孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

愛する人を疑う理由とは。モーツァルト:オペラ『後宮からの誘拐』あらすじと対訳(8)『第2幕フィナーレ』

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ついに再会を果たした恋人たち

モーツァルトオペラ『後宮よりの誘拐』、あらすじと対訳の8回目です。

全3幕のうち、今回が第2幕のフィナーレです。

見張り番のオスミンを、眠り薬入りワインでまんまと眠らせたペドリロ

そこに主人のベルモンテがやってきます。

ほどなく、ブロンデコンスタンツェを連れて現れます。

ついにコンスタンツェは、夢に見た彼氏に再会できたのです。

離れ離れになり、囚われの身になってから、涙にくれていたコンスタンツェ。

でもまた今、コンスタンツェの頬には涙が流れているのです。

そんな彼女に、ベルモンテはアリアを歌います。

これまでの彼の2曲は、会えない彼女に対する憧れの歌でしたが、今回は、目の前にいる愛する人に語りかけるアリアなのです。

オペラ『後宮からの誘拐』第2幕第9場

W.A.Mozart : Die Entführung aus dem Serail K.384

演奏: ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団

John Eliot Gardiner & The English Baroque Soloists , The Monteverdi Choir

第15曲 ベルモンテのアリア『うれし涙が流れるとき』 

テノールスタンフォードオルセン

ベルモンテ

うれし涙が流れるとき

愛は恋する男に微笑む

涙を拭い去る口づけは

この上なく素晴らしい愛の報酬

ああ、コンスタンツェ、君に会えて

この胸に君を抱くことができるのは

何という喜び、何という幸せ

それはどんな王者の栄耀栄華にもまさる宝

こうしてまた会えたからこそ

別れが死の苦しみに等しいことを知る

愛情あふれる、感動的なアリア

最初にこのオペラを聴いたときには、このアリアは余計だなぁ、と思ったものです。

待ちに待った再会なので、次の4重唱の喜びの爆発が先にくるべきじゃないか、と感じたのです。

どこかしっとりと落ち着いたこの歌は、この場面では興醒めではないかと。

しかし、ドロットニングホルム宮廷劇場の演出を観て、がらりと認識が変わりました。

ベルモンテに会ったコンスタンツェはその腕の中で失神するのです。そして、彼女を開放しながら、歌うベルモンテ。

本当にうれしいとき、人はおおはしゃぎするわけではないのです。

優しく語りかけながら、胸の中に熱く燃える情熱。何度も聴くうちに、ようやくモーツァルトが表現したかったことが分かった気がしました。

いよっ彼氏!!と掛け声をかけたくなるほど、かっこいいベルモンテ。今ではこのオペラで一番好きな曲です。

ドロットニングホルム宮廷劇場の舞台がこちらです。


W.A. Mozart - R. Croft "Die Entführung aus dem Serail" Wenn der freude Tranen fliessen

浮気を疑う、バカな男ども

そしていよいよ、喜びの爆発です。

2組のカップルは、再会のうれしさと、自由への希望にあふれ、歓喜を大合唱します。

しかし…

ひとしきり歓喜の歌が終わると、急に音楽が転調し、不安な暗雲が立ち込めます。

それは、これからの脱出計画への不安かと思いきや、男たちの疑念なのです。

離れている間、コンスタンツェは、太守セリムとの間に、何もなかったのだろうか?

同じ疑念は、実はペドリロも、ブロンデとオスミンの間にもっていました。

弱い女性の身、権力者の誘惑に負けても不思議はないのでは…というのです。

観衆からすれば、女性ふたりの誠実さ、命をかけて貞操を守った姿を見ていますので、なんてバカな男ども、と歯噛みをしますが、恋する心が常に疑心暗鬼にとらわれるのも、また愛のなせる業でもあります。

ついにふたりは、あろうことか、それを口に出してしまいます。

コンスタンツェはまさかベルモンテに疑われるとは思わず、ショックで泣き崩れ、ブロンデは怒り狂ってペドリロの頬をいやというほど張り飛ばします。

男ふたりは、女性陣の反応を見て、瞬時に疑念が晴れ、疑ったことを後悔。

一生懸命謝りますが、ふたりのショックと怒りはそう簡単には収まりません。

謝って、謝って、謝り倒して、ようやく許してもらい、この話は水に流して、来るべき解放のときに対する期待と希望の歌で、第2幕の幕が下ります。

この四重唱は、最初の台本では第3幕におかれていましたが、モーツァルトが第2幕のフィナーレにもってきたい、と言って、シュテファニーに書き換えさせたのです。

まさに、作曲だけではない、人間ドラマ作家モーツァルトの腕前です。

第16曲 コンスタンツェ、ブロンデ、ベルモンテ、ペドリロの四重唱『ああ、ベルモンテ!ああ、私の命!』 

コンスタンツェ

ああ、ベルモンテ!ああ、私の命!

ベルモンテ

ああ、コンスタンツェ!ああ、ぼくの命!

コンスタンツェ

これは本当?なんて幸せなのかしら!

長い苦しみの日々のあとに、あなたの胸に抱かれるなんて

 ベルモンテ

君に会えるなんて、なんという喜び!

悲しみはもう終わりだよ

この胸の高鳴りが分かるかい!

コンスタンツェ

うれし涙がとまらない

ベルモンテ

ぼくのキスで消してしまおう

コンスタンツェ

悲しみはこれで最後ね

ベルモンテ

そう、もうすぐ君は自由の身だよ

ペドリロ

さてブロンデ、分かったかい?

12時の鐘を合図に、ぼくらは助けにくるからね!

ブロンデ

心配しないで!準備は万端よ

ああ、12時が待ち遠しい、

1分、1分、数えて待つわ

全員

ようやく希望の太陽が、雲の間から輝きはじめた

喜びと幸せと希望が満ちあふれ

われらの苦しみが消えていく!

ベルモンテ

でも、この喜びの中にも、私の胸は

秘めた悩みに苦しめられているんだ!

コンスタンツェ

いったいそれは何?

早く打ち明けて!私には隠さないでね!

ベルモンテ

人のうわさでは…君は…君は…

コンスタンツェ

いったい何なの?

ペドリロ

ああ、ブロンデ、君を助ける梯子だけど、

君にはその価値があるんだろうね?

ブロンデ

バカ、気が変になったんじゃない?

誰に向かって言ってるの?

ペドリロ

だって、オスミンが…

ブロンデ

早く言って!

コンスタンツェ

話してくださらないの?

ベルモンテ

人のうわさでは…

ペドリロ

オスミンが…

ベルモンテ

君は…

ブロンデ

さあ、言ってみて!

コンスタンツェ

説明してくださらないの?

ベルモンテ

わかった。うわさを聞いたんだよ

こんなことを聞いても怒らないでおくれ

恐る恐る尋ねるけど、君は太守を愛しているのかい?

ペドリロ

オスミンは、君を無理やり従わせ、

奴隷頭の力で、何かしなかったかい?

皆が思い込んでいることなんだけど、

本当だとしたら、これはまずい買い物だね!

コンスタンツェ

何と悲しいことを!

(泣く)

ブロンデ

これが答えよ!

(ペドリロに平手打ちを食らわす)

ペドリロ(頬を押さえながら)

よく分かったよ

ベルモンテ

コンスタンツェ、どうか許してくれ!

ブロンデ(怒って、ペドリロから離れながら)

そんな人とは思わなかった

コンスタンツェ(ため息をついて、ベルモンテから目をそむけ)

私が操を守ったか、ですって?

ブロンデ(コンスタンツェに)

私が操を守ったかって、

このろくでなしは聞くんですよ!

コンスタンツェ(ブロンデに)

私が太守を愛しているって

誰かがベルモンテに言ったみたい

ペドリロ

ブロンデは裏切らなかった

悪魔にかけて、間違いない

ベルモンテ

コンスタンツェは裏切らなかった

少しも疑う余地はない

コンスタンツェ、ブロンデ

もし私たちの名誉に対して

男たちが邪推を抱き、疑いの目で見るのなら

とても我慢はできないわ

ベルモンテ、ペドリロ

もし疑いをかけられて

すぐに怒り出すということは

確かに操を守ったということだ

もう疑う余地はない

ペドリロ

愛するブロンデ、許しておくれ

今後は君の操を、俺の頭より信じるからさ

ブロンデ

いやよ、絶対許さないわ

あんなおっさんと私が何かあったか、なんて

ベルモンテ

ああ、コンスタンツェ、ぼくの命!

ひどいことを尋ねたぼくを許しておくれ

コンスタンツェ

ベルモンテ、どうして信じることができるの?

この心が他人に奪われるなんて

あなたにだけときめいているこの心を

ベルモンテ、ペドリロ

ああ、許しておくれ!

後悔している!

コンスタンツェ、ブロンデ

後悔するなら、許してあげましょう!

全員

はい、この件はこれでおしまい!

愛を讃えよう!

愛だけを頼りにして

嫉妬をあおるものには目をむけないようにしよう

というわけで、一件落着、となりましたが、女性の貞操はこの時代、常にオペラや芝居のネタになっています。

モーツァルトの後のオペラ、『コジ・ファン・トゥッテ』はその代表のようなもので、ふたりの若い男が、自分の彼女は絶対に浮気しないと主張するのを、老哲学者が、浮気をしない女などこの世に存在しない、と反論し、賭けをする、という筋です。

そして、やはりふたりとも浮気をしてしまう、というとんでもない結末を迎えるのです。

愛ゆえに嫉妬し、嫉妬ゆえに愛を失う。

これだけは、今も昔も分からない人間模様かもしれません。

 

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