前回、前々回からご紹介している曲の作曲者、私の大好きなコレッリのご紹介をします。
アルカンジェロ・コレッリ。
コレルリ、コレリ、と表記されることもあります。
1653年に北イタリア、フジニャーノで生まれ、ボローニャで音楽教育を受け、最後は1713年、ローマで生涯を終えます。
ヴィヴァルディより25歳、バッハ、ヘンデルより32歳先輩、ということになります。
ヴァイオリンを習っている人は皆知っていますが、それ以外にはほとんど知られていない作曲家です。
しかし、クラシック史上では大きな影響を残し、後世のお手本とされています。
当時ヨーロッパ一のヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ(達人)であり、多くの作品を生み出したはずですが、残された作品は少ないです。
それは、作品を何度も推敲し、選び、後世に残す価値がある、と慎重に判断したものだけを厳選して出版したから、と言われています。
出版されたものは、それぞれ12曲セットで6つ。非常に整然としています。
トリオ・ソナタ集 作品1
トリオ・ソナタ集 作品2
トリオ・ソナタ集 作品3
トリオ・ソナタ集 作品4
ヴァイオリン・ソナタ集 作品5
コンチェルト・グロッソ集 作品6
この他には数曲が伝えられるのみ、さらに管楽器を使った作品は1曲のみで、ほとんど全て弦楽器用の作品です。
コレッリは、性格も穏やかで、寛容な人格者だったといいます。
若きヘンデルがイタリアに来て成功したとき、その新作をコレッリとその仲間たちが演奏することになりました。
イケイケのヘンデルの曲はかなり激しく、当時としてはまるで〝ヘビメタ〟のようだったので、コレッリは作曲者の思い通りにはなかなか弾けませんでした。
あまりにも穏やかな演奏ぶりに業を煮やしたヘンデルは、リハ中にこの大先輩、しかもヨーロッパ一の名人の手からヴァイオリンをひったくり、こうやるんだ、と弾いてみせました。
しかしコレッリは怒らず『ねえザクセンさん、この曲はフランス風でしょ?僕はこういうのに弱いんですよ。』と言ったといいます。
このエピソードだけでもコレッリの人柄がうかがえますね。
彼が亡くなったあと、遺産は12万マルク、さらにブリューゲルやプッサンなどの名画コレクション136枚という莫大なものだったのですが、生前はそんな資産があるとは思えない質素な暮らしぶりだったので、みな驚いたそうです。
しかもその遺産は、自分がお世話になった後援者や召使、友人たちに遺贈されていました。友人たちは遠慮してコレッリの遺族に返還したとのことです。
今回ご紹介するトリオ・ソナタは、2台のヴァイオリンと通奏低音で奏されます。
通奏低音は、チェンバロやオルガンと、チェロやリュート、テオルボなど2人で担当しますので、トリオといっても演奏者は4人です。
コレッリのトリオ・ソナタには、『ソナタ・ダ・キエサ(教会ソナタ)』と、『ソナタ・ダ・カメラ(室内ソナタ)』の2タイプがありますが、教会ソナタの方はアレグロ、アダージョ、など速度表記の曲、室内ソナタはアルマンド、ジーガなど舞曲で主に構成されている形式上のことで、教会ソナタは教会用、などと用途が限定されているわけではありません。
Corelli : Sonata in F major, op.1, no.1
演奏:サイモン・スタンデイジ(ヴァイオリン)、ミカエラ・コンヴェルティ(ヴァイオリン)、アントニー・プリース(チェロ)、ナイジェル・ノース(アーチリュート、テオルボ)、トレヴァー・ピノック(オルガン、チェンバロ)
Simon Standage , Micaela Comberti , Anthony Pleeth , Nigel North , Trecor Pinnock
コレッリの人柄が偲ばれる、清澄で優しい響きです。
いずれも、秋の雨の夜に心に沁み入る、癒しの音楽です。
これを自分で弾けたら、どんなに素晴らしいことでしょう。
アルバムの他のソナタもぜひ聴いてみてください。
出版された作品3の楽譜の扉の絵には、〝posteritati〟すなわち〝後世に〟と刻まれています。
コレッリは自分の芸術が後世の人のためになるように願って作品を残したことがわかります。
クラシック、すなわち古典とは、時代を超えて、後世の規範になるような価値あるものを指します。
まさにコレッリの曲こそ、〝クラシック〟の最たるものと思います。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
にほんブログ村
クラシックランキング