
ヨハン・シュトラウス二世記念像(ウィーン)
新年あけましておめでとうございます!
クラシックのおすすめと歴史をご紹介するブログ、のつもりが、やはりと言うか、ただのmy favoritesになってしまってますけれど、今年もどうかよろしくお願いします。
まずは、新年にちなんだクラシックのご紹介ですが、お正月の曲といってすぐ浮かぶのはこれですよね。
春の海
作曲:宮城道雄作曲
演奏:岡部梢(筝)、西谷国登(ヴァイオリン)
琴の曲の代表のように親しまれていますが、偉大な検校、宮城道雄(1894-1956)は、筝曲の伝統にクラシックの要素を組み込んで、新しい音楽を生み出したのです。ですから、このようにヴァイオリンとのコラボもピッタリです。
琴と言えば、昔クラシックに興味のない人に、いい音だから、とチェンバロを聴かせたところ、『琴にしか聞こえない』と言われたことがあり、なるほどごもっとも、と思ったことがあります。弦をはじく、ということで一緒ですから。
鍵盤を使わず、直接弦を指ではじくハープはより近いといえますので、優雅なバロック・ハープの曲を挙げます。たびたび当ブログで取り上げた大バッハの次男、カール・フィリップ・エマニュエル・バッハの曲で、私的にはお正月らしい感じがします。
ハープ・ソナタ ト長調 Wq.139, H563
作曲:C. P. E. バッハ
演奏:ジュディ・ロマン Judy Loman
同じ弦をはじくだけで、日本とヨーロッパとどうして響きが違うのか、考えながら聴き比べるのも一興かと思いまして。
クラシック・ファンにとってのお正月は、なんといっても、ウィーン楽友協会ホール(ムジークフェライン)で行われる、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートですね。
19世紀後半の、ヨハン・シュトラウス父子をメインとした、ウィンナ・ワルツが中心のプログラムです。ワルツは、まさに新春のイメージになりました。
締めは恒例の、ラデツキー行進曲のアンコールです。聴衆も一緒に手拍子をして盛り上がります。聴く方が緊張してしまう世界最高のオーケストラ、ウィーン・フィルや、偉大な巨匠たちが、お正月に寛いだ姿を見せてくれるのもこのコンサート魅力です。
みんなに愛されるラデツキー行進曲には、昨日の記事、ベートーヴェンの第九から続く歴史があります。
自由を愛したベートーヴェンは、オーストリア宰相メッテルニヒの、自由主義運動を抑圧した保守反動政治に反発しており、第九にも自由へのメッセージを込めました。
メッテルニヒは敏腕かつ老獪な大政治家であり、オーストリアのみならず、ナポレオン失脚後のヨーロッパに再び革命が起こらないよう、強固な保守体制『ウィーン体制』を築き、ベートーヴェンの死後20年も維持したのです。
しかし、1848年にフランスで起こった二月革命がヨーロッパ各地に飛び火し、オーストリアでも三月革命が勃発しました。
改革派の要求は、当初は通商の自由、出版の自由、言論の自由や憲法の制定など、穏健なものでしたが、暴動も起こって、メッテルニヒはロンドンに亡命を余儀なくされ、ウィーン体制は崩壊しました。

オーストリア帝国宰相クレメンス・フォン・メッテルニヒ(1773-1859)
しかし、その後、労働者たちが革命の中心のなってどんどん過激になっていき、カール・マルクスがウィーンにやってきたり、労働者によって陸軍大臣が街頭でつるし首になったりするなど、君主制の打倒を目指す方向に進んでいきます。
でもブルジョワや一般市民の多くは、ハプスブルク家に愛着を持っており、皇室を追い出すなど思いもよりませんでした。行き過ぎた過激な革命に不安を抱く者が多くなっていったのです。
そんな中、革命の余波で、当時オーストリア領だった北イタリアで独立運動が起こったのですが、卓越した軍人ラデツキー将軍が見事に鎮圧に成功しました。
もちろん、オーストリアにとっては英雄でも、イタリア人にとっては苛烈な弾圧者だったのですが。ちなみに、ラデツキーがミラノで食べたミラノ風カツレツをウィーンに持ち帰ったのが〝ウィンナー・シュニッツェル〟です。両方とも、旅行者が必ず食べる名物になりました。
ラデツキーの勝利に対し、ウィーンで感謝祭が行われることになり、当時ウィーンの宮廷舞踏会音楽監督だったヨハン・シュトラウス1世(父)がわずか2時間で間に合わせて作曲したのが、ラデツキー行進曲なのです。

ヨーゼフ・ラデツキー将軍(1766-1858)
この曲はたちまち大人気となり、市民の支持を得て、愛国心を高める効果を生み、ハプスブルク家を倒そうという過激な革命を葬ってしまったのです。
革命というのは、これまでは王侯貴族vs市民でしたが、この頃には、市民(ブルジョワ)vs労働者(プロレタリアート)という構図が生まれつつあったのです。
政府からは〝ウィーンを革命から救ったのは、ヨハン・シュトラウスである〟といわれました。
音楽が歴史を変えたひとつの例ですね。
ところで、今一般に演奏されている楽譜は長年にわたって改訂されていたものなのですが、1978年になって、自筆譜が発見されました。
2001年のニューイヤーコンサートでは、冒頭にそのオリジナル版が演奏されましたのでお聴きください。
指揮は、古楽器演奏の大御所で、自身も伯爵のニコラウス・アーノンクール(1929-2016)です。
作曲:ヨハン・シュトラウス1世
演奏:ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
こちらが冒頭の、新発見の自筆譜による演奏です。
アンコールは、ポピュラーないつもの楽譜で演奏されました。それはこちらです。
ウィーン・フィルはもちろんモダン楽器の演奏ですが、古楽器でのヨハン・シュトラウス2世(息子)の曲も、新春らしいものをご紹介しておきます。19世紀後半ですから、古楽器演奏の下限に近いですね。
トリッチ・トラッチ・ポルカ 作品214
作曲:ヨハン・シュトラウス二世
演奏:ジョス・ファン・インマゼール指揮アニマ・エテルナ
運動会でもよく使われるこの曲は、すでにセレブだったシュトラウスが秘密の恋をしていたのがバレ、ウィーンっ子たちの格好のゴシップネタになってしまったのを苦々しく思い、街角の雀たちがかしましく他人の噂話に興じているのを揶揄して作曲されました。現代の芸能人だったら、記者会見で謝ったり、ブログで釈明したり大変ですが、なかなか余裕の仕返しです。
常動曲(無窮動) 作品257
作曲:ヨハン・シュトラウス 二世
常に動いているように、という指示があり、永久に終わらない曲で、スコアの最後には〝あとはご自由に〟と書いてあるので、指揮者がどこで終わらすかも任せられている、という面白い曲です。
春の声 作品410
作曲:ヨハン・シュトラウス二世
フランツ・リストとパーティで同席した際、余興で作った曲といわれています。題名通り、新春の喜びに満ちたワルツです。
美しき青きドナウ 作品314
作曲:ヨハン・シュトラウス二世
シュトラウスが作曲したワルツに、詩がつけられて、最初は合唱曲として発表されました。その詩は、作曲前年の1866年に、プロイセンとの戦争にたった七週間で負けて(普墺戦争、七週間戦争)で意気消沈するウィーン市民を励ますものでした。
その後、歌詞も変遷があり、ドナウ川にちなんだものが題名になりました。
ワルツの中のワルツ、として親しまれており、特にオーストリア国民にとっては第2の国歌といわれています。
新年のクリスマス・オラトリオ
さて、クリスマス以来聴いてきたバッハの『クリスマス・オラトリオ』の第4部は、1月1日に演奏することになっていますので、こちらを最後に聴きましょう。
バッハ『クリスマス・オラトリオ BWV248 第4部』
キリストの割礼と命名記念日(新年)用(1月1日)用
J.S.Bach : Weihnachts-Oratorium / Christmas Oratorio BWV248
演奏:ジョン・バット指揮ダニーデン・コンソート
John Butt & Dunedin Consort
第36曲 合唱『感謝と賛美にひれふさん』
イエスは生まれて8日後に、ユダヤ教徒の義務である割礼を受け、イエスと名付けられたといいます。クリスマスから数えて8日目が、ちょうど元日というわけです。キリスト教徒にとっては、1月1日は『イエスの御名の祝日』になります。この冒頭の合唱は、派手さは控えめですが、救世主の到来を祝う感謝の歌です。
第39曲 アリア『わが救い主よ、御名を歌え』
イエスに名前がつけられた祝いの歌で、日本で言えば、命名する〝お七夜〟のお祝いにあたりますね。赤ちゃんに名前がつくと、親としてはホッとして、うれしいものです。この歌も安心感に満ちていて、心なしか、おだやかな新年の雰囲気も感じます。珍しいことに、エコーの効果が盛り込まれています。赤ちゃんに名前を呼び掛けて、いとおしんでいるかのようです。
第41曲 アリア『われ主のためにのみ生きん』
一転、テノールがヴァイオリンのみの伴奏で、やや悲壮な感じの歌を歌います。これは、神とイエスのために生きる決意を示したものですが、自分に初めての子が生まれ、俺もこの子のために頑張らねば、と誓う、なりたての父親の密かな決意にも思えます。
第42曲 コラール『真にイエスこそわがはじまり』
管楽器の合奏に彩られた、華やかなコラールです。新年のはじまりにふさわしい、晴れ晴れとした誓いの歌です。
音楽を心の支えに、今年も1年、がんばろうと思います!
今回もお読みいただき、ありがとうございました。

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