孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

ふたりの門出は邪魔ばかり。モーツァルト:オペラ『フィガロの結婚』あらすじと対訳(13)『第2幕フィナーレ 後半』

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伯爵の追及に、とぼけるフィガロ

フィガロの結婚』第2幕第9場

大波乱があったことなど知るよしもないフィガロは、一刻も早く結婚式を始めようと、部屋に飛び込んできます。

楽士たちがもう来てますよ、と伯爵を急かします。

しかし、部屋の空気がどうも違う…。

第15曲 第2幕のフィナーレ②

フィガロ

伯爵様に奥様、外にはもう楽士たちが来ております

ラッパや笛の音が聞こえますでしょう

さあ、ご領民たちが歌ったり、踊ったりしておりますので

どうかお出ましになって、結婚式を始めましょう

伯爵

まあ落ち着け

そう急ぐな

フィガロ

みんなが待っているんです

伯爵

行く前に、たずねたいことがある

スザンナ、伯爵夫人(ふたりでひそかに)

まずいことになったわ、どうなるかしら

伯爵

はっきりさせなければいけないことがある

(手紙を見せて)

さてフィガロ殿、この手紙を書いたのは誰か、知っておられるか?

フィガロ

存じません

スザンナ(フィガロに)

知らないの?

フィガロ

はい、知りません

伯爵夫人(フィガロに)

知らないって?

フィガロ

知りません!

伯爵、伯爵夫人、スザンナ

知らないって?

フィガロ

はい、全く!

スザンナ

あんたがバジリオに渡したでしょ?

伯爵夫人

届けろと言って

伯爵

分かったか?

フィガロ

いえ、さっぱり

スザンナ

ほら、あの坊やが・・・

伯爵夫人

今晩、お庭で・・・

伯爵

もう分かっただろう

フィガロ

全く分かりません

伯爵

ごまかそうとしてもダメだぞ

ウソだと顔に書いてある!

フィガロ

ウソをついているのは顔の方でして。

スザンナ、伯爵夫人(ひそかにフィガロに)

何を言っても無駄。私たちがバラしてしまったの。

伯爵

答えろ!

フィガロ

何とも、はや

伯爵

では認めるのだな?

フィガロ

いいえ、認めません

スザンナ、伯爵夫人

鈍いわね、もうお芝居は終わったのよ?

フィガロ(伯爵に)

では、芝居は楽しく終えるのが劇場の定め

それに従いまして、結婚式を執り行うといたしましょう

伯爵夫人、スザンナ、フィガロ(伯爵に)

伯爵様、どうか反対なさらず、望みをお聞き届けください…

伯爵(傍白)

マルチェリーナよ、遅いぞ…

伯爵は、これ以上追及しても水掛け論だとあきらめ、マルチェリーナが起こす裁判で結婚をぶち壊すことに望みをかけます。

何とか手紙偽造をごまかし通したフィガロ

ピンチを切り抜けたかに見えましたが、スザンナの叔父でバルバリーナの父、アントニオが飛び込んできます。

フィガロの結婚』第2幕第10場

第15曲 第2幕のフィナーレ③

アントニオ

ああ、伯爵様、伯爵様…!

伯爵

何ごとだ?

アントニオ

ひどい奴だ!

いったい誰だ!

いったい誰だ!

伯爵、伯爵夫人、フィガロ、スザンナ

いったい何ごと?

アントニオ

聞いてくだされ!

伯爵、伯爵夫人、フィガロ、スザンナ

早く話して

アントニオ

バルコニーから庭に、いろんなものが落とされますが、

さっきはなお悪いことに、男がひとり、落とされました!

伯爵

バルコニーから?

アントニオ

この壊れた植木鉢をご覧ください

伯爵

庭に?

アントニオ

はい!

スザンナ、伯爵夫人(ひそかにフィガロに)

フィガロ、まずいわよ

伯爵

何だと?

スザンナ、伯爵夫人、フィガロ

(傍白)この男はやっかいだ

(正白)この酔っぱらい、何しに来たの?

伯爵

男が降ってきたと?

で、どこに行ったのだ?

アントニオ

それが、足の速いやつで、あっという間にいなくなりやした

スザンナ(ひそかにフィガロに)

それは小姓よ…

フィガロ(ひそかにスザンナに)

分かってる、俺も会ったよ

(大声で笑う)わっはっはっはー

伯爵

静かにしろ!

アントニオ

何が可笑しい?

フィガロ

あんた、昼間っから酔っぱらってるな

伯爵

もう一度言ってくれ

バルコニーから男がひとり?

アントニオ

はい、バルコニーから…

伯爵

庭へ?

アントニオ

はい、庭へ…

スザンナ、伯爵夫人、フィガロ

伯爵様、この男は酔ってデタラメを言っています!

伯爵

続けろ、そいつの顔は見なかったか?

アントニオ

はい、見ませんでした

スザンナ、伯爵夫人(ひそかにフィガロに)

ね、フィガロ、聞いた?

フィガロ

ちくしょう、このケチ親父!

つまらんことで騒ぐな、こんな鉢、二束三文だろう!

仕方がないから白状するが、飛び降りたのはこの俺だ!

伯爵、アントニオ

お前だって!?

スザンナ、伯爵夫人(ひそかに)

さすがだわ!

フィガロ

驚いたか

伯爵

誰が信じるか!

アントニオ

いつからそんなに大きくなった!

飛び降りたとき、もっと小さく見えたぞ!

フィガロ

誰だって飛び降りるときは、小さくしゃがむものだ

アントニオ

そんなバカな

スザンナ、伯爵夫人(ひそかにフィガロに)

強情な人ね!

伯爵

お前はどう思うのだ?

アントニオ

子供のようでした

伯爵

ケルビーノか!?

スザンナ、伯爵夫人(ひそかに)

まずい、これはまずい…

フィガロ

ほほう、じゃあセビリアにいるあいつが、馬に乗ってやってきたというのか?

そんなに速い馬なら、今頃はまたセビリアに戻っているな

アントニオ

それもそうだな、馬は一緒に降ってこなかったなぁ

伯爵

やめろ、バカバカしい

スザンナ、伯爵夫人(ひそかに)

どうなることやら…

伯爵

じゃあ、何でお前は飛び降りたのだ?

フィガロ

怖くなりまして

伯爵

何が怖い?

フィガロ

部屋の中でスザンナを待っていましたら…

伯爵様の怒鳴り声が聞こえ…

例の手紙のことがあるものですから…

怖くなってあわてて飛び降りまして…

で、足を痛めてしまいました…

(急に足を引きずる)

アントニオ

じゃあ、この紙はお前が落としたもんだな?

(紙片をフィガロに渡そうとする)

伯爵

寄こせ!

(アントニオの手から紙片をひったくる)

フィガロ

やられた…

スザンナ、伯爵夫人(ひそかにフィガロに)

フィガロ、がんばって!

伯爵(紙片を開き、にんまりとして閉じる)

さあ申せ、これは何の紙だね?

フィガロ

ちょっとお待ちください…

いろいろございまして…

(ポケットからいろいろな紙片を取り出す)

アントニオ

借金の証文か?

フィガロ

いや、居酒屋のメニューかも

伯爵

フィガロに)言いなさい

(アントニオに)お前はもうよい

スザンナ、伯爵夫人(アントニオに)

出ておいき!

フィガロ

出ていけ!

アントニオ

出て行くが、覚えていろよ!

フィガロ

出ていけ!

お前なんか怖くないぞ

(アントニオ退場)

伯爵

ところで?

伯爵夫人(伯爵の持っている紙片を盗み見て、ひそかにスザンナに)

たいへん!

小姓の辞令よ!

スザンナ(ひそかにフィガロに)

辞令ですって!

伯爵

さあ、どうした?

フィガロ

そうそう、思い出しました、あの子から預かった辞令でしょう

伯爵

何のために預かった?

フィガロ(困って)

ないんです…

伯爵

ない?

伯爵夫人(ひそかにスザンナに)

ハンコよ!

スザンナ(ひそかにフィガロに)

ハンコよ!

伯爵

答えよ!

フィガロ(もったいぶって)

慣例では…

伯爵

早く言え!

フィガロ

辞令には伯爵様のご印がございませんと…

伯爵(辞令を見て、引き裂き、独白)

この悪党、どこまでわしを邪魔するのだ…

何から何まで、分からんことばかりだ…

スザンナ、伯爵夫人(独白)

この嵐を切り抜けたら、もうだいじょうぶでしょう…

フィガロ(独白)

してやったり…

お気の毒だが、俺様の方が上ですぜ…

第2のピンチを、薄氷を踏む思いでからくも切り抜けたフィガロとスザンナ。

しかし、ついに、伯爵の最終兵器が到着します!

マルチェリーナバルトロバジリオの3人が、ついに訴訟準備を整えて、フィガロの結婚を阻止すべく、乱入してきたのです。

フィガロの結婚』第2幕第10場

第15曲 第2幕のフィナーレ④

マルチェリーナ、バジリオ、バルトロ

公正なる伯爵様、私どもの申し出をお聞きください

伯爵(独白)

これで、やっとこいつらに仕返しができるぞ

スザンナ、伯爵夫人、フィガロ

また邪魔者が来た

どうなることか

フィガロ(伯爵に)

3人の頭のおかしい者たちです!

何をしに来たんでしょう?

伯爵

静かに、静かに

言いたいことを言いなさい

マルチェリーナ

私はこの人との結婚契約が履行されることを求めます

スザンナ、伯爵夫人、フィガロ

何だって! 何ですって!

伯爵

静かに、静かに

裁くのはこのわしだ

バルトロ

私は彼女に弁護士として選ばれましたので、彼女の法的根拠を明らかにいたします

スザンナ、伯爵夫人、フィガロ

悪徳弁護士!

伯爵

静かに、静かに

裁くのはこのわしだ

バジリオ

私は善良な市民として、彼女が金を貸すにあたって結婚の約束があったことを証言いたします

スザンナ、伯爵夫人、フィガロ

3人の悪党だ!

伯爵

静かに、静かに

調べてみよう

契約書を読んでみよう

全ては法に従って行われなければならない

スザンナ、伯爵夫人、フィガロ

これは困った、驚いた!

びっくり仰天、絶望だ!

地獄の悪魔があいつらを寄こしたのだ…

マルチェリーナ、バジリオ、バルトロ、伯爵

あざやかな打撃がみごとに決まった!

恵みの神がついに味方をしてくれた。

(第2幕 幕)

第2幕のフィナーレは20分にも及び、フィガロたちは次から次へとピンチの連続。

アルマヴィーヴァ伯爵は、ボーマルシェの原作でも「アンダルシアの大法官」とされていますので、単なる自領の領主裁判権だけでなく、広域を管轄する裁判官という設定です。

モーツァルトのオペラでは省かれていますが、原作ではまるまる一幕が裁判の場面に当てられて法廷闘争が描かれ、当時の貴族主導の理不尽な裁判が皮肉られています。

音楽も、登場人物が増えていくとともに分厚くなり、クライマックスを迎えます。

最後の七重唱は、巨匠カール・ベームをして、これこそがシンフォニー、と言わしめました。抜き出るスザンナのソプラノが、危うくなった自分の幸せに対する不安を天に響かせるようです。

フィガロ方と伯爵方、明と暗、光と影が対立し、交錯しますが、オーケストラと歌手たちの織りなすハーモニーはこの上なく美しく融合しているのです。

ボーマルシェの原作も盛り上がる場面ですが、音楽の力はとてつもなく素晴らしいものです。

 

さてさて、こんなに邪魔されて、結婚式は本当に挙げられるのか、物語は第3幕に進みます。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

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