孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

他人の作品を流用する正当性とは。テレマン『ターフェルムジーク(食卓の音楽)第2集』~ドイツ人の作ったフランス風序曲⑥

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ヘンデルはパクリの常習犯?

ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681-1767)の代表作、『ターフェルムジーク(食卓の音楽)』の第2集(Production プロデュクシオン Ⅱ)です。

この曲集の出版にあたり、購入予約者をテレマンが募ったところ、ヨーロッパ各地から186人もの予約があったことは前回触れました。

一番の音楽の消費地、英国からはヘンデルのみでしたが。

そしてヘンデルは、このターフェルムジークからモチーフを16曲も流用しました。

ヘンデルはその生涯を通じた創作活動にあたって、自分の作品、他人の作品を問わず、たくさんの流用を行ったことでも有名です。

偉大なるヘンデルが、盗作、剽窃、パクリの常習犯なのか?という事実に、長年、ヘンデルの研究者、崇拝者たちはきまりの悪い思いをし続け、自分がやったことのように様々な言い訳を試み、そしてあきらめていました。

私も、ここでヘンデルの流用の正当性を考えてみたいと思います。

折しも、京都アニメーションで痛ましい大惨事が起きましたが、容疑者は〝パクりやがって〟などと言っていたとの報道です。勘違いか妄想なのでしょうが、そんなことでたくさんの人の命を奪っていいわけがありません。

自作の流用について

まずは、自作の流用。

当時はレコードもCDもありませんから、宮廷や教会に雇われた作曲家は、創った作品は、一度演奏されたらそれっきりです。

次の機会には原則、新作を作らなければなりませんでした。

楽譜が出版されるのもほんの一部であり、よほどのヒット曲でない限り、作曲者自身であっても二度とお目にかかることは滅多にありません。

せっかく傑作が生まれても、これではもったいない限りです。

別な機会に、かつて作った作品をリメイクして世に出すのは、作曲者本人にとっても、聴衆にとってもメリットのあることなのです。

これはバッハも頻繁に行っていました。有名な『クリスマス・オラトリオ』も、曲のほとんどが旧作からのリメイクです。

聴衆も、前作を聴いたことがなければ新曲も同然ですし、聴いたことがあるメロディだとすれば、余計に喜んだはずです。

ただ、作曲者の方は、新しく作るより手間がかからなくて済む、というものでもなさそうです。新しい歌詞に合わせたり、調性や編成、構成を変えたりしなければならず、新しく作った方が早い、ということもあったかもしれません。

他人の作品の流用について

さて問題は、他人の作品の流用です。

当時は著作権という概念がありませんから、犯罪ではありません。

じゃあ何でもありかというと、倫理上の問題はありました。

でも非難されるのは、他人の作品を勝手に出版して濡れ手に粟で儲ける、という〝海賊版〟です。

ヘンデルがやったのは、主にフレーズの引用でした。これは簡単なようで、実は非常に難しく、自曲に組み込むには様々な工夫をしなければなりません。

そして出来た曲は素晴らしく、そのフレーズはむしろ原曲よりも、ヘンデルのアレンジで世に広まったのです。

これは、せっかくこの世に生まれたフレーズを埋もれさせず、最大限に活用した、といえるでしょう。

また、聴衆受けのため、当時の流行曲を取り入れたというケースもあります。

古典和歌でも、古歌を引用してその心を受け継ぎ、新しい歌に仕上げるという「本歌取り」という技法がありました。ヘンデルの手法はそれに近いのではないでしょうか。

オリジナルのフレーズが泉のように湧き出て、たった24日間でメサイアを書いたヘンデルが、単にラクをするために流用したとは思えないのです。

もちろん現代では、作者の権利、生活を守るためにも、著作権は尊重されなければなりませんが、あまりにも厳格な適用は、芸術表現の幅を狭くしてしまう恐れもあります。

さて、ヘンデルが高く評価したテレマンターフェルムジーク、今回は第2集を聴いていきます。

第1集と同じく、序曲、四重奏曲、協奏曲、トリオ・ソナタ、ソロ・ソナタ、終曲という組み合わせですが、中身の味わいはまた違った工夫が多分にされているのです。

テレマン:『ターフェルムジーク 第2集』

Georg Philipp Telemann:Musique de Table Production 2

演奏:ラインハルト・ゲーベル指揮 ムジカ・アンティクワ・ケルン

Reinhard Goebel & Musica Antiqua Köln

第1曲 フランス風序曲管弦楽組曲)二長調

編成:オーボエ、トランペット、弦楽と通奏低音

第1楽章 序曲

第2集の序曲は、トランペットが加わり、祝祭感が特徴です。「緩」の部分は、〝ハンブルクの潮の満ち引き〟の序曲と同じ、明るくてゆったりした曲想です。続く「急」は、第1集と同じく、イタリアのコンチェルト様式が取り入れられており、トランペットはトゥッティには加わらず、完全にソロとして参加します。実質的にトランペット協奏曲といっていいでしょう。緩急は、AABA´BA´として繰り返されます。バロック・トランペットだからこそ音量の調和がとれますが、現代のトランペットで演ったら突出しすぎます。本当にこの曲を食卓で演奏したら、会話など聞こえなくなってしまうでしょう。〝ターフェルムジーク〟というのは名前だけ、というのがこの曲でも分かります。

第2楽章 エール(テンポ・ジュスト)

この組曲では、序曲のあと、4曲の、速度の違う「エール」が続きます。通常のフランス風組曲では舞曲が通例なので、これは新しい工夫です。標題だけはフランス風に「エール」としていますが、速度表記はそれぞれイタリア語になっており、形式的には舞曲を離れた器楽曲として、後年のシンフォニーの楽章を指向しているのです。

親しみやすく、楽しいテーマが協奏曲風に展開していきます。中間部のある3部構成になっています。

第3楽章 エール(ヴィヴァーチェ

これまで主役だったオーボエとトランペットがやや脇役に回り、ソロはヴァイオリンが担います。メヌエット風の高雅な曲想です。

第4楽章 エール(プレスト)

実に楽しい、元気いっぱいの運動会風の曲です。トランペットとオーボエが鳥たちの声のように呼び交わすさまには、思わず体が動いてしまいます。シンコペーションロンバルディア・リズムなどの技法を駆使しています。

第5楽章 エール(アレグロ

形式はこれまでのエールと同じですが、明るい中にも、組曲の終曲としての深みと余韻をもたせた印象深い楽章です。

第2曲 四重奏曲 ニ短調

編成:フルート(フラウト・トラヴェルソ)2、リコーダー(ブロックフレーテ)と通奏低音

第1楽章 アンダンテ

全曲でも最も有名な曲で、「ターフェルムジーク」と聞いたら、まずこの曲を思い浮かべる人も多いでしょう。2本のフルートと、1本のリコーダーが織りなす、横笛と縦笛の競演は、その音色だけでも愛らしく、魅了されてしまいます。〝ドイツ・フルート〟とも呼ばれたリコーダー(ブロックフレーテ)は、より表現の幅が広い〝フランス・フルート〟(フラウト・トラヴェルソ)に押され、まもなく、いったん消える運命にあります。バロック最後の共演ともいえる曲で、あたかも蒸気機関車電気機関車重連運転を見るかのようです。この楽章では両者が、3声で、ときには2声対1声になって、切なさを秘めた音型を模倣し合います。

第2楽章 ヴィヴァーチェ

今度は2本のフルートが呼び交わす中に、リコーダーが独立したメロディを展開させていきます。実に凝った作りの曲です。

第3楽章 ラルゴ

3本の笛がソロを交替で担当し、やすらぐシチリアーノを奏でるなか、残りの2本が和すという、これも凝った趣向の曲です。

第4楽章 アレグロ

全曲の中でもっとも好きな曲です。何度聴いても飽きることがありません。3本の笛が一斉にはしゃぐようなテーマを奏でたかと思えば、一転、独立した動きを見せるという、ホモフォニーとポリフォニーの対比が見事です。そして、並行進行で奏でられる中間部は、まるで初夏のさわやかな風が吹き渡るかのようで、心奪われます。モーツァルトの「フルートとハープのためのコンチェルト」を思い起こします。

第3曲 コンチェルト(協奏曲) ヘ長調

編成:ヴァイオリン3、3声の弦楽合奏通奏低音

第1楽章 アレグロ

吹奏楽器は登場せず、弦楽のみのコンチェルトで、曲想も構成もヴィヴァルディ風の3楽章です。トゥッティの間に3台のヴァイオリンが、独立した、技巧的なソロを展開するリトルネッロ形式です。リトルネッロのテーマは、ヘンデルがオラトリオ『ソロモン』の中のシンフォニアシバの女王の入城』に転用しました。

参考曲:ヘンデルシバの女王の入城』

第2楽章 ラルゴ

3台のヴァイオリンが静かに対話する、深い抒情をたたえた音楽です。ソロ部分では、通奏低音が沈黙し、バッハの無伴奏曲を思わせる宇宙的な空間が現出します。

第3楽章 ヴィヴァーチェ

ここでも、フーガ風のトゥッティと、ホモフォニックなソロが対比され、イタリアの香りたっぷりに締めくくられます。

第4曲 トリオ・ソナタ ホ短調

編成:フルート(フラウト・トラヴェルソ)、オーボエ通奏低音

第1楽章 アフェトゥオーソ

今度は、フルートとオーボエという組み合わせで、同じ曲集の中でも多彩な音色が楽しめるように工夫されています。第1集と同じ教会ソナタ形式です。フルートとオーボエは時には同じ音型を、時には違った音型を交互に奏します。

第2楽章 アレグロ

颯爽としたアレグロです。フルートとオーボエの一体感を強めた楽章です。

第3楽章 ドルチェ

しっとりと落ち着いた〝甘い〟楽章です。フルートとオーボエは、恋人同士のように、ふたりでひとつのメロディを織りなしていきます。

第4楽章 ヴィヴァーチェ

メロディを両者で分担するのは前曲と同じですが、打って変わって緊張感に満ち溢れています。

第5曲 ソロ・ソナタ イ長調

編成:ヴァイオリンと通奏低音

第1楽章 アンダンテ

第2集のソロ・ソナタはヴァイオリンが担当します。まさにテクテク歩くかのようなアンダンテから始まります。

第2楽章 ヴィヴァーチェ

舞曲風な闊達な楽章です。同音反復や重音奏法を取り入れた華麗なパッセージをヴァイオリンが繰り広げます。当時のヴァイオリンの技法には舌を巻きます。

第3楽章 カンタービレ

ヴァイオリンと通奏低音との対話が印象的な、しっとりと落ち着いた楽章です。

第4楽章 アレグロアダージョアレグロ

第2楽章と同じような舞曲風の趣が戻ってきます。華麗なパッセージのあと、アダージョがつなぎのように挿入されるのが、実にかっこよく、粋です。

第6曲 終曲 ニ長調

編成:オーボエ、トランペット、弦楽と通奏低音

アレグロアダージョアレグロ

序曲と同じ編成の、華やかなフィナーレです。リトルネッロ形式の間に、ホモフォニックな中間部が挿入され、トランペットとオーボエが哀愁漂う素敵なソロを披露してくれます。 

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 

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