孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

仮面に隠された貴婦人の心のうち。クープラン『クラヴサン曲集』〝フランスのフォリア、あるいはドミノ〟~ベルばら音楽(14)

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ヴァトー『ピエロ(ジル)』

新年はフランス風序曲から

あけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いいたします!

さて、昨年からヴェルサイユを中心としたフランスの古典音楽を聴いていますが、クープランクラヴサンチェンバロ)曲集の続きからです。

次の曲は、小品の中で珍しいフランス風序曲の形式になっているので、1年のスタートにふさわしく、この曲からです。

クラヴサンは引き続きオリヴィエ・ボーモンです。

クープランクラヴサン曲集

幻影 La visionaire

第25オルドル(組曲)の第1曲です。1730年出版の最後のクラヴサン曲集第4集の曲です。幻影、は何を指すのでしょう。

それは、今は亡き太陽王と、フランス風序曲を確立したリュリの栄光の時代でしょうか。

もう摂政オルレアン公も世に無く、時代は次に進んでいた頃ですが、クープランはこの最後の曲集の序文に次のように記しています。

『3年ほど前にこれらの作品は書き上げられた。しかし私の健康は日々弱るばかりなので、友人たちは仕事を休むように忠告してくれた。それでその後何も大きな仕事はしていない。諸賢が今日まで私の作品に喝采を送ってくださったことに御礼申し上げる。』

まさに引退のことばで、出版から3年後にクープランは世を去るのです。

クープラン La Couperin

同じ第4集所収の、第21オルドルの第3曲で、自分の名前が題名になっています。

つまり、音楽で描いた自画像なのです。

しみじみと落ち着いた、哀愁漂うゆっくりした舞曲ですが、力衰えた晩年の姿なのでしょうか。

しかし、気品にあふれており、功成り名遂げた人の晩年の枯淡の境地なのかもしれません。

ねんね、あるいはゆりかごの愛し子 Le dodo, ou L'amour au berceau

絶頂期の作品に戻ります。第15オルドルの第2曲です。

これは題名と曲想がまさに一致しています。

ゆりかごで眠る可愛い赤ちゃんの描写です。

クープランの子守唄〟といっていいでしょう。このまま赤ちゃんに聴かせてもいい、どこまでも優しい、愛にあふれた曲です。

ショワジーのミュゼット Muséte de Choisi

同じオルドルの第4曲です。〝ミュゼット〟はこれまでも出てきたバグパイプに似た楽器で、鄙びた響きがします。

ショワジーは、パリ近郊の町ショワジー=ル=ロワを指しています。

低音の持続音がミュゼットの低音を表し、3つの旋律が進行してとても豊かな響きを奏でていますが、これはクープランが伯父ルイ・クープランから紹介されたリュート弾きたちから学んだ方法でした。

タヴェルニーのミュゼット Muséte de Taverni

タヴェルニーもショワジーと同じくパリ近郊の町で、この頃は鄙びた田舎町だったと思われます。

全曲よりもアップテンポで、激しさを感じます。それぞれの町の人々の気質を反映させているのでしょうか。

本当のミュゼットの音を聴くと、クラヴサンでここまで再現した天才技にびっくりします。

全曲と同じオルドルの第5曲です。

カロタンとカロティーヌ、あるいは小屋掛け芝居のひとこま Les Calotins et les Calotines, ou La piéce à tretous

第19オルドルの第1曲です。

カロタン、カロティーヌが誰を指すのか分かりませんが、〝善男善女〟と訳したCDもあるので、流しの劇団が町の広場で興行している小屋掛け芝居に集まった観衆たちかもしれません。

芝居の登場人物たちを指している可能性もあります。

いずれにしても、わいわい、がやがや、という賑やかさが伝わってくる曲です。

カロティーヌ Les Calotines

前曲の続きになっている曲ですが、ここでは女性のみ、カロティーヌたちだけが題名になっています。

戦利品 Le trophée

第22オルドルの第1曲です。

トロフィー、つまり戦利品ということで、勇ましくも輝かしい曲です。

2部形式になっていて、後半では静かに哀愁が漂います。

勝者へのいたわりなのか、敗者への思いなのか、戦いの虚しさなのか、表しているものは謎です。

編み物 Les tricoteuses

第23オルドルの第2曲で、有名な曲です。

毛糸か、レースか、女性が編み物をしている様がリアルに描かれています。

順調にいっているようですが、楽譜の欄外には〝ゆるんだ網目〟と書き込みがしてあるそうです。いったい何を意味しているのか…。

仮面に隠された貴婦人の心のうち

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クープランクラヴサン曲ご紹介の最後は、皮相的な名曲です。

フランスのフォリア、あるいはドミノ』と題され、細かく12に区切られた曲です。

フォリアは変奏スタイルの曲ですが、〝ドミノ〟とは「ドミノマスク」のことで、仮面舞踏会のときにつける仮面のうち、顔の上半分を隠すタイプです。ちまたでは〝女王様マスク〟などともいわれています。

つまり、それぞれの仮面に隠された中身を暴く、というような趣向の曲なのです。

暴かれるのは、いったい誰の本性なのでしょうか。

この曲は、ピエール・アンタイの演奏です。

クープラン:フランスのフォリア、あるいはドミノ Les folies françoises, ou Les dominos

純潔、目に見えぬ色のドミノの下で La Virginité, sous le Domino couleur d'invisible.

羞恥、バラ色のドミノの下で La Pudeur, sous le Domino couleur le rose.

情熱、肉色のドミノの下で L'Ardeur, sous le Domino incarnat.

希望、緑色のドミノの下で L'Esperance, sous le Domino vert.

貞節、空色のドミノの下で La Fidélité, sous le Domino bleu.

忍耐、亜麻色のドミノの下で La Persévérance, sous le Domino gris de lin.

倦怠、紫色のドミノの下で La Langueur, sous le Domino violet.

コケトリー、色とりどりのドミノの下で La Coquéterie, sous diférens Dominos.

年老いた伊達男や宮廷人たち、緋色と枯草色のドミノの下で Les Vieux Galans et les trésorieres suranées, sous des Dominos pourpres et feuilles mortes.

お人よしのカッコウたち、黄色いドミノの下で Les Coucous bénévoles, sous des Dominos jaunes.

無言の嫉妬、ムーア風の濃鼠色のドミノの下で La Jalousie taciturne, sous le Domino gris de maure.

狂乱、絶望、黒いドミノの下で La Frénésie, ou le Désespoir, sous le Domino noir.

第14オルドルの第4曲です。

純潔→羞恥→情熱→希望→貞節→忍耐→倦怠→…とくると、どうしても〝女の一生〟をイメージしてしまいます。

だとすると、最後が〝狂乱、絶望〟というのはひどすぎますが…。

でも、クープランが仕事場としていたヴェルサイユ宮廷の貴婦人たちには、こんな一生を送った人が多かったようです。

結婚後、宮廷に出仕し、伊達男たちとの恋愛を楽しみつつ、嫉妬の渦に巻き込まれ、最後には不幸せな晩年を迎える…。歴史を紐解くと、フランス史はそんな女性であふれています。

そんな女たちの人間模様を、クープランはずっと見つめていて、この曲を書いたのかもしれません。

人間の心のうちを仮面の色にたとえているのも意味深です。

まさに、フランス人らしいリアリズムと痛烈な皮肉が込められた作品だといえます。

カッコウの曲の楽譜の欄外には、『カッコウカッコウ』と書かれているそうです。

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次回は、そんなクープランの総決算の曲です。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 

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