孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

ネイティブ・アメリカンよ、永遠に。ラモー:オペラ=バレ『優雅なインドの国々』⑤ 第4アントレ「未開人たち」~ベルばら音楽(33)

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ジョン・スミスを救うポカホンタス(想像画)

新大陸の広大なフランス領、ルイジアナ

オムニバス形式の4つの幕(アントレ)から成る、ラモーのオペラ=バレ『優雅なインドの国々 』。

いよいよ最後の幕です。

このオペラは、1735年8月の初演時にはプロローグと第2アントレだけで上演され、3回目の公演で第3アントレが追加されました。

そして、翌年に第3アントレが変更されるとともに、この新しい第4アントレが加わって、今の形となりました。

愛を求めて諸国を旅するキューピッドたちが、最後にたどりついたのはアメリでした。

北米大陸は「未開の地」とされています。

南米にはインカ、アステカといった古代文明が栄えていたのですが、北米には文明と言えるものはなかったので、野蛮人の地とされていました。

奪うべき金銀も見当たらなかったため、侵略先進国のスペインも中南米への進出に比べてあまり積極的ではなく、メキシコからテキサスあたりに徐々に北上していました。

遅れて大航海時代に入ったオランダ、英国、フランスは、中南米はほとんどスペインに押さえられてしまっていたため、まだ手付かずの北米に植民地を築きつつありました。

アメリカの植民地というと、後にアメリカ合衆国となった英国の植民地のイメージが強いですが、先行していたのは実はフランスでした。

フランスの支配領域はミシシッピ川流域をほぼ手中におさめ、五大湖からカナダに及び、現在のUSAの大半を占める広大なものでした。

ミシシッピ流域の植民地は太陽王ルイ14世にちなみ〝ルイジアナと名付けられました。

現在のルイジアナ州は、領域としてはそのほんの一部でしかありません。

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濃い青がフランス領ルイジアナ、薄い青は他のフランス領

このオペラが上演される10年ちょっと前に、〝新オルレアン〟すなわちニューオーリンズフランス領ルイジアナの首都に定められました。

その後、英国との度重なる戦争でフランス領は削られていき、アメリカの独立後、フランスの執政となったナポレオンは、もはや北米の植民地は防衛しきれないと判断し、英国との戦費調達と、アメリカがフランス側についてくれることを期待して、1500万ドルという〝二束三文〟で、広大なルイジアナアメリカに売却したのです。

これが1803年の米国による「ルイジアナ買収」で、今のUSAの23%に相当する領土です。

インディアン酋長の姫をめぐって

さて、この幕の舞台は、ちょうどスペインフランスの植民地が隣接していたあたりです。

両国と、原住民、つまりネイティブ・アメリカン(インディアン)との和平の儀式〝大いなる平和のパイプの儀式〟が行われようとしていました。

これは、和睦のためにタバコをパイプ(キセル)でまわし喫みするという、原住民の儀式でした。

しかしそこでは、インディアンの酋長の美しい娘ジーをめぐって、フランス人将校のダモンと、スペイン人将校アルヴァールが争っていました。

ラモー:オペラ=バレ『優雅なインドの国々』新(第4)アントレ「未開人たち」

Jean-Philippe Rameau:Les Indes Galantes "Les Sauvages"

ファンファーレ

フランス軍のファンファーレが聞こえる中、インディアンの若きリーダー、アダリオが戦士たちを指揮しています。

アダリオは、愛する酋長の娘ジーを、ヨーロッパ人たちが狙っていることに気が気でありません。

我らは武力でも勝てず、愛でも勝てないのか、と歯噛みをしながら、物陰から彼らとジーマのやりとりを窺っています。

フランス人将校のダモンと、スペイン人将校アルヴァールがふたりしてジーマを口説きにかかりますが、ジーマは、ふたりとも言葉が軽いわ、と言って受け入れません。

アルヴァールは、セーヌ川のほとりの住人(フランス人)は、結婚してからも浮気するのが甲斐性だと思っているんだよ、と悪口を言います。

ダモンは、タホ川のほとりの住人(スペイン人)は、嫉妬深くて結婚してからは妻を疑ってうるさく束縛しつづけるんだよ、と言い返します。

ジーマは、スペイン人は愛し過ぎる、フランス人は愛し足りない、と言って、私が選んだのはこの方、と物陰のアダリオを招きます。

アルヴァールは怒って、殺してやる、と息巻きますが、ダモンは、あきらめよう、とたしなめ、ふたりを祝福してやろうじゃないか、と去っていきます。

フランスのオペラだけに、フランス人の方が大人に描かれています。笑

フランスは、北米植民地ではインディアンと交易などで比較的平和的な関係を築いており、通婚もよくありました。

ヨーロッパでの七年戦争(1756-1763)が新大陸の植民地に及んだ英仏の戦いは「フレンチ・インディアン戦争」と呼ばれますが、インディアン部族の多くはフランス側に味方をしたのです。

インディアンたちの祭りが始まり、ジーマとアダリオは結婚と、幸せになることを誓います。

未開人たちの大いなる平和のパイプの踊り

ジーマとアダリオ

平和な森よ

むなしい欲望がわたしたちの心を乱さないように

わたしたちの心は弱いけれど

運命の女神の恩恵にはかなわないのだから

未開人たちの合唱

平和な森よ

むなしい欲望がわたしたちの心を乱さないように

わたしたちの心は弱いけれど

運命の女神の恩恵にはかなわないのだから

ジーマとアダリオ

わたしたちの土地に

富が来て人を誘惑しないように

天は、純真と平和のため

この地を作られたのだから

この地で享受しよう

穏やかな日々を楽しもう

ああ、わたしたちが幸せになるのに

ほかに何が必要だろうか?

この曲は、以前にも取り上げた、ラモーのクラヴサンチェンバロ)曲、「未開人」から流用されていて、全曲でもっとも有名な曲です。

www.classic-suganne.com


Rameau, Rondeau des Indes Galantes

この時代にはまだ、北米ではネイティブの人々と植民者はおおむね穏やかに共存していました。

そして、原住民の平和を祈る歌が、満座のパリのオペラ座に響いていたのです。

このあと時代が下り、ネイティブ・アメリカンのたどった悲惨な歴史を思うと胸が痛みます。

平和な森の穏やかな暮らし。

ヨーロッパ人が作った、この原住民の平和を願った素晴らしい音楽の精神は、いったいどこにいってしまったのか…。

戦士とアマゾネスたちのメヌエット

男女の戦士に、フランス兵も加わって祝福のメヌエットを踊ります。

シャコンヌ

いよいよこのアントレの、いや全幕の終曲となるシャコンヌです。

さりげなく始まりますが、まもなく輝かしいファンファーレが鳴り響き、華やかなフィナーレとなります。

ラモーの音楽は斬新な和音で現代的でさえあり、どこまでも新鮮です。

シャコンヌの形式として、しっとりと落ち着いた優雅な曲想と、輝かしい曲想が交互に現れますが、それが絶大な効果をもたらし、これまでの4つの愛の物語が走馬灯のように巡るかのようです。

遥かなる未来に思いを馳せるかのような雄大な音楽。胸がいっぱいになるうちに幕が下ります。

筆舌に尽くしがたい、味わいの深さです。

戦乱のヨーロッパから飛び出したキューピッドたちは、異国の地に若き愛を見つけて、青春の女神ヘベに伝えたのでした。


Rameau, Les Indes galantes, Chaconne

ポカホンタスの物語

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英国に連れていかれるポカホンタス

中米アステカ征服において、コルテスを助けた原住民の娘マリンチェの話は第2アントレで取り上げましたが、北米でも、ヨーロッパ人とかかわった原住民の娘がいました。

その名はポカホンタス

ディズニー映画のヒロインにもなりました。

ポカホンタスとは、へんな名前にもほどがありますが、これは〝おてんば娘〟を意味するあだ名で、本名は「マトアカ」といい、ネイティブ・アメリカンポウハタン族の酋長の娘でした。

ポウハタン族の居住地に、1607年、英国は植民地を建設し、処女王(ヴァージン・クイーン)エリザベス1世にちなんで「ヴァージニア」と名付けました。

英国人は当初はネイティブ・アメリカンと仲良くしていましたが、やがていざこざが起こり、指導者のジョン・スミスはポウハタン族に捕まってしまいます。

いざ処刑される段になって、酋長の娘が飛び出しスミスに抱きついて、父に命乞いをしました。

それがポカホンタスということになっています。

それが縁で、ポカホンタスは英語を学び、マリンチェのように通訳として活躍。

ネイティブ・アメリカンと英国人との間につかの間の平和をもたらしました。

英国人ジョン・ロルフと結婚し、1616年に英国に渡って〝インディアンの姫〟として国王ジェームス1世に謁見し、英国に一大センセーションを巻き起こしましたが、翌年、アメリカに帰る途中、病気になって23歳(推定)で死去しました。

しかし、ポカホンタスがジョン・スミスを助けた、というのは、どうやらポカホンタスが亡くなった後の、スミスの作り話だというのが定説です。

ポカホンタスは人質として英国人に捕らえられた、というのが真実のようです。

ともあれ、新大陸代表としてはじめてヨーロッパを訪れ、その架け橋となったということで、今も慕われています。

ジーマは結婚相手にヨーロッパ人ではなく、同じ部族の男を選びましたが、現地人との恋として、ポカホンタスのロマンスもこの物語に影響していると考えられます。 

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生前に描かれた唯一のポカホンタス

ラモーの『優雅なインドの国々』はこのように、フランス革命前のヨーロッパ人の世界観が分かる興味深い作品なのです。

そこには、異国への憧れこそあれ、蔑視は感じられません。

また、後に世界各国を支配して収奪する帝国主義時代のヨーロッパ人の姿もありません。

最後のシャコンヌに響く平和な共存の世界がずっと続いたらよかったのに、と思わずにはいられません。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。


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