ケルビーノの歌が終わると、ふたりの微妙な心をよそに、スザンナは作戦通り、ケルビーノの女装を始めようとします。
伯爵夫人は、誰か来たら大変・・・と心配しつつも、スザンナに衣装部屋へ服を取りに行かせます。
ケルビーノは伯爵夫人と二人きりになり、軍隊に行かされる辞令を夫人に見せます。
夫人は、あの人も気が早いわね、と言いながら辞令を見て、伯爵の印が捺されていないことに気づきます。これは後で役に立ちます。
スザンナが戻ってきて、アリアを歌いながら、ケルビーノを着替えさせます。
これが、スザンナの魅力炸裂のアリア、『さあ、膝をついて』です。
前にご紹介した通り、ケルビーノはもともと女性が男装して演じるズボン役。
そのケルビーノをからかいながら脱がせ、女性の服を着せていきます。
スザンナは、自分で少年を脱がせて服を着せるという行為が楽しくって仕方がなく、ノリノリで、お色気たっぷりに歌います。
高貴で真面目な伯爵夫人は、目の前で繰り広げられるハレンチな行為から目をそむけつつも、扇の間からチラチラと目線を送ります。
ケルビーノは、着替えなどしたくもなく、スザンナのなすがままにされながら、伯爵夫人に目が釘付けです。
ちょっとしたエロスを感じさせる場面で、明るく、コケティッシュに歌うスザンナに、もう、私もメロメロです。
第12曲 スザンナのアリア『さあ、膝をついて』
スザンナ
さ、膝をついて
そのままじっとしてて
ちょっと、こっちを向いてよ
いいわ、よく似合うわ
ほら、私の方を向いて
奥様の方じゃなく!
まっすぐ私を見なさいってば!
そう、首をもっと伸ばして
目線は伏せて
手は胸の下に
立ってみて
歩く様子を見せて
いいわ!
(伯爵夫人に)
このいたずらっ子をご覧ください!
なんてかわいいんでしょう!
このちょっとずるそうな目つき
女の子たちが夢中になるのも無理ありませんわね
300年前からメイドは萌え萌え?
スザンナのようなメイドは、『フィガロの結婚』のような〝オペラ・ブッファ〟には欠かせない役なのです。
〝オペラ・ブッファ〟は、軽喜劇と訳され、もともとは、内容のシリアスな正歌劇の幕間に、気分転換として、コミカルなお笑い芸のように演じられたものでした。
正歌劇は〝オペラ・セリア〟といい、ギリシア神話や古代ローマの英雄の物語が題材で、内容はたいがいハッピーエンドでは終わるものの、重いもので、モーツァルトの7大オペラの中では、『クレタの王イドメネオ』と、『皇帝ティトゥスの慈悲』の2作がこのジャンルです。
しかし、モーツァルトの時代では、本来脇役であったオペラ・ブッファが人気となり、主役を張るようになりましたが、そのきっかけは、26才の若さで世を去った作曲家ペルゴレージ(1710~1736)のオペラ・ブッファ『奥様女中』が大人気となってからです。
オペラ・セリア『誇り高き囚人』の幕間劇(インテルメッツォ)として作曲されましたが、本作から切り離され、全ヨーロッパで繰り返し上演されました。
あらすじは、したたかで賢いメイドが、ご主人様を強引に振り回し、まんまと奥様の座におさまる、というものです。
そこから、オペラ・ブッファでは必ず、かわいくて賢く、機知に富んだやり手のメイドが活躍するようになりました。
モーツァルトの『コシ・ファン・トゥッテ』でも、デスピーナというメイドが活躍します。
デスピーナはスザンナのようなお色気美人ではなく、女芸人風ですけれども。
というわけで、18世紀からメイドは人気なのですが、現代日本でも、秋葉原のメイド喫茶に代表されるメイド人気(文化?)は根強いですよね。
いわゆる〝メイド服〟は18世紀のものではなく、19世紀英国ヴィクトリア朝時代がモデルらしいですが。
私はメイド喫茶に行ったことがないのですが、メイドのコスプレをした子に、ただ『お帰りなさいませ、ご主人様』と言われるだけではつまらないですね。やはりそれは、倫理道徳にうるさく堅苦しい時代だったヴィクトリア朝のメイドです。
スザンナのように、油断するとこちらが手玉にとられるような、緊張感あるやりとりができる18世紀型メイドが接客してくれるお店なら、通い詰めてしまうかもしれませんが。笑
次回、波乱です。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
にほんブログ村
クラシックランキング