モーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』、ようやく最終幕の第4幕です。
お付き合いいただいている方、たいへんお疲れ様です。
このオペラ、CDでも3時間強。実際の上演なら4時間かかります。
それなのにウィーン初演では、1曲ごとにアンコールがかかり、繰り返すことに。
うんざりした皇帝が『アンコールは独唱曲のみに限る』と命令を下したほどです。
当時からそれだけ好評だった、古今の名曲ですので、どうかもうしばらくよろしくお願いします。
このオペラ、フランス演劇の三一致の法則に従い、物語は1日の出来事で完結しますから、第4幕は夜です。
暗闇の中で、バルバリーナが途方に暮れているところから幕が開きます。
彼女は落とし物を探しているのです。
第23曲 バルバリーナのカヴァティーナ『失くしてしまった』
バルバリーナ
失くしてしまったわ…
どうしよう…
いったいどこにあるの…?
見つからない…
スザンナや伯爵様に何て叱られるかしら…
第3幕であれだけしたたかに振舞ったバルバリーナが、すっかりしょげかえっています。
この悲しい音楽は、ピアノ・コンチェルト第18番変ロ長調の第2楽章と関連があるといわれています。
そこにフィガロが通りかかり、どうした?と声をかけます。
バルバリーナは、伯爵からスザンナに渡すよう言いつかったピンを暗闇で失くしてしまった、と答えます。
フィガロは、結婚式の最中に伯爵が恋文のピンで指を刺したのを見ているので、まさに〝ピン〟ときて、バルバリーナに、手紙に封をしたピンだろう?とカマをかけます。
するとバルバリーナは、知ってるなら何で聞くの?伯爵様に、松の木のピンだよ、と言ってスザンナに渡してって言われていたのよ、と漏らしてしまいます。
フィガロは、ほらあったよ、と適当なピンをバルバリーナに渡して去らせます。
そして、通りかかった母親、マルチェリーナに泣きつきます。
まさか、伯爵に恋文を渡したのが、新妻スザンナだったとは!
何も信じられない!と。
マルチェリーナは、まだ結論を出すのは早いよ、誰がだまされているのか分からないんだから、と、母親らしくフィガロにアドバイスします。
しかし、すっかり疑念にとらわれたフィガロは、世の中の全ての亭主のために復讐してやる、と叫んで闇に消えていきます。
残ったマルチェリーナは、あのスザンナがそんなことをするとは思えない、私は彼女を信じる、そして、世の男どもに理不尽な思いばかりさせられる同性のために立ち上がらねば、と言ってアリアを歌います。
第24曲 マルチェリーナのアリア『雄ヤギと雌ヤギは』
マルチェリーナ
雄ヤギと雌ヤギはいつも仲良し
雄ヤギはけっして雌ヤギをいじめたりしない
どんな獰猛なケモノたちでも
森や野原で、雄は雌に平和と自由を与える
それなのに、人間の女たちは
男を愛しても、不実な仕打ちを受けるのです
(退場)
このマルチェリーナのアリアと、このあとのバジリオのアリアは、通常の上演ではカットされます。
全体が長いので、脇役の歌は省略、というわけです。
でも、当時のオペラの聴衆は、音楽よりも歌手目当てで来場しているので、それぞれに贔屓の歌手がいますから、全員一度は脚光を浴びて歌う機会が与えられているのです。
このマルチェリーナのアリアは、若いころ、バルトロとの間に子まで作りながら、長い間結婚してもらえなかったマルチェリーナの、酸いも甘いも嚙み分けた人生の大先輩からのメッセージですが、女性蔑視に対して抗議するという、これも当時の封建体制への抵抗ととらえることもできます。
フィガロの結婚は、ドタバタ恋愛喜劇を装っていますが、新時代を切り拓く政治的な意味が随所に隠されているのです。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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