このグレン・グールドのアルバムには、前回の『フランス組曲』から残りの、第5番と第6番、そして、『フランス風序曲』という、バッハのフランス趣味、フランス様式による曲が収められています。
まずは、『フランス組曲』の中でも最も有名で、人気のある第5番です。
J.S.Bach :French Suite no.5 in G major, BWV816
演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould
グールドのピアノ演奏に加えて、バッハ、あるいはこの曲を贈られた妻アンナがこの曲を奏した楽器、クラヴィコードによる演奏も1曲ずつ掲げます。
(クラヴィコード演奏:ジェラルド・ハンビツァー)
アルマンドはドイツ起源の舞曲ですが、〝フランス〟を思わせる、典雅で素敵な、そして可愛い響きのする愛らしい曲です。この曲を演奏する愛妻アンナを、バッハは目を細めて見つめていたことでしょう。
【クラヴィコード】
活発で、スケールの大きな響きのする曲です。
【クラヴィコード】
荘重なリズムですが、メロディはどこまでも優しく、親しみやすい曲です。
【クラヴィコード】
第4曲 ガヴォット
思わず口ずさみたくなるような軽快な曲です。バッハの中でも特に親しまれている曲です。
【クラヴィコード】
第5曲 ブレー
フランス起源の舞曲で、なんともいえない幸福感に包まれています。
【クラヴィコード】
第6曲 ルール
これもフランス起源の曲で、落ち着いた優美な気品が魅力です。
【クラヴィコード】
第7曲 ジーグ
3声のフガートで書かれた充実した終曲で、バッハのジーグの中でも傑作と言われています。まさにこの組曲中の白眉といえます。
【クラヴィコード】
J.S.Bach :French Suite no.6 in E major, BWV817
演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould
この曲は、第5番までの曲よりかなり後に作られたと考えられており、規模も最も大きくなっています。
晴朗で明快な幕開けの曲です。
玉を転がすかのような流麗な曲です。グールドの指はどうなっているのだろう、と思うくらいの驚異の演奏です。
気品あふれる落ち着いた曲で、この思いは深く、何かを沈思黙考しているかのような哲学的な趣きを感じます。
第4曲 ガヴォット
お洒落で軽快な曲です。単独で演奏されることもあります。
ショパンで有名なポーランド起源の曲ですが、ここでは民族的な色彩は薄く、宮廷舞曲として洗練されています。
短いですが、工夫の凝らされた素敵なメヌエットです。
第7曲 ブレー
早いテンポの元気の良い曲。終盤に向けて組曲を盛り上げる役割を果たしています。
第8曲 ジーグ
この組曲では一番高度な技巧が要求されていて、全曲を締めくくるのにふさわしい充実した内容です。
J.S.Bach :Overture(Partita) in French Style in B minor, BWV831
演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould
この曲は、以前ご紹介した『イタリア協奏曲』とセットで、『クラヴィーア練習曲集 第2部』として出版されたものです。組曲集とは別に、〝パルティータ〟と呼ばれることもあります。
『フランス風序曲』は、これも『G線上のアリア』のところでご紹介した、オーケストラによる管弦楽組曲のことです。
舞曲集ですが、冒頭に壮大なフランス風序曲が置かれているため、全体をフランス風序曲(ウベルチューレ)と呼ばれます。しかし、アルバム等では管弦楽組曲と表示される方が多いです。
バッハは管弦楽組曲は4曲書いており、有名な『G線上のアリア』は第3番に含まれています。
そしてこの曲は、イタリア風のコンチェルトをクラヴィーア曲に置き換えた『イタリア協奏曲』と同様、オーケストラによる管弦楽組曲を、クラヴィーア上で再現する目的で作曲されたものです。
このセットは、まさに、イタリアとフランスの文化、様式を対比させたものなのです。
第1曲 序曲
完全にフランス風序曲の形式に則っており、まず荘重な付点リズムによるゆっくりした部分で、〝ガヤ鎮め〟を行い、続く急速なフーガで王が登場します。そして再度、ゆっくりした緩徐の部分が繰り返されて終わります。フランスでは、王はこの曲でお出ましになり、着座して、続くバレエをご覧になる、という段取りになります。〝バッハの調〟ロ短調特有の深い響きが印象的な、フルオーケストラに劣らない充実した壮大な序曲です。
アルマンドが無く、クーラントから始まります。テンポの揺れるフランス特有のクーラントを再現しています。
第3曲 ガヴォットⅠ
有名な曲です。一度聴いたら忘れられない、印象的なテーマです。
第4曲 ガヴォットⅡ
前曲のトリオにあたります。後半、ガヴォットⅠが回帰します。
ルイ王朝の宮廷で一時期大流行した、やや激しい調子の舞曲です。
Ⅰのトリオにあたる部分です。後半ではⅠが再度回帰します。
全曲の騒ぎを鎮めるかのような、落ち着いた渋い曲です。
第8曲 ブレーⅠ
元気よく、それでいて格調高い、気品あふれる曲です。
第9曲 ブレーⅡ
前曲とはうってかわって落ち着いた響きがします。
第10曲 ジーグ
これも有名なテーマです。ひとつの物語を紡ぐような、充実した内容の曲です。
第11曲 エコー
通常、組曲はジーグで終わりますが、バッハは最後に特にエコー(反響)という曲を置き、印象的に終わらせています。これは、チェンバロの二段鍵盤による強弱で、こだまのような効果を狙っているのですが、グールドはあえて、バッハのフォルテ、ピアノの指示を無視して演奏しています。グールドの狙いは何か?チェンバロの演奏と比較してみてください。
第1曲 序曲のチェンバロ演奏はこちら。(演奏:トレヴァー・ピノック)
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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