孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

神の曲、悪魔の曲。グレン・グールド×バッハ『イギリス組曲 第4番~第6番』

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グレン・グールド弾くバッハの『イギリス組曲』。今回は、全6曲のうち、後半3曲のご紹介です。

バッハ『イギリス組曲 第4番 へ長調 BWV809』

Bach : English Suite no.4 in F major, BWV809

演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould

第1曲 プレリュード

バッハの鍵盤楽曲の中で私が最も好きな曲で、気分が落ちたときに聴くと、必ず元気と勇気をくれます。楽想は縦横無尽で、時にはふざけ、時には真面目に、そして小さなことなど吹き飛ばすかのようです。珍しくこの曲にフランス語で〝Vitment〟(活発に)と指示があることからも、バッハもこの曲には思い入れがあったのは間違いありません。世紀を超えて、バッハのメッセージを受け取っている思いがします。まさに私にとって〝神〟の曲です

第2曲アルマンド

何かを語りかけるようなテーマです。それで、それで…と身を乗り出して話しかけられているような思いになります。とても可愛い曲です。

第3曲 クーラント

前曲がさらに早口になったような感じです。短いですが、洗練された粋な曲です。

第4曲 サラバンド

雰囲気がガラッと変わり、重々しい雰囲気になります。しかし、決して暗くはなく、真面目な落ち着きを見せています。後半は和音の流れが、ため息が出るほど華麗です。

第5曲 メヌエット

ホッとするような素朴なテーマに癒されます。無邪気な子供と遊んでいるような気分です。

第6曲 メヌエット

メヌエットⅠより少し大人っぽい雰囲気になり、情緒豊かに歌い上げます。後半Ⅰが回帰します。

第7曲 ジー

プレリュードに相対しているような雄渾な楽想で、舞曲たちをサンドイッチしているかのようです。ファンファーレのような音型が輝かしく、この素晴らしい組曲を締めくくります。

バッハ『イギリス組曲 第5番 ホ短調 BWV810』

Bach : English Suite no.5 in E minor, BWV810

演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould

第1曲 プレリュード

何かに怒っているような激しい曲調で始まります。スタイルはやはりコンチェルトを志向しています。どんどん引き込まれていくような、熱い情念をもった曲です。

第2曲 アルマンド

グールドはひそひそ話をするように抑制された語り口で弾いていますが、それだけ神秘的に響きます。

第3曲 クーラント

ここにも、静かな中に決然とした意思を感じる気がします。

第4曲サラバンド

サラバンドに特徴的な重々しさがあまり感じられず、軽快で、叙情的でさえある、変わった趣向の曲です。

第5曲 パスピエ

パスピエは、ブルターニュ起源の舞曲で、ルイ太陽王の宮廷で流行ったことはフランス組曲のところでも触れました。ロンドのような軽快な踊りです。

第6曲 パスピエ

より軽快なトリオです。グールドの演奏はまるでオルゴールのように愛らしく奏でられます。後半、Ⅰが回帰します。

第7曲 ジー

半音階的に書かれた、現代的な響きの曲です。この組曲に通底している、どこか決然としたものが、最後のこの曲でも示されています。

バッハ『イギリス組曲 第6番 二短調 BWV811』

Bach : English Suite no.6 in D minor, BWV811

演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould

第1曲 プレリュード

他のプレリュードと異なり、しっとりと始まります。音楽学者のヘルマン・ケラーはこの曲を次のように評しています。『曲集の最後を飾るべきこの曲の情趣は異様に陰鬱である。第5番が太陽の光と雲の陰の3月の日を思い起こさせるとすれば、この組曲ではあたり一面灰色に包まれた11月の日を野外ですごす思いがする。』ちょうどこの文章を書いている今にぴったりというわけです。紅葉も散り始め、長い冬を迎える憂鬱感、ということですが、皆さんはどのように聴くでしょうか。前半は序奏を形作っており、後半、激しさを含んで展開していきます。

第2曲 アルマンド

哀愁を漂わせた、アルマンドらしからぬゆっくりとした曲です。

第3曲 クーラント

アルマンドの変奏のようであり、前曲から瞑想的な雰囲気を引き継いでいます。

第4曲 サラバンド

壮麗なトリルの装飾がヘンデル風といわれています。

第5曲 ドゥーブル

サラバンドの変奏として装飾を加え、しみじみとした味わい深い曲です。

第6曲 ガヴォットⅠ

イギリス組曲の中でも有名な曲で、独立して演奏されることもあります。印象的な旋律です。

第7曲 ガヴォットⅡ

田園的なミュゼットで、トリオにあたります。後半、ガヴォットⅠが回帰します。

第8曲 ジー

〝悪魔的な難曲〟として知られる曲で、全組曲中最高のテクニックが要求されています。片手で、トリルを演奏しながら他の音も押さえなければならないのです。もちろんその間、もう片方の手は別な旋律を休みなしに演奏するわけです。この曲からも、イギリス組曲はプロ向きの曲集であり、家庭での楽しみを目的としたフランス組曲とまったく性格を異にするのです。その違いをグールドの演奏で楽しむのも最高の喜びです。

壮大なイギリス組曲は以上です。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 

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