孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

鍵盤の上に描かれたひとつ目巨人とは。ラモー『クラヴサン曲集第2巻』〝タンブラン〟〝ソローニュの愚か者〟〝キュクロプス〟~ベルばら音楽(19)

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オディロン・ルドンキュクロプス』(1914年)

あふれるエスプリ

さらに、ジャン=フィリップ・ラモー(1683-1764)のクラヴサンを聴いていきます。

今回は、パリに出てきて翌年、1724年に満を持して出版したクラヴサン曲集第2巻から、名曲を抜粋します。

この曲集には、これまで書き溜めた曲が収められ、ホ短調の第2組曲と、ニ長調ニ短調の第3組曲から成っています。

1731年の再版から、タイトルを『クラヴサン曲集と装飾音法』と改めています。

いよいよ、謎めいた標題を含んだ、フランスのエスプリあふれる音楽になっていきます。

第2組曲は抜粋、第3組曲は全曲取り上げます。

ラモー:クラヴサン曲集第2巻(第2組曲 ホ短調

Jean-Philippe Rameau:Pièce de clavecin avec une table pour les agéments

演奏:トレヴァー・ピノック(クラヴサン)Trevor Pinnock

第5曲 鳥のさえずり

第2組曲は、アルマンドに始まり、クーラントジーグと続き、この曲に至ります。

タイトル通り、小鳥がさえずるピーチクパーチク、という音が実に巧みに描写されています。

癒される、というより、やかましい感じです。

前半のさえずりはいわば主題で、後半の展開部に入ってくると、半音階的な劇的な世界に入っていきます。

これこそ、ラモーが和音の可能性を追求しはじめたもので、後年、オペラでこのような、当時の人には耳慣れない音を駆使し、猛烈な批判を浴びることになりました。

最初はとっつきやすい描写音から入り、斬新な新しい世界に引き込んでいくという作戦です。

まだクラヴサンのか細い音ですから、それほど物議は醸しませんでしたが、後にはこれを大劇場でやらかしたのですから、大変です。

第6曲 第1リゴドン・第2リゴドン

リゴドンは、プロヴァンス地方で生まれた、南仏らしいおおらかで快活なダンスです。

短調の厳しい調子の第1リゴドンで、明るく輝かしい第2リゴドンを挟む3部形式です。

第2リゴドンはまったくご機嫌な音楽です。

第7曲 ロンドー形式のミュゼット

ミュゼットは、これまでも出てきた、バグパイプのような牧歌的な響きのする楽器を模した曲です。

低音が、ミュゼットの繋留音を模写し、ゆっくりと抒情的なフレーズを奏で、特徴的な中間を挟むロンド―形式になっています。

第8曲 タンブラン

ラモーのクラヴサン曲の中でも有名なもののひとつで、ピアノで弾かれることも多い曲です。

この曲も南仏プロヴァンス起源で、タンブランという胴の長い太鼓と、小さい縦笛ガルーベで演奏される民族舞踊曲です。

低音が太鼓のリズムを模倣しますが、その激しい感じはまるでスラヴ系の舞曲のようです。

第9曲 村娘

この組曲の後半は鄙びたダンスが多くなっていますが、締めくくりの曲はまさに〝村娘〟と名付けられ、この組曲が田舎をテーマにしているのが分かります。

曲の前半はしっとりとした雰囲気ですが、後半は荒々しくなり、村娘などというのどかな感じではなくなります。

ラモー:クラヴサン曲集第2巻(第3組曲 ニ長調ニ短調

Jean-Philippe Rameau:Pièce de clavecin avec une table pour les agéments

演奏:ジョリー・ヴニクール(クラヴサン)Jory Vinikour

第1曲 やさしい嘆き

この組曲ではついに舞曲名は消え、すべて意味深な標題つきとなります。

やさしい、というのは曲の雰囲気から伝わってきますが、〝ラブ・ミー・テンダー〟ならともかく、嘆きとはいったい…?訴え、という訳もあります。

 ロンドー形式です。

第2曲 ソローニュの愚か者

この曲集でいちばんの人気曲です。〝愚か者〟は『Les niais』の訳ですが、直訳ではひな鳥のことです。

そのまま『ソローニュのひな鳥』と訳したアルバムもありますが、〝未熟者〟〝愚か者〟〝痴れ者〟という意味もあり、このような訳の方を多く見かけます。

ソローニュとは、オルレアン近郊の地方で、氾濫原のため狩場として有名でした。

そのため、ひな鳥もなんとなく関係がありそうですが、意味は謎です。

テーマはまるで童謡のように親しみやすく、愛らしいですが、さらに2つの変奏がついている堂々たる傑作です。

ついつい、鼻歌で口ずさんでしまいたくなる、大好きな曲です。

第3曲 ため息

タイトル通り、切なくも優美な曲です。

同じフレーズが繰り返され、貴婦人が窓を眺めながら物思いにふけっているような、アンニュイな曲です。

第4曲 歓喜

空から天使が舞い降りてくるような輝かしい曲です。

幸運が身に訪れるような素敵な気分にしてくれます。

第5曲 いたずら好き

舞い降りた天使はいたずら好きだったのでしょうか。

これもロンド―形式ですが、何を表わしているのかは分かりません。

第6曲 ミューズたちの会話

クープランの『コレッリ賛』『リュリ賛』で登場した、パルナッソス山に住む芸術の女神、ミューズたちの対話を描写しています。

ただのおしゃべりではなく、もちろん芸術について語り合っているのでしょう。

第7曲 つむじ風

一陣の風が吹き、渦を巻いている様子が鮮やかに描写されています。

まるで目の前で見ているようにリアルなのは、さすが視覚にも優れたフランス人作曲家ならではです。

ロンドー形式の中間部では風はさらに強さを増しています。

第8曲 キュクロプス

ギリシャ神話に出てくるひとつ目の巨人のことです。

複数いて、古い神なのですが、父に嫌われ、地底に閉じ込められてしまうかわいそうな存在です。

ゼウスによって救われ、御礼にゼウスには雷を、ポセイドンには三又鉾を、ハデスには隠れ兜を贈る、いい神とされています。

しかし、別な神話、オデュッセウスの物語では、人食いの怪物として出てきます。

壮大な神話にふさわしく、とても充実したドラマチックな曲ですが、見た目は怖くても気は優しい巨人と、そのままに怖い怪物と、どちらを描いているのでしょうか。

第9曲 あざけり

短い優美なメヌエットなのですが、穏やかでないタイトルがつけられています。

確かに軽侮しているようなメロディですが、何をあざけっているのか不明です。

第10曲 足の不自由な女

この組曲は、フィナーレにはふさわしくないと思われるような、この哀れな雰囲気の曲で締めくくられます。

ふたつの組曲とも最後は女性をテーマにしているのも、何か意味が込められているのでしょうか。

ラモーもクープラン同様、それは自分で考えてみて、と言っているのです。

フランス人は相変わらず意地悪ですね。笑

 

次回は、さらに充実の新クラヴサン組曲です。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。


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