孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

許された恋と、許されざる恋と。ラモー:オペラ『イポリートとアリシー』③「第1幕」~ベルばら音楽(24)

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カバネル『フェードル(パエドラ)』(1880年

許されざる恋の物語

ジャン=フィリップ・ラモー(1682-1764)のオペラ、『イポリートとアリシー』

今回は第1幕です。

幕が開くと、そこはアルテミス(ディアーヌ)神殿

祭壇の前に、ヒロインのアリシーが、アルテミスに仕える巫女の狩人の装束で、ひとり額づいています。

彼女はアテネテセウス(テゼー)に逆らい、滅ぼされたパラス族の生き残りの王女。

囚われの身となり、テセウスによって命は助けられましたが、子孫は残さないよう、ここアルテミス神殿の巫女になることを命じられているのです。

いわば、尼寺に入って尼さんになることを強制されているわけです。

しかし彼女は、あろうことか敵方の王子、ヒッポリュトス(イポリート)に密かな恋心を抱いてしまいました。

もちろんそんな恋が報われる望みはないまま、清らかな祭壇に祈っているのです。

モーツァルトオペラ『クレタの王イドメネオでも、亡国の囚われの身であるトロイ王女イリアが、敵の王子イダマンテに恋するという設定になっており、これは当時のドラマで好まれた〝許されざる恋〟のパターンといえます。

ラモー:オペラ『イポリートとアリシー』「第1幕」

Jean-Philippe Rameau:Hippolyte et Aricie

演奏:マルク・ミンコフスキ指揮 レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

Marc Minkowski & Les Musiciens du Louvre

尼寺に入るアリシー

第1場 聖なる神殿

アリシー

聖なる神殿、静かな場所

ここできょう、アルテミス様が私の願いを受け入れ

私の乱れた心をどうにもならない恋から守ってくださる

そして愛しい王子様

そのお姿がどうしても心に浮かんでしまうけれど

あなたに誓いを捧げるかわりに

あなたが仕える女神様に献身の誓いを捧げます

どこまでも清澄な音楽が、切ない歌詞とともに胸に迫ります。

フルートのソロが、広壮で静かな神殿内に、彼女の孤独な心のように響き渡ります。

祈る相手は、恋愛を汚らわしいものと嫌い、純潔を喜ぶ処女神アルテミス。

恋について祈る神様としては全くふさわしくありませんが、もはや真心を伝えるのはこの神様しかいないのです。

唯一の救いは、恋する王子ヒッポリュトスも、アルテミスを尊崇しているということ。

それを心の最後のよりどころとして、残りの長い人生を過ごそうと彼女は心に決めているのです。

心に染み入るラモーの音楽です。


Hippolyte et Aricie - "Temple sacré"

互いの愛を確かめ合うふたり

祈りの歌が終わると、おもむろに当人のヒッポリュトスが神殿に入ってきて、アリシーに、巫女になどならないように、と呼びかけます。

アリシーは、これはお父上様のご意思なのです、あなたはそれに逆らうのですか?と問うと、ヒッポリュトスは、父の意に反してでも私はあなたを守りたい、と告白します。

アリシーはとまどいますが、ヒッポリュトスはさらに自分のことが嫌いなのですか、と詰め寄ると、アリシーもついに胸に秘めた思いを打ち明けます。

ふたりは両思いであることを知って天にも昇る気持ちになりますが、一方で、父の妃パイドラ(フェードル)が私たちの仲を絶対に許さないだろう、と苦しい思いをアルテミスの祭壇に訴えます。

巫女たちの捧げる祈り

第3場 行進曲

第3場 女祭司たちの合唱

女祭司たちの合唱

この平和な場所は

やさしい処女神が支配なさっている

愛の神が投げる矢も

私たちには効き目がない

私たちは永遠に

平和の心地よい魅力を味わおう

女大祭司に率いられ、アルテミスに仕える女祭司(巫女)たちが入場してきます。

ここから、女祭司たちのよるディベルティスマンとなります。

女祭司たちは、男のいない、恋の悩みのない別天地の平和な境地を歌い、踊り手はそれに和して典雅なダンスを踊ります。

清く、正しく、美しく…

第3場 女祭司たちの第1のエール 

女祭司

愛の神よ、私たちの隠れ家には

あなたの苦悩は無縁のもの

心はすべてここでは安らか

あなたの骨折りもここでは無益

いいえ、あなたにはその平和を乱すことは決してできない

あなたの武器に魅力を感じるのは

理性に欠ける人々

私たちの心は

あなたの熱情の炎が

毒だということを知っている

行きなさい、消えなさい、望みを捨てなさい

行きなさい、消えなさい、私たちの心から遠くへ

私たちの無関心さを征服する矢など

あなたは持っていない

続いてひとりの女祭司がエールを歌いますが、これは愛の神を責める非難口調になります。

しかし、恋愛不信に満ちた歌は、どこか素直でないように響きます。

本当は恋愛に憧れや未練も持っているのは、と思わせます。

第3場 女祭司たちの第2のエール

女大祭司

いついつまでも賛美しよう

私たちの心を支配する女神様を

女祭司たち

いついつまでも賛美しよう

私たちの心を支配する女神様を

女大祭司

ただし、女神様の恩寵に値するよう

一途な心だけを捧げよう

女祭司たち

ただし、女神様の恩寵に値するよう

一途な心だけを捧げよう

続いて、女大祭司に先導され、女神を賛美する合唱になります。

これはどこまでも清らかで、天にも届かんばかりの美しい歌です。

王妃パイドラの怒り

神殿に、王妃パイドラが、乳母エノーヌと衛兵を伴って現れます。

パイドラはあらためてアリシーに対し、巫女になるよう命じます。

アリシーはすでにヒッポリュトスの気持ちを知ってしまったので、『望まない気持ちで巫女になったら罪となるでしょう』と、言葉を濁します。

女祭司たちも、強制されて巫女になるのは神の意に反します、と同調します。

ヒッポリュトスに密かな恋心を抱くパイドラは、恋敵であるアリシーを早く尼寺に入れてしまおうと思ってきたのですが、思わぬ抵抗に遭って苛立ちます。

そしてヒッポリュトスにも、父王の命に逆らうアリシーを許していいのですか、と詰め寄ると、父には恩があるが、神の意思にはそれにも増してしたがわなければならない、と答えます。

怒ったパイドラは、軍楽のトランペットを鳴らさせ、衛兵たちに、王の権力に逆らう者どもを滅ぼすよう命じ、神殿も祭壇も打ち壊してやる、とわめきます。

女神アルテミスの降臨と託宣

第4場 トランペット、合唱

(トランペットの音)

女大祭司と合唱

復讐の神々よ、雷を落としたまえ!

あなたに戦を挑む人間どもを、滅ぼしたまえ!

第4場 嵐

女大祭司

我らの声が天に届いた

女神様が降りていらっしゃる

恐れよ、恐れを知らぬ者ども!

女大祭司と祭司たちは、王妃や衛兵たちのふるまいに驚き、神に罰を下すよう祈ります。

すると、雷鳴が轟き、嵐が吹きすさび、女神アルテミスが機械仕掛け「デウス・エクス・マキナ」で降臨します。

ここでのラモーの音楽はドラマチックで、迫力満点です。

女神アルテミスは、不敬な王妃パイドラを叱り、神は心の自由を守護するということを知っておけ、と諭します。

そしてアリシーには、神に仕えるのは神殿でなくてもできる、と呼びかけ、ふたりの誠意をほめ、天に戻っていきます。

燃え上がるパイドラの嫉妬

第6場 なんと!地も天も私に反目するのか!

パイドラ

なんと!地も天も私に反目するのか!

私の恋敵が私に挑戦する!

彼女がヒッポリュトスに付き従う!

ああ!彼らの心が互いに燃え立てば立つほど

私の我を忘れるような嫉妬はいきりたつ

なにものも私の怒りを逃れられぬ

恋人と恋敵を一気に葬ろう!

憎しみよ、悔しさよ、すさまじき怒りよ

この心をおまえたちにゆだねよう!

おや、誰か来る。アルカスだ。

どうしたことか!

あのように取り乱す苦悩の原因は?

女神によってもくろみを砕かれたパイドラは、仲良く立ち去るふたりを見て、我を忘れるような嫉妬に狂い、エールを歌います。

原作であるラシーヌの「フェードル」では、王妃は原因不明の病に伏し、乳母の問いによって、原因が義理の息子への許されない恋であることが明かされます。

このオペラでは、激しいエールで王妃の苦悩が描かれているのです。

冥界に下った王と、そそのかす乳母

王の忠実な家臣アルカスが王妃のもとに取り乱しながらやってきます。

そして『テセウス王が、友人を助けるため冥界に下った』と報告します。

テセウスはかつて、盟友ペイリトオスと、それぞれ美女ヘレネと冥界の女王ペルセポネを奪って妻にしようとしますが、冥界では冥界の王ハデスに捕まってしまいます。

テセウスは通りかかったヘラクレスによって救い出されますが、ペイリトオスは助からず、そのまま冥界で地獄の番犬ケルベロスによって食われ続けている、とされています。

テセウスは、ひとりだけ助かったのを潔しとせず、盟友を救うため再び冥界に下っていった、というのです。

死後の世界である冥界に行っては、まず帰れません。

前回還れたのは奇跡というべきでした。

アルカスはそれで絶望していたのですが、乳母のエノーヌはそれを聞いてほくそ笑み、アルカスを去らせて、パイドラにささやきます。

王はもう亡くなったも同然。いまや王妃は独身であり、ヒッポリュトスと再婚できますよ、と。

パイドラは、それを聞いて一筋の希望を持つものの、彼の愛が得られないなら同じこと、とあきらめ心地で退場し、幕となります。

 

次回は、テセウスの冥界下りの顛末です。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。


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