さて、バルバリーナに連れられて、ケルビーノがまだセビリアの連隊に赴任せず、城内にいるらしい、ということをアントニオが気づき、伯爵に報告します。
一方、スザンナは伯爵夫人に、逢引のウソの約束を伯爵にしたことを報告します。
でも、どうもウソだということは気づかれているかもしれない、とも。
伯爵夫人は、確実に伯爵を罠にかけるため、スザンナにラブレターを書かせます。
逢引の場所を指定する手紙です。
スザンナは例によって渋りますが、責任は私が取るから、と伯爵夫人に促され、伯爵夫人の言う言葉をそのまま手紙に書きます。
その口述筆記の場面が、美しい二重唱になっているのです。
第20曲 伯爵夫人とスザンナの二重唱『そよ風に寄せる』
スザンナ(書き取りながら)
そよ風に寄せる…
伯爵夫人
やさしい西風が…
スザンナ(書き取りながら)
やさしい西風が…
伯爵夫人
今宵さやかに…
スザンナ(書き取りながら)
今宵さやかに…
伯爵夫人
松の木陰に吹くことでしょう…
スザンナ(書き取りながら)
松の木陰? 松の木陰に吹くことでしょう…
伯爵夫人
あとはそれで分かるはずよ
スザンナ
そうですわね
お分かりになりますわ
有名な、〝そよ風の二重唱〟です。
伯爵夫人は手紙にピンで封をさせ、紙の裏に『ピンをお返しください』と書かせます。
そこで、たくさんの人の気配がするので、スザンナはあわてて手紙をしまいます。
バルバリーナの計画で、領民の娘たちが花束を伯爵夫人に捧げにきたのです。
そこには、またも女装させられたケルビーノが交じっています。
第21曲 娘たちの合唱『お受けください、奥方様』
娘たち
(合唱)
お受けください、奥方様
今朝摘み取ったこのバラ、この花を
私どもの敬愛のしるしとして
私どもは貧しい村娘ですが
せめてものささやかな贈り物を
心より捧げます
(レチタティーヴォ)
バルバリーナ
奥方様、これはご領内の娘でございます
ささやかなものを差し上げるために参りました
出過ぎた振る舞いをお許しください
伯爵夫人
まあ、うれしいわ
スザンナ
みんなきれいね
伯爵夫人
(ケルビーノを指して)
あれは誰か教えて
あの可愛い女の子
恥ずかしそうにしてる…
バルバリーナ
私のいとこでございます
結婚式のために昨夜まいりました
伯爵夫人
きれいなお客様を歓迎しましょう
ここにおいで…
私に花をちょうだいな
(ケルビーノにキスをする)
まあ赤くなった…
ねえスザンナ、この子誰かに似てないかしら
スザンナ
他人の空似でしょう
(伯爵とアントニオ登場。アントニオはケルビーノの軍帽を持ち、こっそりと入って来て、いきなりケルビーノのかつらを外し、軍帽をかぶせる。)
アントニオ
さあどうだ、こいつが士官殿だ
伯爵夫人
まあ!
スザンナ
なんてこと!
伯爵
そなたこれは、どういうことかな
伯爵夫人
いえ、私も同じく驚き呆れているところですわ
伯爵
しかし、今朝の件は?
伯爵夫人
今朝は…
今夜のお祝いの余興に、今のような服を着せようと思っておりました
伯爵
(ケルビーノに)
お前はどうしてここにおる
ケルビーノ
(すばやく脱帽して)
連隊長殿…
伯爵
命令に従わぬ者は罰してやる
バルバリーナ
お殿様、お殿様
いつも私を抱いてキスなさるたびに
きまってこうおっしゃいますわね
バルバリーナ、私を愛しておくれ
何でも好きなものをあげるからねって
伯爵
そんなこと言ったかな
バルバリーナ
はい、ですからお殿様
私のお婿さんにケルビーノをください
そしたら猫の次にお殿様を好きになります
伯爵夫人
(伯爵に)
さあ、あなたの番ですよ
アントニオ
(バルバリーナに)
さすがはうちの娘だ
どこの先生に習ったんだ
伯爵(独白)
どこの人間か悪魔か知らないが
どうしてこうすべて邪魔をしてくるのだ
(フィガロ登場)
フィガロ
殿様…
この娘たちをとどめておられると
お祝いもダンスも始まりません
伯爵
なんだ、お前は足をくじいたのに踊れるのか
フィガロ
いえ、もう治りました
さあ、娘さんたち、行きましょう
伯爵夫人
(スザンナに)
困ったわね、どうしましょう
スザンナ
(伯爵夫人に)
あの人にまかせましょう
伯爵
運がよかったな
植木鉢が石でなくて
フィガロ
そのとおりで
では参りましょう
アントニオ
その頃、馬に乗って
あの小姓はセビリアへ走ってたな
フィガロ
馬でいったか走っていったかはあいつ次第
さ、皆さん行きましょう
伯爵
そのとき辞令は
お前のポケットにあったな
フィガロ
そのとおりで
また何のご詮議で
アントニオ
(フィガロに目配せしているスザンナに)
合図しても無駄だよ
分かりっこないから
(とケルビーノの手をつかみ、フィガロの前に突き出す)
この男が
私の甥になるやつは嘘つきだと言ってるぞ
フィガロ
や、ケルビーノ!?
アントニオ
さあ、どうする
フィガロ
(伯爵に)
こりゃまた、どういうわけで
伯爵
わけもなにもあるか
彼の言うには、彼が今朝カーネーションの上に降ったのだ
フィガロ
彼がそう言った…でしょう?
でも私が飛び降りたとなると
こいつも私の真似をして
飛んだということでしょう
伯爵
ふたりともか
フィガロ
いけませんか
ま、私の知らないことには
お答えしかねます
(マーチが聞こえてくる)
伯爵夫人は喜んで花束を受け取りますが、村娘の中に、見慣れない娘を見つけます。
バルバリーナは、私のいとこで結婚式に出るために来たんです、と説明しますが、伯爵夫人は『この子、誰かに似ていない?』とスザンナに。
スザンナも、『そっくりですわね』と応じているところに、アントニオが飛び込んできて、その娘に軍人の帽子をかぶせ、『これが士官殿だ!』と叫びます。
その子はケルビーノでした。
伯爵も入ってきて、伯爵夫人を『どうだね』と責めますが、伯爵夫人も知らなかったことです。
伯爵はケルビーノの命令違反を責め、厳罰を言い渡します。
そこに進み出たのがバルバリーナ。
彼女は伯爵にこう言います。
『伯爵様、伯爵様。いつも私を抱いてキスしながらおっしゃいますわね。バルバリーナ、私を愛してくれるなら、望みのものをやろうって。』
伯爵はうろたえながら、そんなこと言ったかな、ととぼけますが、バルバリーナは続けます。
『はい、伯爵様。私は猫の次に伯爵様を愛しますので、ケルビーノを私のお婿さんにください。』と。
伯爵は絶句。
伯爵夫人は冷たく『さあ、次のセリフはあなたの番ですよ』。
伯爵がケルビーノを目の敵にし始めたのは、最初に彼をバルバリーナの部屋で見つけたからですが、伯爵こそ、バルバリーナを口説くために彼女の部屋に行ったことがバレたわけです。
まさに手あたり次第に口説いていた伯爵も伯爵ですが、それを利用したバルバリーナもしたたかな小娘。
父のアントニオに『どこでそんな手を習ったんだ!!』とお尻を叩かれて追い出されますが、伯爵は『いったい、どんな人間、どんな悪魔、どんな神が私を窮地に追いやるのだ…』と独白。
そんな場にフィガロが入ってきて、結婚式を始めましょう、とせかします。
ようやく次回、結婚式です。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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