孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

賑やかなウィーンの街角。モーツァルト『ピアノ協奏曲 第15番 変ロ長調 K.450』

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ウィーン・ベルヴェデーレ宮殿

続・コンチェルト3曲セット

モーツァルトはウィーン・デビューのあと、自分が主役で、演奏と作曲の腕前を両方アピールできるピアノ・コンチェルトをメイン・ツールとするべく、第11番 へ長調 K.413第12番 イ長調 K.414、第13番 ハ長調 K.415の3曲セットを披露して大喝采を浴びたのは前述しました。

そして前回取り上げた、特別な存在の第14番 変ホ長調 K.449をはさんで、モーツァルトは新しい3曲セットを作曲しました。

それが、第15番 変ロ長調 K.450、第16番 ニ長調 K.451、第17番 ト長調 K.453の3曲です。

このブログの最初の頃、モーツァルトのピアノ・コンチェルトは第16番から始め、最後の第27番まで順番に取り上げました。

今回の第15番で、ようやく第11番から最後までつながったことになります。

第16番の記事はこちらです。ぜひ、お時間のあるときに第27番まで聴いていただければと思います。

www.classic-suganne.com

ひと汗かかせる協奏曲

さて、この新・3曲セットについて、モーツァルトは父に楽譜とともに、次のように語っています。

リヒター氏がそんなに誉めていた協奏曲は変ロ長調のものです。[注:第15番のこと] これは私が作ったものの中でも一番いいもので、その当時もあの人はそう言って誉めました。私はこの二つ [注:もう一つは第16番] のうち、どっちを選んでいいか分かりません。二つとも、ひと汗かかせる協奏曲だと思います。でも、むずかしいという点では変ロ長調の方がニ長調以上です。ともかく、変ロ長調ニ長調ト短調 [注:実はト長調で第17番のこと] の三つの協奏曲のうち、どれがいちばんお父さんのお気に召すか、是非知りたいものです。変ホ長調 [注:第14番] のは、この種類には属しません。これはまったく特別な種類の協奏曲で、大編成よりは小編成のオーケストラのために書いたものです。だから、三つの大きな協奏曲のことだけを言うのですが、お父さんの判断が、当地の一般の、そして私自身の判断と一致するかどうか、知りたくてたまらないのです。もちろん、三つとも、全部のパートを揃えて、上手に演奏したのを聴かなければなりませんが。私へお返し下さるまでは、我慢してお待ちしますが、ただ他のだれにもお渡しにならないように。今ならどうには1曲について24ドゥカーテンで売れたでしょうが、もう2、3年手もとにおいて、それから印刷して公表する方が、もっと利益が得られると思います。(1784年5月26日 父宛)*1

モーツァルトが自分の作品について『3つとも良くって、どれが一番か決められないなぁ~、パパはどう思う~?』と得意げになっている、なんとも微笑ましい手紙です。

一番好評なのは第15番 変ロ長調で、 自分としては第16番 ニ長調とどっちがいいか迷うけど、変ロ長調の方が難しい。いずれにしてもピアニストにはひと汗かかせる曲だ、というのです。

父レオポルトが3曲のうちどれを選んだのかは分かりませんが、実際の演奏を聴いてもらえないと、とも言っているので、結論は出なかったかもしれません。

後にレオポルトがウィーンに来て、実際に演奏を聴いて感動したのは、第18番 変ロ長調と第20番 ニ短調でした。

私がモーツァルトに訊かれたら、個人の好みとしては第17番 ト長調を選びます。

指揮者はいない、当時の演奏法

このようにピアノ・コンチェルトはモーツァルトが自作自演した特別なジャンルの曲ですので、指揮者は存在せず、ピアニストがいわゆる〝弾き振り〟をします。

モーツァルトの時代には指揮棒はありませんし、専任の指揮者というのは存在しませんでした。

現代のような指揮法を確立したのはメンデルスゾーンと言われていますが、諸説あります。

いずれにしても、18世紀までは、指揮者はチェンバロやピアノ、ヴァイオリンを弾きながらアンサンブルをリードしていました。

ピアノ・コンチェルトにおける、指揮者とピアニストの巨匠対決、のようなシーンは20世紀のものです。

そんなシーンでは、ピアノ独奏が登場する前、オーケストラの前奏の間は、ピアニストは鍵盤に触れず、沈思黙考しています。

指揮者のいない〝弾き振り〟の場合も、立ち上がったりして前奏を指揮しています。

モーツァルトの時代にはそんな光景はありませんでした。

では、前奏の間、何をしていたか。

ピアノで通奏低音を弾き、オーケストラの和音を補強していたのです。

そして出番が来ると、ソリストとして〝離陸〟し、前面に出て行くわけです。

古楽器による演奏では、当時の慣習に従い、ほとんどそのように演奏されています。

私も最初に聴いたときには、ほんとに?と違和感を感じましたが、今では当たり前で、オーケストラの合間に聞こえる低音が無いと、なんだか締まらない感じさえします。

前回の第14番 変ホ長調は小編成であり、マルコム・ビルソンの演奏ではよりピアノの音が聞えやすいので、ぜひ聴いてみてください。

あ、もちろん、現代スタイルによるモーツァルト演奏を否定するものではありません。モーツァルトの曲はどんな演奏でも、たとえ電子演奏でも素晴らしいのですから。

いよいよ管楽器の出番

室内楽での演奏を可としていた第14番までとは一線を画し、この第15番からはオーケストラの規模が拡大していきます。

特に目覚ましいのが、管楽器の働きです。

これ以降のピアノ・コンチェルトでは、管楽器の役割が重要になり、さながら、ピアノと管楽器の協奏交響曲シンフォニア・コンチェルタンテ)の様相を示します。

この曲は、その先駆けといえます。

なにしろ、冒頭が管楽器から始まるのですから。こんな開始は後のコンチェルトにもありません。

第14番で管楽器は任意、とされていたのとは大違いです。

第15番の管楽器はオーボエ2、ファゴット2、ホルン2で、第3楽章ではフルートまで加わります。

管楽器たちはこれから、様々な風味のフルーツがミックスされるように、曲に複雑で多様な味わいを与えていきます。

1曲、また1曲と、モーツァルトが進化していく様には、ため息が出るばかりです。

モーツァルト『ピアノ協奏曲 第15番 変ロ長調 K.450』 

Mozart:Concerto for Piano and Orchestra no.15 in B flat major , K.450

演奏:ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

マルコム・ビルソン(フォルテピアノ

John Eliot Gardiner , Malcolm Bilson & English Baroque Soloists

第1楽章 アレグロ

木管のみで始まるのは極めて異例ですが、その愛らしさといったらありません。これまでオーケストラの中での管楽器の役割は、和音の補強や、弦と重複して、あるいは応答し合ってメロディを受け持つ、というものですが、独立したテーマを担う、という新しい使い方が始まったのです。とはいえ、即興的なフレーズで独奏ピアノが始まると、あとはピアノの名人芸が際立ちます。モーツァルトが〝ひと汗かかせる〟と言ったとおり、必要とされるピアノの技巧は超高度です。縦横無尽のピアノの動きに、聴衆はただただ圧倒されたに違いありません。最後にはモーツァルト自身による技巧的なカデンツァが残されています。

第2楽章 アンダンテ

変奏曲形式のアンダンテです。モーツァルトのコンサートでも、ヒット曲のテーマを使った変奏曲が大人気でしたから、変奏曲は当時の聴衆に親しみやすかったのでしょう。この曲での変奏は甘美の極致です。前曲第14番のアンダンティーノが夕暮れの浜辺のイメージだとすれば、この曲は美しい海の底を逍遥しているかのような思いがします。わずかに陽の光が届く、どこまでも静かで深い海底。世間の煩わしさとは無縁の、静寂の世界にいるかのようです。

第3楽章 アレグロ

一転、これは喧噪に包まれた街の音楽です。粋で陽気なテーマには瞬殺で魅了されてしまいます。8分の6拍子は狩りの曲でもあります。映画『アマデウス』でも、モーツァルトがワインの瓶を片手に、商人や大道芸人たちで賑わうウィーンの街角を、スキップするかのように上機嫌に歩いていくシーンでこの曲が使われています。前楽章の静かな世界とのコントラストが、実に素晴らしく、効果的です。 曲の終わり方も意表をつきます。終わりそうで終わらないように焦らして焦らし、はい、終わり。ここでもモーツァルトのいたずらっぽい笑みと、ウケた聴衆の拍手喝采が目に見えるようです。

 

次回は、モーツァルトの嫁を連れての初里帰りエピソードです。


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*1:柴田治三郎訳