前回に続き、バッハの『平均律クラヴィーア曲集 第2巻』のご紹介です。
全24曲中、今回は第9番から第16番までです。
The Well-Tempered Clavier, Book 1 no.9-16 BWV878-885
演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould
第9番 ホ長調(BWV878)
【プレリュード】侘びた風情の、落ち着いたプレリュードです。知らない町を旅しているのに、どこか懐かしい思いがする、そんな雰囲気の曲です。
【フーガ】4声。決然と始まるテーマは、実はグレゴリオ聖歌風の古いものです。テーマは建築のように積みあがっていき、大聖堂の内陣から天井を見上げたような、ため息の出るような美しさです。
第10番 ホ短調(BWV879)
【プレリュード】イタリア風のシャレた曲です。右手と左手で交し合うトリルがアクセントを形作っています。後半の展開には、何かを訴えているような切迫感があります。
【フーガ】3声。ちょっとスネたような、特徴的なテーマがとても長大で驚きます。これをどう処理していくのかハラハラしますが、もちろん見事としか言いようがありません。
第11番 ヘ長調(BWV880)
【プレリュード】さりげなく、高みから流れ下る渓流のように始まります。底流にそっと隠れていたメインテーマが、最後にくっきりと現れるところにしびれます。
【フーガ】3声。思わず手で拍子を取ってしまいたくなるような、楽しいテーマです。実に軽快で、プレリュードの同じように、底流で小出しにしていた魅力的なテーマが、最後に姿を現すところは、私もこの曲中最も好きな瞬間です。
第12番 ヘ短調(BWV881)
【プレリュード】おもちゃの人形が、同じ動きを繰り返すような始まりから、とても洗練された都会的なフレーズに流れていきます。バッハの晩年とは思えない新しい響きがします。
【フーガ】3声。バッハには珍しく単純な構造のフーガで、ダンス音楽のようです。プレリュードに続き、やや世俗的な香りのする曲です。
第13番 嬰ヘ長調(BWV882)
【プレリュード】気だるい昼下がりのようなメロディで始まりますが、実は曲集が後半に入るのを告げるかのように、フランス風序曲を思わせる曲です。
【フーガ】3声。胸がすくような、輝かしいフーガです。思いは大空高く羽ばたいていきます。この曲を聴くと、どんな嫌なことも吹き飛んでしまうような気分になります。
第14番 嬰ヘ短調(BWV883)
【プレリュード】最初は繊細で、やや神経質な感じで始まりますが、曲が進むにつれ、悠然と流れていきます。
【フーガ】3つのテーマをもつ3声による三重フーガで、バッハでは『フーガの技法』を除いて類例がありません。壮大で、まさに充実感あふれる曲です。
第15番 ト長調(BWV884)
【プレリュード】音符が細かくざわめきます。色彩がめくるめくように変わってゆく、変幻極まりない曲です。
【フーガ】3声。軽快なアルペッジョがフーガを形づくる、驚くべき曲です。くどくどしたところは全くなく、颯爽と短く、そしてカッコよく去っていきます。こんな男になりたいものです。
第16番 ト短調(BWV885)
【プレリュード】ゆっくりとした付点リズムのついた曲で、「ラルゴ」の速度表記があります。深い思いを込めた、叙情豊かな音楽です。
【フーガ】4声。この曲集を代表するような精緻で力強いフーガです。後半、叫ぶように突出する高音部や、とぎれとぎれの終わり方は、ひとつの完結したドラマといえるでしょう。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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