孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

どれが実像に近い?3つの肖像画。ヴィヴァルディ:協奏曲集『調和の霊感 作品3』第4番~第6番

ヴィヴァルディの真の姿は?

ヴィヴァルディについては、主に3つの肖像画が伝わっています。

他にも何点かありますが、基本は3点を模写したものです。

一番有名なのはこちらで、CDのジャケットや教科書にも載っていますが、これは実は、ヴィヴァルディのものとは分かっていないのです。

ボローニャの市立音楽院の図書館に伝わっている作者不詳のものなのですが、魅力的ではあるものの、モデルについての情報は全くなく〝ヴァイオリンを持っているし、ヴィヴァルディかも?〟といわれているだけです。

〝カツラの境目に赤毛が見える〟という分析もありますが、絵の具の成分上のことという指摘もあり、結局のところ本人かどうかはかなり疑わしいとされています。

赤い服を着ているので、なんとなく〝赤毛の神父〟を連想したくもなりますが…

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ボローニャに伝わる作者不詳のヴィヴァルディとされる肖像画

美化されたプロモ画像

次は、ヴィヴァルディ自身が描かせた肖像です。

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F.M.ド・ラ・カーヴ画のヴィヴァルディ像

これは、アムステルダムで出版した、あの『四季』を含む協奏曲集『和声と創意の試み 作品8』の楽譜の販売促進のため、1725年にフランス系オランダ人のF.M.ド・ラ・カーヴに描かせた銅版画です。

本人が自身のプロモーションのため描かせた、いわばブロマイドですから、かなり美化されていると思われます。

また、ヴィヴァルディはオランダには行っていませんから、画家が直接見て書いたわけではありません。

何らかのスケッチか油彩の肖像画を送り、それを元に印刷用に版刻されたと考えられますので、ヴィヴァルディの実像にどこまで近いかは、眉唾です。

実像に近いのは漫画?

実は、一番ヴィヴァルディの〝実像〟に近いといわれているのは、次の〝漫画〟なのです。

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ゲッツィの風刺画

これは、マルケ地方出身の風刺画家、ピエール・レオーネ・ゲッツィ(1674-1755)が描いたものです。

彼はローマピエトロ・オットボーニ枢機卿に仕えていました。

オットボーニ枢機卿ヴェネツィア出身で、後に教皇アレクサンデル8世となりますが、音楽家を保護し、コレッリはその一番のお気に入りでした。

その縁で、オペラを上演するため、1723年にローマを訪れ、枢機卿邸に滞在していたヴィヴァルディと出会ったのです。

ゲッツィは1枚の絵に、鼻の大きな3人の聖職者の戯画を描いたのですが、そのうちの一番左がヴィヴァルディでした。

キャプションに赤毛の司祭。1723年のカプラニカ劇場上演演目のオペラを作った作曲家』と書かれているので、間違いありません。

意地悪な風刺画ですので、鼻などデフォルメされていますが、3人の中では一番まともで、彼の容貌の特徴をよくとらえているといわれています。

当時ヴィヴァルディは45歳でした。

ヴィヴァルディ自身がこれを見て、怒ったのか、笑ったのか、それは分かりませんが。

しかし、これが一番実像に近いといっても、学校の音楽室でバッハやベートーヴェンショパンたちの肖像の横に並べたら、とても釣り合いが取れませんね。

 

それでは、前回に続き『調和の霊感』第4番から第6番を聴きます。

ヴィヴァルディ:『調和の霊感 作品3』第4番 4つのヴァイオリンのための協奏曲 ホ短調 RV550

Antonio Vivaldi:L'estro Armonico op.3, no.4 Concerto con 4 violini e violoncello E-moll, RV550

演奏:ファビオ・ビオンディ(指揮とヴァイオリン)、エウローパ・ガランテ

Fabio Biondi & Europa galante

第1楽章 アンダンテ

ヴィヴァルディでは少数派の4楽章のコンチェルトです。形式としては、コレッリによくある緩ー急ー緩ー急の教会ソナタソナタ・ダ・キエサ)」ですが、フーガは使われておらず、シンプルな作りです。トゥッティは、第1&第3ヴァイオリン、第2&第4ヴァイオリン、チェロ・コントラバスチェンバロがそれぞれユニゾン、これにヴィオアが加わって4声部です。独奏の4つのソロ・ヴァイオリンもあまり絡み合いません。

第1楽章は、トゥッティによる、フランス風序曲を思わせる重々しい付点リズムの導入楽章です。低音部の半音階が味わいを深めています。独奏ヴァイオリンは上昇する音階を交互に奏で、なんともいえない高貴な雰囲気が醸し出されます。

第2楽章 アレグロ・アッサイ

情熱的な激しい楽章です。4回の颯爽としたトゥッティに挟まれ、ソロが3回、華やかな技を繰り広げます。

第3楽章 アダージョ

わずか8小節の楽章ですが、抒情的な響きです。ホ短調ではじまり、属調ロ短調に転調して、最終楽章につなげます。

第4楽章 アレグロ 

草原に暮らす遊牧民族のダンスのような、哀愁を秘めたトゥッティが4回あらわれるリトルネッロ形式です。テーマはかなり長いもので、間にはさまれたソロは、ヴァイオリンの組み合わせを変えながら、変幻自在に展開する、情熱あふれるフィナーレです。

ヴィヴァルディ:『調和の霊感 作品3』第5番 2つのヴァイオリンのための協奏曲 イ長調 RV519

Antonio Vivaldi:L'estro Armonico op.3, no.5 Concerto con 2 violini A-dur, RV519

第1楽章 アレグロ

リトルネッロ形式のトゥッティは、モーツァルトのヴァイオリン・コンチェルト第4番『軍隊』冒頭を思わせる、楽しくて印象的なフレーズです。間のソロはいかにもヴィヴァルディらしい、鳥のさえずりのような華やかなものです。トゥッティは3回目、4回目で大きく変化し、ソロも、第1ソロではふたつのヴァイオリンが対等ですが、第2ソロの後半からは第1ヴァイオリンが目立ち始め、第3ソロではついに第1ヴァイオリンだけになるという工夫をしています。

第2楽章 ラルゴ

第1ヴァイオリンがソロで抒情的なメロディを歌い上げ、トゥッティは控えめにそれを支えます。12小節の〝小憩タイム〟といった趣きです。

第3楽章 アレグロ

ブランコに乗っているようなリズム感ですが、トゥッティとソロが交代していく中で、時には雄大に、時には情熱的に展開していきます。このめくるめくヴィヴァルディの世界に人々は圧倒され、魅了されたのです。 

ヴィヴァルディ:『調和の霊感 作品3』第6番 ヴァイオリン協奏曲 イ短調 RV356

Antonio Vivaldi:L'estro Armonico op.3, no.6 Concerto per violino A-dur, RV356

第1楽章 アレグロ

『調和の霊感』でもっとも有名な、ヴィヴァルディのコンチェルトの中でも時にポピュラーな曲です。初心者でも演奏がしやすいので、ヴァイオリンを習う人には〝ヴィヴァルディのイ短調〟と親しまれています。ピアノでの〝ソナチネ〟にあたるでしょうか。

私には酸っぱい思い出があって、大学受験に失敗しての浪人中、机に向かって勉強していると、毎日のように向かいの家のお嬢さんがヴァイオリンの練習をする音が聞こえてくるのですが、それがこの〝イ短調〟でした。しかし、お気に入りなのかずっと同じ曲ばかりで、しかも同じ箇所で必ずつっかえるので、気が散ることこの上なく、イライラして耳を塞いだものです。練習ですから仕方のないことなのですが、そのせいでこの曲は、辛い日々を思い出すので長い間嫌いでした。さすがにもう時効ですが。

単純に聞こえるテーマですが、リトルネッロの動機の断片を労作して統一感をもった楽章に仕上げている傑作で、まさに新しい時代を開く音楽といえます。

第2楽章 ラルゴ

たった14小節しかない楽章ですが、ソロ・ヴァイオリンの奏でる美しいメロディは、前半と後半に分けられ、後半は前半の変奏になっているのです。

第3楽章 プレスト

焦燥感をまとった速い楽章です。繰り返されるリトルネッロ部分は、登場するたびにホ短調イ短調ハ長調イ長調と転調し、しかも冒頭だけの再現にとどまって、華麗なソロを引き立てます。最後は見せ場のソロで、颯爽と、かつさりげなく曲を閉めるのです。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 

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