ブランデンブルク・コンチェルト第5番は、6曲中、一番有名で親しまれている曲といえるでしょう。独奏楽器は、チェンバロ、フルート、ヴァイオリンですが、なんといってもチェンバロが主役です。
1718年、ケーテンの宮廷では、バッハがおねだりしたのか、殿様レオポルト侯が思いついたのか分りませんが、大型のチェンバロをベルリンの工房に特注することになりました。チェンバロの構造にはバッハが色々注文をつけ、翌年にはバッハ自らベルリンにチェンバロを受け取りに行きました。チェンバロ代と旅費で、バッハは宮廷から130ターラーという大金を受け取った、という記録が残っています。
こういう浪費を、後に来るお妃は許さなかったのかもしれませんが、我々後世の者としては、殿様の道楽が人類の宝を生み出したのですから、感謝しなければなりません。
いやその感謝は、陰で重い税負担に苦しんだ領民にこそ捧げなければならないかもしれませんが。
後にこの曲を献呈することになるブランデンブルク辺境伯とは、このベルリン旅行の際に会い、御前演奏をしたのではないか、といわれています。
そして、新しいチェンバロのお披露目のため、その実力、効果を最大限引き出すために書かれたのが、この曲なのです。
合奏楽器の方には第2ヴァイオリンがないのですが、それはいつもヴィオラを担当していたバッハがチェンバロに回ったため、第2ヴァイオリン奏者がヴィオラを担当せざるを得なかった、という事情によります。
歴史的な芸術作品も、こうした台所事情で中身が変わってしまうというのも、この時代ならではですね。
Brandenburg Concerto no.5 , D major , BWV1050
演奏:トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート
Trevor Pinnock & The English Concert </p
いきなりバッハが気合い十分で臨んでいるのが、冒頭から分かります。元気いっぱいなこのテーマは、ブランデンブルク・コンチェルトの看板的存在ですが、途中で何回も現れ、聴く人を興奮させます。そしてチェンバロの上にフルートとヴァイオリンが変奏を繰り広げ、愉楽の世界を展開させていきます。
そして、終わり近くのチェンバロ独奏カデンツァ。いったいいつ終わるのやら・・・というくらい長大です。最初聴いたときは、レコードが壊れたのかと思ったくらいです。
実はこの曲の初稿ではもう少し短かったのですが、届いたチェンバロの素晴らしさに、バッハは長いヴァージョンを書く気になったのでしょう。
新しい大型チェンバロのお披露目のために、ふだん縁の下の力持ちとして通奏低音担当で、音の小ささからも独奏楽器にはなれなかったチェンバロを、意識的に主役に抜擢したわけですが、これが大きな効果を生み、チェンバロ・コンチェルトを、そして後年のピアノ・コンチェルトにつながっていきます。この曲は、ピアノ・コンチェルトと元祖といわれているのです。
第2楽章 アフェトゥオーソ
独奏楽器だけで奏でられる哀歌です。こういう時のフルートは本当にもの悲しく響き、心を打ちます。
ヴァイオリンがスキップするような楽しげなメロディを奏で、それを独奏楽器がフーガで受け継いでいきます。リズムは舞曲のジーグで、チェンバロのはしゃぎっぷりも微笑ましいですが、途中、哀しげなメロディが出てくるのも印象的です。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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