彼を迎えて歌え

彼の心に愛の喜びを歌え

オペラ『後宮からの誘拐』第1幕第7場

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合唱が終わると親衛隊は退場し、コンスタンツェとふたりっきりになると、太守セリムはコンスタンツェを優しく口説きます。

この美しい夕べ、うっとりするような景色、素晴らしい音楽、そしてお前は私の愛に包まれている。私はお前に無理強いもできるのだ、しかしそうはしたくない、私は納得づくでお前を得たいのだ、と。

これに対し、コンスタンツェは、あなたを尊敬していますし、一生お仕えしたいと思っています、でも、でも、愛することだけはできません…と泣き崩れます。

訳を話してごらん、と優しく尋ねるセリム。これに対し、コンスタンツェはアリアで答えます。

これが、コンスタンツェの最初のアリアで、台本を受け取ってすぐ出来た3曲のひとつです。

これもモーツァルトの手紙を引用します。

コンスタンツェのアリアは、ぼくがカヴァリエリ嬢の滑らかな喉に捧げたものです。『別れが私の不安な運命です。そして今、私の目には涙があふれます』という感じを、南欧のブラヴール・アリアに許される限り、表そうと努めました。『さっさと』を『早く』に変えました。つまり、『それにしても、なんと早く私の喜びは消え去ることか…』となります。わがドイツの詩人たちはどう考えるか、ぼくには分かりません。たとえ彼らが演劇をーーーオペラに関する限りーーー理解しないとしても、せめて人々に、目の前にいるのが豚でもあるまいし『さっさと豚め』というような言い方をさせないで欲しいものです。(1781年9月26日 父レオポルト宛)

コンスタンツェには、第2幕で大アリアが、それも異例の2曲続けてありますが、これはそのお披露目の歌といえるでしょう。

その高音の美しさには、思わず背筋がジーンとなってしまいます。

カヴァリエリ嬢の〝滑らかな喉〟を想像しながら聴いています。

第6曲 コンスタンツェのアリア『私は恋をして幸せでした』 

コンスタンツェ

ああ、私は恋をして幸せでした

愛の苦しみを知りませんでした

愛するひとに操を誓い

私の心の全てを捧げたのです!

でも、なんと早く私の喜びは消え去ったとこでしょう

別れが私の運命となったのです

目は涙にあふれ、身は悲しみに包まれています

オペラ『後宮からの誘拐』第1幕第8~10場

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セリムは不機嫌そうに歌を聴いており、コンスタンツェが歌い終わると、これ以上私の善意を悪用してはならない、お前は私の手中にあるのだ、と厳しく言います。

コンスタンツェは、もっと時間をください、と懇願して去っていきます。

ひとり残ったセリムは、彼女の毅然とした態度に、さらに好きになった、どうして暴力を振るったりできようか…と独白しています。

そこにペドリロが参上し、太守にベルモンテを引き合わせ、この者はイタリアで建築を学び、太守の威望をきいて、はるばるお仕えしたいと参った建築技師でございます、と紹介します。

セリムは微笑んで、気に入った、君の腕前を見せてもらおう、と仕官を許し、ペドリロに面倒を見るよう命じて去っていきます。

ペドリロとベルモンテはうまくいった、と喜んで宮殿に入ろうとしますが、仁王立ちで門に立ちふさがったのはオスミン。

人の好い太守はだませても、俺の目はごまかせないぞ、宮殿には入れるものか、去れ!とどなります。

ペドリロとベルモンテは、おいおい、太守が正式に雇ってくださったんだ、お前なんかに関係ない、中に入れろ、ともみ合いになります。

結局、ふたりは太って鈍重なオスミンを翻弄して、まんまと門の中に入っていくのです。

この三重唱もモーツァルトが台本を受け取ってすぐインスピレーションをかきたてられて作った自信作で、大いに盛り上がる傑作です。

これもモーツァルトの言を紹介します。

さて三重唱、第1幕の終曲です。ベドリロは、コンスタンツェと庭で会う機会を作ってやろうとして自分の主人を建築家に仕立て、パシャはそれを召し抱えます。管理人のオスミンは、そんなこととはつゆ知らず、無骨者で大の外国人嫌いなので、無作法に構えて、彼らを庭へ通そうとしません。お見せした始めのところは、ごく短いのですが、歌詞がきっかけを与えてくれたので、それをかなり巧く三声にして書きました。しかし、すぐその後で、長調ピアニッシモで始まるのですが、これは非常に早くやらなければなりません。そして結びは大騒ぎになります。それこそ幕の終わりに必要なことの全てです。騒ぎは大きいほどよく、短ければ短いほどいいのですーーー聴衆の喝采する熱が冷めないように。(1781年9月26日 父レオポルト宛)

こうしたドタバタのフィナーレもモーツァルトの十八番で、この曲を皮切りに、『フィガロの結婚』第2幕、『ドン・ジョヴァンニ』第1幕、『コジ・ファン・トゥッテ』第1幕のそれぞれのフィナーレに発展していくのです。

第7曲 ペドリロ、ベルモンテ、オスミンの三重唱『失せろ!失せろ!』

オスミン

失せろ!失せろ!失せろ!

急いでとっとと消えろ!

さもないとムチで懲らしめてやるぞ!

ベルモンテ、ペドリロ

おい!おい!おい!

我々にそんな扱いをするなんて、残念だな!

オスミン

それ以上近づくな

ベルモンテとペドリロ

門からどいてくれ

オスミン

張りたおすぞ

ベルモンテとペドリロ

我々は中に入るんだ!

オスミン

去れ!失せろ!張り倒すぞ!

ベルモンテとペドリロ

どけよ!去れよ!我々は中に入るんだ!

オスミン

失せろ!失せろ!失せろ!

急いでとっとと消えろ!

さもないとムチで懲らしめてやるぞ!

ベルモンテとペドリロ

どけよ!去れよ!我々は中に入るんだ!

我々にそんな扱いをするなんて、残念だな!

我々は中に入るんだ!どけよ!

(オスミンを押しのけて、ふたりは門の中に入る)

 

これで第1幕が終わります。次回は第2幕へ! 

 

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*1:柴田治三郎訳