チェンバロ・コンチェルトに続き、バッハの現代音楽に通じる斬新さを味わうことができるのは、ブランデンブルク・コンチェルトです。
〝ブランデンブルク協奏曲〟なんという威厳に満ちた、重々しい名前でしょう。
私も最初に名前を知ったときには、荘厳な宗教曲のようなイメージを受けました。
しかし、この曲群は、バッハの中でも特に親しみやすい曲といえます。
バッハを聴きはじめる、という人にはまずおすすめしたいです。
形式は、コレッリのところでご紹介した合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)です。
独奏楽器群(ソーリ)と、全体合奏(トゥッティ)の掛け合いで曲が進んでいきます。
ヴィヴァルディやコレッリの曲集はたいてい12曲1セットで出版されていますが、ブランデンブルク・コンチェルトは6曲セットです。
さらに驚きなのは、6曲の楽器編成や規模が全く違うということです!
こんなのは他に見あたりません。どうしてそうなったのでしょうか。
ブランデンブルク、という名前の由来にもなりますが、前回触れたように、バッハはケーテンの宮廷楽長時代、音楽好きの主君から優れたオーケストラを与えられ(バッハが優れたオーケストラにした、の方が正しいかもしれませんが)、思う存分、様々な曲を作曲しました。
その間、他国の君主に会う機会もあり、ブランデンブルク=シュベート辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒ、という王族の御前で演奏したことがあります。
その際、曲を作って欲しい、と依頼を受けました。
はい、そのうち・・・とその場はお茶を濁したようなのですが、その後、ケーテンの主君に音楽嫌いのお妃が来て、宮廷楽団の縮小が決まり、バッハは再就職を考えるようになりました。
そこで、以前の依頼を思い出し、就活を意識してブランデンブルク伯に6曲の作品を献呈したのが、このコンチェルト集になります。
しかし、わざわざ新曲を書き下ろしたのではなく、ケーテン時代(それ以前のものもあるという説もあります)に様々な機会に書いた作品を寄せ集めて送ったために、このようなバラバラの曲集になったのです。
そもそも、ブランデンブルク伯の宮廷の演奏家は6人しかいなかったのですから、演奏は不可能でした。
あくまでも、自分の実力を示す履歴書のようなものだったといえます。
しかし、そのお陰で、私たちはこのコンチェルト集を聴くとき、いろんな風味や食感の違いを楽しめるフルーツバスケットを味わうような思いをすることができるのです。
1番から6番まで、番号がふってありますが、作曲の順番は、古いものから6番→3番→1番→2番→4番→5番であるといわれています。
ここでは、通常の通し番号順にご紹介していくことにします。
Brandenburg Concerto no.1 in F major , BWV1046
演奏:トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート
Trevor Pinnock & The English Concert
全曲で最大の編成で、独奏楽器群(ソーリ)はホルン2、オーボエ3、ファゴット1、ヴィオリーノ・ピッコロ(高く調弦されたヴァイオリン)という、ブラスバンドか、と思うほどたくさんの管楽器が登場しています。
第1楽章 (速度表記なし)
ホルンの活躍が、のどかな田舎の楽隊が演奏しているような牧歌的な雰囲気を醸し出しています。村祭りに参加して、牧草地にピクニック弁当でも広げながら聴いているつもりで、耳を傾けてみてください。そよ風が吹き、空にはゆったりと雲が流れています。
哀調を帯びた楽章ですが、今度はオーボエの活躍の場です。オーボエというのは、習いたての中学生が吹くとまるでチャルメラですが、熟達した人が奏すると、本当に味わい深い音色になります。他の楽器と呼びかわすさまは本当に美しく、うっとりとしてしまいます。
また田舎のお祭りがはじまります。楽器たちがそれぞれの出番でうれしく歌い、そしてみんなで盛り上げていきます。CDでは、それぞれの楽器の動きは耳を澄まさないとわかりにくいですが、実際の演奏を聴くと、楽器たちの持ち場、役割がビジュアル的に分って、感動も格別です。
第4楽章 メヌエット-トリオ-ポラッカ
他の曲は全て3楽章編成なのですが、この曲ではうれしい〝おまけ〟がついています。
まるでアンコール曲のようですが、実に充実した構成の楽章です。
最初は上品な貴族のダンス、メヌエットで、田舎の楽隊も居住まいを正しているかのようです。そして、メヌエットの間には3つの中間部がはさまれ、1回目と3回目のトリオは管楽器、2回目のポラッカは弦が受け持ち、楽しい出し物にしてくれています。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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