
ジョヴァンニ・パイジエッロ(1740-1816)
18世紀そのままの劇場
『フィガロの結婚』は、スウェーデン、ストックホルム近郊のドロットニングホルム宮廷劇場での演奏を中心にご紹介してきましたが、この劇場の特徴がよくわかる動画を見つけましたのでご紹介します。
18世紀のオペラの台本は、急な舞台転換が目まぐるしく、現代の演出家、舞台装置係を悩ませ、結局殺風景な舞台になりがちなのですが、奇跡的に18世紀そのままの姿を残したこの劇場の舞台装置で、それがなぜ可能だったのかが、よく分かります。
全て人力ではありますが、すぐに舞台が変わったり、また嵐などの音響効果や、突然神様や亡霊が現れる奈落の仕組みなどが、そのまま残っているのです。
時代は全てが進化したわけではない、ということを実感させてくれるのです。
(音楽はモーツァルトのオペラ『魔笛』序曲です)
Drottningholms slottsteater
モーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』の余韻のお話をもうひとつ。
ボーマルシェの原作『フィガロの結婚』の前編が『セビリアの理髪師』ですが、今オペラとしてよく演奏されるのは、モーツァルトの後の時代の作曲家、ロッシーニのものです。
原作の順番と、オペラになった順番は逆なのですね。
しかし実は、『セビリアの理髪師』には、ロッシーニより前の作曲家がすでにオペラ化しているのです。
それは、前回ちょっと名前を出した、モーツァルトの同年代の作曲家、パイジエッロ(1740-1816)です。
彼も、チマローザと同じくらい名声を博した作曲家です。
南イタリアのタラント出身で、ナポリで音楽を学び、イタリア各地で活躍をはじめます。
1776年には、チマローザと同じようにロシア女帝エカテリーナ2世に招かれます。
古今の名画を収集し、エルミタージュ美術館を作ったエカテリーナ女帝は、高名な音楽家も次々にロシアに招きました。後進国、野蛮国といわれていたロシアを、なんとか、ヨーロッパ一流国と肩を並べる文化国家にしようと必死だったのですね。
パイジエッロは8年もサンクトペテルブルクに滞在し、その時に『セビリアの理髪師』を作曲しました。
この作品は大ヒットし、ヨーロッパ中で上演され、パイジエッロの名声を確固たるものにしました。
ロシアを去った後は、ウィーンやナポリで数々の名作オペラを生み出しますが、1802年にパリに行き、ナポレオンに大変可愛がられます。
しかし、ナポレオンの没落とともに彼も力を失い、1816年にナポリで生涯を閉じます。
ロッシーニは、ちょうどパイジエッロが没した年に、『セビリアの理髪師』の台本に別の曲をつけ、伯爵の名前をとって『アルマヴィーヴァ』という題で上演しますが、この行為には非難を浴びます。
そこで、題を堂々と原作『セビリアの理髪師』に改めたところ、大ヒットし、ロッシーニの代表作となって、パイジエッロの作は忘れ去られてしまったのです。
では、パイジエッロの『セビリアの理髪師』序曲をお聴きください。
演奏:シモーネ・ペルジーニ指揮ハルモニエ・テンプラム室内管弦楽団

ジョアキーノ・ロッシーニ(1792-1868)
では、ロッシーニの有名な『セビリアの理髪師』序曲もぜひ比較してください。
この曲は、小学校の頃の私のお気に入りで、午前中の中休みに決まって流されていたので、ひとり校庭に出て聴き入っていた思い出があります。
ロッシーニの曲は、メロディが次から次へと出てきますが、中でも大迫力の〝ロッシーニ・クレッシェンド〟が聴きどころです。
当時はあまりの大音量に〝騒音殿〟とあだ名をつけられました。
彼は44歳のとき、作曲は〝もういいや〟と引退し、あとは76歳で死ぬまで、それまで稼いだお金で美食三昧の生活を送ります。
シェフにうるさく口を出して、いろいろな料理を作らせましたが、中でも有名な〝牛ヒレ肉のロッシーニ風〟は、フォアグラにトリュフを組み合わせた、これでもか、という贅沢な料理です。
演奏は古楽器です。
演奏:ロジャー・ノリントン指揮ロンドン・クラシカル・プレイヤーズ
ふたつの曲を聴くと、18世紀と19世紀の違いがよく分かりますね。
ロッシーニが、次の時代を切り拓いたのも、実感できます。
それだけの仕事をして、あとは美食三昧とは、うらやましい限りです。

牛ヒレ肉のロッシーニ風
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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