合奏協奏曲とは
大好きなコレッリをご紹介してきましたが、いよいよ最後の作品です。
合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)は、バロック時代に流行した形式です。ソロ・コンチェルトとは違い、複数のソロ楽器群(ソーリ)と、全体合奏(トゥッティ)との掛け合いで構成されます。
トリオ・ソナタに、教会ソナタと室内ソナタの二種類があるとご紹介しましたが、この曲集でも1番から8番までが教会コンチェルト、9番から12番が室内コンチェルトになります。教会コンチェルトでも舞曲風の楽章は多いので、普通に聴く分には違いは分からないと思いますが。
コレッリ唯一の合奏曲であり、12曲全てが古典的気品にあふれ、癒しと優しさに満ち、私の人生を支えてくれたかけがえのない曲たちです。
どれほど繰り返し聴いたことでしょう。
ここでは、第1番と第8番をご紹介します。
コレッリ『合奏協奏曲集 作品6 』
Corelli : 12 Concerti Grossi, op.6
演奏:トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート
Trevor Pinnock & The English Concert
コレッリ『合奏協奏曲作品6 第1番 二長調』
第1楽章 ラルゴ
ゆっくりと深呼吸をするような、どこまでも優しいラルゴで始まります。聴くだけで、深い愛情に満たされていくような思いがします。
遊び心に満ちた楽章です。ソーリの速いパッセージと、トゥッティのゆっくりしたパッセージが交替しますが、決して焦燥感はなく、落ち着いた〝大人の遊び〟です。
第3楽章 ラルゴ
優しくて、それでいて、どこまでも気高い気品にあふれた絶品の音楽です。ソロとトゥッティの掛け合いは美の極致といえます。
短調の、やや哀感を帯びた速い楽章です。ヴィヴァルディの速い楽章と比べると、コレッリの特徴がよく分かります。
第5楽章 ラルゴ
切ないまでの情感にあふれた楽章ですが、ここでも優しさは変わりません。晩秋の夕暮れのような情景が広がります。
フーガといえばバッハですが、コレッリのフーガの、天空はるか翔るようなさわやかさは、これこそフーガ、という感じがして胸がいっぱいになります。
最後は、ジーグ風の楽しい踊りで締めくくられます。 何度も推敲を重ねられたであろう、後世の規範となる完璧なコンチェルトです。
コレッリ『合奏協奏曲作品6 第8番ト短調〝クリスマス・コンチェルト〟』
12曲中最も広く親しまれている有名な曲で、一般的には、コレッリといえば〝ラ・フォリア〟か、この〝クリスマス・コンチェルト〟が挙げられます。また、短調なのは、第3番ハ短調とこの曲だけです。
第1楽章 ヴィヴァーチェ―グラーヴェ
暗い雰囲気から始まり、重く荘重な音楽が続きます。クリスマスの雰囲気からは程遠いので、イメージからこの曲を聴き始めた人は面食らうでしょう。
コレッリには珍しい、激しく嵐のように吹き荒れる楽章です。通奏低音の動きにしびれます。
穏やかな雰囲気になり、静寂につつまれた夜のように落ち着きますが、そのうちまたざわめきはじめ、また静寂が戻る・・・という繰り返しが胸に迫ります。
サラバンドのリズムが荒野をさすらうかのようです。
ソロのヴァイオリンが技巧をみせる、嵐のような速い楽章で、次の平和な情景を引き立てる役目を果たしています。
第6楽章 パストラーレ
嵐が去り、第5楽章から休みなく続きますが、実はこれだけが〝クリスマスの音楽〟なのです。ゆったりと抒情的な旋律が心に沁み入ります。ジングルベル鳴る華やかなクリスマスのイメージとは全く違いますが、これが本来のヨーロッパのクリスマスなのです。イエスの産まれる聖夜、羊飼いたちの前に天使が現れ、救い主の降誕を告げ知らせます。そんな奇蹟を迎える前の、のどかで牧歌的な夜を現した音楽です。満天の星空の下、羊たちの眠る草原に穏やかな風が吹きわたり・・・。
パストラーレは、羊飼いを意味するパスラーレから来ており、〝パストラル〟は田園を意味する言葉にもなりました。
ベートーヴェンの〝田園〟シンフォニーは、作曲者本人によって〝シンフォニア・パストラーレ〟と名付けられています。ベートーヴェンの田園はクリスマスとは関係なく、純粋な田舎の素晴らしさを描いたものですが。
コレッリのパストラーレは、バロック音楽の最も美しいページのひとつです。
コレッリは1713年、惜しまれつつローマでその生涯を終え、パンテオンに葬られました。葬儀では、弟子によってコンチェルト・グロッソ第3番ハ短調が演奏されたといいます。
私は敬愛するコレッリの墓に詣でるべく、ローマに行ったときにパンテオンの中を探し回りましたが、どうしても見つけることができませんでした。あの時には時間がなかったので、もう一度ローマに行ったときには人に尋ねて探し当てたいと思っています。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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