フィガロが借金のかたに、マルチェリーナと結婚するべきかどうかが争われた裁判。
法廷で判決が出て、一同がガヤガヤと部屋に入ってきます。
ボーマルシェの原作では、裁判の様子も劇化されているのですが、モーツァルトのオペラではカットされています。そのため、原作は5幕ありますが、オペラは4幕です。
アルマヴィーヴァ伯爵の領主裁判権のもとで行われた判決。
判事はドン・クルツィオ。
判決は、伯爵の思惑通り、マルチェリーナの勝訴、フィガロの敗訴。フィガロはマルチェリーナと結婚すべし、というものでした。
フィガロは控訴します!と主張しますが、却下。
さらにフィガロは、自分は貴族の生まれなので、親の承諾なしには結婚できない、と主張。
自分は赤ん坊のときに盗賊にさらわれた孤児。
親はまだ見つかっていないが、盗まれた時、金や宝石と一緒で、縫い取りのある服を来ていたから、貴い身分の子に間違いない。
それに、腕に何か目印の字が彫ってある。それは何より親が大切にしていた証拠だ、と。
フィガロがそこまで言うと、マルチェリーナの顔色が変わります。
マルチェリーナ『それは、右腕にかい…?』
フィガロ『そうだ。』
マルチェリーナ『ああ、あの子だ…!』
一同『誰だ…?』
マルチェリーナ『ラファエロよ…!!』
すると、バルトロも確認します。
バルトロ『どこでさらわれたのだ?』
フィガロ『お城のそばで』
バルトロ『…これが、母さんだ。』(マルチェリーナを指して)
フィガロ『乳母か?』
バルトロ『いや、実の母親だ。』
マルチェリーナ『この人が父さんよ。』(バルトロを指して)
第18曲 6重唱『坊や、こうして抱かれたら』
マルチェリーナ
坊や、こうして抱かれたら、母さんを思い出してくれるかい!
フィガロ
父さんも抱いてくれよ
照れくさくて顔が赤くなるぜ
バルトロ
お前がそう言うなら、拒むわけにはいくまいよ
(3人抱擁し合う)
ドン・クルツィオ
彼が父親で、彼女が母親!
それでは婚姻は成立しない
伯爵
混乱して、全くわけが分からない
こんなところにいられるか…
マルチェリーナ
かわいい息子よ!
バルトロ
かわいいせがれよ!
フィガロ
いとしい親父にお袋!
(伯爵が退場しようとすると、スザンナが飛び込んでくる)
スザンナ
お待ちください、伯爵様!
奥方様にいただいたお金を持ってまいりました
これでフィガロを自由にしてください!
伯爵
ややこしいことになったな
あれを見てごらん
(スザンナ、マルチェリーナと抱き合うフィガロを見る)
スザンナ
まあ、結婚することになったの!?
なんて信じられない人!
裏切られたわ!
(外に出ようとする)
フィガロ
(スザンナを止める)
違うよ、待ってくれ!
聞いておくれ、いとしい人
スザンナ
これでも聞いたら!
(フィガロに平手打ちをくわせる)
マルチェリーナ、バルトロ、フィガロ
愛の証拠だ
伯爵、ドン・クルツィオ
体が怒りに震える
運命が私をこんな目に遭わせるとは
スザンナ
体が怒りで震える
あんなオバサンにとられるなんて
マルチェリーナ(スザンナに)
怒らないで、私のいとしい娘
フィガロのお母さん、そしてもうすぐあなたのお母さんになる人を抱いておくれ
スザンナ(バルトロに)
彼のお母さん?
バルトロ(スザンナに)
彼のお母さんだ!
スザンナ(伯爵に)
彼のお母さんですか?
伯爵(スザンナに)
彼の母親だ!
スザンナ(ドン・クルツィオに)
彼のお母さん?
ドン・クルツィオ(スザンナに)
彼の母親だ!
スザンナに(マルチェリーナに)
彼のお母さん?
マルチェリーナ(スザンナに)
そう、お母さんよ!
スザンナ(フィガロに)
あんたのお母さん?
フィガロ(バルトロを指して)
そして、あれが俺の父さんだ
スザンナ(バルトロに)
彼のお父さん?
バルトロ(スザンナに)
彼の父親だ
スザンナ(伯爵に)
彼のお父さんですか?
伯爵(スザンナに)
彼の父親だ!
スザンナ(ドン・クルツィオに)
彼のお父さん?
ドン・クルツィオ(スザンナに)
彼の父親だ!
スザンナ(マルチェリーナに)
彼のお父さん?
マルチェリーナ(スザンナに)
彼のお父さんよ!
スザンナ(フィガロに)
あんたのお父さん?
フィガロ(スザンナに)
俺の父さんだ
そしてこっちが母さんだ
本人に聞いてごらん
(4人は抱擁し合う)
スザンナ、マルチェリーナ、バルトロ、フィガロ
この瞬間のうれしさに、ほとんど耐えられないくらいだ
伯爵、ドン・クルツィオ
この瞬間のくやしさに、ほとんど耐えられないくらいだ
(伯爵、ドン・クルツィオ退場)
これまで、フィガロの敵だったふたりが、いきなり実の両親だった、というのですから、皆驚きます。
我々観衆も、別な意味で驚きますが。笑
こういう、悪役が途中から実はいい人だった、という転換は、オペラ『魔笛』でもあって、前後の筋を考えると釈然としないものも感じますが、音楽の力はそんな矛盾を吹き飛ばしてしまうほどすごいです。
この6重唱もモーツァルトの傑作のひとつと言われています。
冒頭のマルチェリーナの母性を感じさせる、包容力に満ちた優しい歌。
飛び込んでくるスザンナのコケティッシュなけなげでかわいい声。
そして怒りのビンタ。
混乱して相手かまわず尋ねまくるスザンナ。
そして、喜びの集団とくやしさの集団が同時に歌い、最後には喜びの集団が圧倒します。
フィガロは、昔愛し合っていた、バルトロとマルチェリーナの愛の結晶でした。
赤ん坊を盗賊にさらわれてから、ふたりの関係も消えてしまいました。
しかし、バルトロは、これを機会に我々も一緒になるか、とマルチェリーナにプロポーズ。はからずも2組の結婚式が行われることになります。
スザンナは、私ほどの幸せ者がいるかしら…としみじみ、つぶやきます。
残り3人はそれぞれ、俺も、私も、と応じ、この幸せで伯爵を圧倒しましょう、とハモります。
こうした筋の展開は、いかにも18世紀的ではありますが、これまでギスギスした諍い続きだったので、観衆もホッと和む場面です。
一方、この幸せから取り残された、かわいそうな伯爵夫人は・・・。
それは次回です。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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