孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

美しいヴィーナスは、軍神マースと。モーツァルト:オペラ『フィガロの結婚』あらすじと対訳(24)『第4幕フィナーレ②なんて静かな夜』

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伯爵夫人の服装で、フィガロにビンタを食らわすスザンナ

フィガロの結婚』第4幕第13場

新妻スザンナ伯爵が、ともに小屋の暗がりに消えたと思ったフィガロ

心の中の嵐と対照的な、夜の静けさに気づきます。

第28曲 第4幕のフィナーレ③

フィガロ(一人出てきて)

なんて静かで、穏やかな晩だ

美しいヴィーナスは

軍神マースと入っていった…

そこに亭主のヴァルカンが

踏み込んで一網打尽。

(小屋に入ろうとする)

スザンナ(伯爵夫人の服装、声色で)

フィガロ、静かになさい

フィガロ

これは、奥方様!いいところにおいでになりました!

今まさに、伯爵様と私の女房が… 

どうかご自身でお捕まえになってください!

スザンナ(伯爵夫人の服装)

もっと小声で話しなさい!

私は行かないわ

でも仕返しはしたいわね

フィガロ(様子がおかしいと気づく)

スザンナだ!(傍白)

仕返しですと?

スザンナ(伯爵夫人の服装)

そうよ

フィガロ

どういたしましょうか

(傍白)この女狐め、俺を化かそうってんだな。それならこっちもそのつもりで。

スザンナ(伯爵夫人の服装)

(傍白)私を疑ったこの人をだまして、ゆっくり料理してやるわ。

フィガロ

ああ、奥方様!

スザンナ(伯爵夫人の服装)

もう用はないわ

あちらにお行き

フィガロ

ああ、奥方様!

お慕い申し上げております

私の心は燃え上がっています

ここがどこかお考え下さい

ふたりの裏切りの仕返しをいたしましょう

スザンナ(伯爵夫人の服装)

(傍白)

腹が立つわ!

ムカつくわ!

フィガロ

(傍白)

胸がわくわくする

燃えてきたぞ!

スザンナ(伯爵夫人の服装)

愛もなしに?

フィガロ

尊敬があります

さ、時間がありません

どうかお手を…

スザンナ(伯爵夫人の服装)

これでもどうぞ!

フィガロに平手打ちをくらわす)

フィガロ

また平手打ちか!

スザンナ(伯爵夫人の服装)

そうよ! 

これも、これも、これも、まだまだよ!

(何度もフィガロを打つ)

フィガロ

何ともありがたいお手打ちだ! 

幸せでいっぱいだ!

スザンナ(伯爵夫人の服装)

なんて不実な人! 

女たらしにでもなればいいわ!!

神々の不倫

冒頭、フィガロがつぶやく話は、ギリシア神話に基づいています。

愛と美の女神、ヴィーナス(アフロディーテは、神々の憧れの的で、誰の妻になるのか注目されていましたが、なんと、大神ジュピター(ゼウス)の妃、ジュノー(ヘラ)の命令で、醜男の鍛冶屋の神ヴァルカン(ヘパイストス)と結婚させられます。

ヴァルカンはヘラの子でしたが、あまりに醜いので捨てられ、ヘラからは自分の子だと認められませんでした。

手先の器用なヴァルカンは、ヘラのために綺麗な椅子を作って贈りますが、ヘラが座ったとたん、拘束されます。

そして、ヘラに自分を子として認知するよう迫り、ヘラはしぶしぶ認めますが、嘘だと感じたヴァルカンは、ヘラに『本気なら、私とヴィーナスを結婚させてください。できるわけないでしょう』と嫌味を言います。

それでヘラも頭にきて『させてあげようじゃない、神に二言はないわ』と宣言したのです。

ゼウスでさえ頭の上がらないヘラの命令ですから、ヴィーナスに拒否権はありません。

ヴァルカンに嫁入りしますが、もちろん満足するはずはなく、戦いの神マース(アレス)と不倫に走ります。

気づいたヴァルカンは、例の天才的細工でベッドを作り、わざと家を留守にして、その間にヴィーナスとマースがベッドに入ったところで、仕掛けを動かして網をかぶせ、神々を集め、裸で抱き合いながら動けなくなっているふたりの姿をさらしものにした、というお話です。

フィガロは、まさに自分をヴァルカンにたとえたわけです。

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夫ヴァルカンによって、不倫の現場をさらしものにされたヴィーナスとマース

スザンナは、自分を疑ったフィガロをだましてやろうとしますが、やはりそこはフィガロの方が上手で見破り、逆にスザンナをからかい、自分が伯爵夫人と浮気しようとしていると思わせます。

スザンナは今度こそ本気で怒り、フィガロを何度も叩きます。

フィガロがビンタされるのはこの劇で三度目ということになります。

ボーマルシェの原作では『きょうは殴られ日か?』というセリフがあって、笑いを誘うところです。

しかし、スザンナが怒ったのも愛ゆえ。フィガロが見破ったのも愛ゆえ、ということで、この若い夫婦の溝はすぐに埋まります。

フィガロの結婚』第4幕第14場

第28曲 第4幕のフィナーレ④

フィガロ

さあ、仲直りしよう、俺の宝物。声でお前と分かっていたよ。いつも憧れ、いつも心に焼き付いている声だもの。

スザンナ

声で?

フィガロ

素敵な声だ。

スザンナ、フィガロ

仲直りしよう、俺の(私の)宝物。仲直りしよう、やさしい愛よ。

伯爵(遠くで)

見つからない、林の中は全部探したが…

スザンナ、フィガロ

伯爵だ。声でわかる。

伯爵

おーい、スザンナ! どこにいる?

スザンナ

いいわ、彼女だと分からなかったのね。

フィガロ

誰に?

スザンナ

奥方様よ。

フィガロ

奥方様か!

スザンナ、フィガロ

ではそろそろお芝居を仕上げて、あの哀れな恋人を慰めてあげましょう。

フィガロ

(伯爵夫人の服装をしたスザンナに跪き、大声で)

はい、奥方様、あなたは私の憧れです。

伯爵

妻だ! しまった、剣を持っていない。

フィガロ

どうか私に慰めをお与えください。

スザンナ

お前の好きなようになさい…

伯爵

ああ、悪党どもめ!

スザンナ、フィガロ

さあ、いとしい人。急いで、急いで。苦しみを楽しみに変えましょう。

(小屋に入る)

というわけで、予定にはない方法で伯爵をだまし、次回、いよいよ終幕です。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

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