孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

彩りと、癒しと、憩いの音楽。グレン・グールド×バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第2集』(3)

バッハの『平均律クラヴィーア曲集 第2集』のご紹介、最終回です。

全24曲中、今回は第17番から、最後の第24番までです。

バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第2集 第17番~第24番』

The Well-Tempered Clavier, Book 2 no.17-24 BWV886-893

演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould

第17番 変イ長調(BWV886)

【プレリュード】教会の鐘を思わせるような軽やかなテーマです。チャイムが鳴って、みんな集まれ~と呼ばれているようです。コンチェルトのリトルネッロ風のお洒落なプレリュードです。

【フーガ】4声。気高く優しいテーマに、半音階的な対位テーマが並走し、深みを与えています。この曲の後半(第24小節以降)は、実は前半が作曲されてから20年後に追加されたものですが、全く時期的な違和感がありません。モーツァルトなどは、若い頃と晩年では、かなり曲の雰囲気が異なり、それぞれの魅力の違いがむしろ楽しいのですが、バッハはその違いをほとんど感じさせないのです。

第18番 嬰ト短調(BWV887)

【プレリュード】情熱的なプレリュードで、ショパンを思わせるほどです。バッハ自身の強弱の指定があり、エコー効果を狙っています。

【フーガ】3声。ゆりかごのように揺れるテーマに半音階の影が伴う二重フーガで、さりげない雰囲気の中にも深い感情を秘めたフーガです。

第19番 イ長調(BWV888)

【プレリュード】跳ねるようなテーマですが、決してはしゃぎすぎることのない、大人の抑制が効いています。8分の12拍子というパストラーレのリズムがのどかな田園を思わせます。

【フーガ】3声。プレリュードに関連性のあるテーマが颯爽と展開していきます。この巻で最も短い曲ですが、ピリリと効いた小粒の山椒のようなフーガです。

第20番 イ短調(BWV889)

【プレリュード】何かを語りかけてくるような含蓄深い曲です。2部に分かれ、後半のテーマは1分の反行形という、バッハらしい技巧が凝らされています。

【フーガ】3部。力強いテーマが決然と奏でられ、次いで全く対照的な、玉を転がすようなテーマが重なり、どんどん引き込まれていきます。

第21番 変ロ長調(BWV890)

【プレリュード】ロンド形式を思わせる華麗な曲。諸声部が絡み合う複雑な構成で、楽しくもあり、ドラマチックでもあり、何度聴いても飽きない充実した曲です。

【フーガ】3声。メヌエットに似た舞曲風のフーガです。高貴な雰囲気に満ちて、非常に印象的な曲です。

第22番 変ロ短調(BWV891)

【プレリュード】技巧と楽想からこの曲集の頂点といわれている曲です。確かに、他の曲と違ってスッと入ってくる曲ではないのですが、心を無にして聴くと理由も分からず何かで満たされてく、そんなプレリュードです。

【フーガ】4声。プレリュードに続き、力強くも複雑かつ精緻な曲で、まさに労作の名にふさわしい曲です。しっかり安定した足取りで始まり、やがてつらい表情を見せながら進み、最後は迷子になったような気がしますが、いつの間にか頂上に立っている、といった、まるで峻厳な山に登るような思いになります。

第23番 ロ長調(BWV892)

【プレリュード】胸のすくような流麗な曲。流れるパッセージは、両手に分けて引き継ぐように演奏されます。コンチェルトのようなスケールを持った素晴らしい曲です。

【フーガ】4声。柔らかく、優しい響きで始まります。だんだんと複雑な構成になっていきますが、親しみやすい基本のテーマが時々しっかりとその姿を見せてくれて、ホッとした思いにしてくれるのです。

第24番 ロ短調(BWV893)

【プレリュード】バッハに宿命的なロ短調、そしてこの偉大な曲集の締めくくり、ということでは期待させますが、意表をついてさりげなく、むしろ軽ささえ感じさせる曲です。かなり以前の作であるという説と、後期の作品であるという両方の説があります。一般聴衆どころか、専門家の詮索にさえ、そう簡単には作曲の背景を見破られないのは、まさにバッハの職人魂といったところでしょう。

【フーガ】3声。ロ短調による終曲、ということで、思わず身構えてしまうのですが。これもプレリュード同様、肩透かしをくらうほど軽いです。しかしむしろ、次の時代を感じさせる思いもします。

Bach: The Well-Tempered Clavier, Book II, Preludes & Fugues Nos. 17-24, BWV 886-893 - Gould Remastered

Bach: The Well-Tempered Clavier, Book II, Preludes & Fugues Nos. 17-24, BWV 886-893 - Gould Remastered

 

以上、音楽の世界の秩序を、24曲で2回、楽譜によって示したバッハ。そして、それをピアノで実際に人の耳に届かせ、時代を超越して伝えたグレン・グールドの演奏。

この曲、この演奏は、深遠でありながら、日常生活の彩りや、疲れた時の癒し、憩いとして聴けるという、世にもまれな音楽だと思うのです。

 

最後に、正統派チェンバロ演奏もご紹介しておきます。

バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第2集(全曲)』

The Well-Tempered Clavier, Book 2 

演奏:エディット・ピヒト=アクセンフェルトチェンバロ

Edith Picht-Axenfeld

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凝縮されたドラマ。グレン・グールド×バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第2集』(2)

前回に続き、バッハの『平均律クラヴィーア曲集 第2集』のご紹介です。

全24曲中、今回は第9番から第16番までです。

バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第2集 第9番~第16番』

The Well-Tempered Clavier, Book 1 no.9-16 BWV878-885

演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould

第9番 ホ長調(BWV878)

【プレリュード】侘びた風情の、落ち着いたプレリュードです。知らない町を旅しているのに、どこか懐かしい思いがする、そんな雰囲気の曲です。

【フーガ】4声。決然と始まるテーマは、実はグレゴリオ聖歌風の古いものです。テーマは建築のように積みあがっていき、大聖堂の内陣から天井を見上げたような、ため息の出るような美しさです。

第10番 ホ短調(BWV879)

【プレリュード】イタリア風のシャレた曲です。右手と左手で交し合うトリルがアクセントを形作っています。後半の展開には、何かを訴えているような切迫感があります。

【フーガ】3声。ちょっとスネたような、特徴的なテーマがとても長大で驚きます。これをどう処理していくのかハラハラしますが、もちろん見事としか言いようがありません。

第11番 ヘ長調(BWV880)

【プレリュード】さりげなく、高みから流れ下る渓流のように始まります。底流にそっと隠れていたメインテーマが、最後にくっきりと現れるところにしびれます。

【フーガ】3声。思わず手で拍子を取ってしまいたくなるような、楽しいテーマです。実に軽快で、プレリュードの同じように、底流で小出しにしていた魅力的なテーマが、最後に姿を現すところは、私もこの曲中最も好きな瞬間です。

第12番 ヘ短調(BWV881)

【プレリュード】おもちゃの人形が、同じ動きを繰り返すような始まりから、とても洗練された都会的なフレーズに流れていきます。バッハの晩年とは思えない新しい響きがします。

【フーガ】3声。バッハには珍しく単純な構造のフーガで、ダンス音楽のようです。プレリュードに続き、やや世俗的な香りのする曲です。

第13番 嬰ヘ長調(BWV882)

【プレリュード】気だるい昼下がりのようなメロディで始まりますが、実は曲集が後半に入るのを告げるかのように、フランス風序曲を思わせる曲です。

【フーガ】3声。胸がすくような、輝かしいフーガです。思いは大空高く羽ばたいていきます。この曲を聴くと、どんな嫌なことも吹き飛んでしまうような気分になるのです。

第14番 嬰ヘ短調(BWV883)

【プレリュード】最初は繊細で、やや神経質な感じで始まりますが、曲が進むにつれ、悠然と流れていきます。

【フーガ】3つのテーマをもつ3声による三重フーガで、バッハでは『フーガの技法』を除いて類例がありません。壮大で、まさに充実感あふれる曲です。

第15番 ト長調(BWV884)

【プレリュード】音符が細かくざわめきます。色彩がめくるめくように変わってゆく、変幻極まりない曲です。

【フーガ】3声。軽快なアルペッジョがフーガを形づくる、驚くべき曲です。くどくどしたところは全くなく、颯爽と短く、そしてカッコよく去っていきます。こんな男になりたいものです。

第16番 ト短調(BWV885)

【プレリュード】ゆっくりとした付点リズムのついた曲で、「ラルゴ」の速度表記があります。深い思いを込めた、叙情豊かな音楽です。

【フーガ】4声。この曲集を代表するような精緻で力強いフーガです。後半、叫ぶように突出する高音部や、とぎれとぎれの終わり方は、ひとつの完結したドラマといえるでしょう。

Bach: The Well-Tempered Clavier, Book II, Preludes & Fugues Nos. 9-16, BWV 878-885 - Gould Remastered

Bach: The Well-Tempered Clavier, Book II, Preludes & Fugues Nos. 9-16, BWV 878-885 - Gould Remastered

 

 

チェンバロの演奏はこちら。

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2集(全曲)

クリストフ・ルセチェンバロChristophe Rousset

 

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地球外生命体に届け!グレン・グールド×バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第2集』(1)

平均律クラヴィーア曲集 第2集

今回から、バッハの平均律クラヴィーア曲集第2集にはいります。

成立したのはゴールトベルク変奏曲のあと、1744年ですから、最晩年の作品のひとつですが、各曲自体は以前の旧作を集めたようで、一定の統一感がみられた第1集に比べると、かなりバラエティに富んでいます。

それぞれの曲がいつ作られたものか、ということはかなりの議論がありますが、はっきり分かっていないようです。

全調性×長調×短調の24曲セットで、それぞれプレリュード(前奏曲)とフーガを組み合わせ、平均律の使い勝手の良さを示す、というコンセプトは第1集と同じです。

第1集の曲は、ラテン的な明るさも感じられる抒情的なものが多いのですが、第2集は音楽的にはより高度なものが多いように思います。

私は最初に第1集に親しんでから第2集に移ったのですが、第2集は〝難しい〟と感じてしばらく敬遠していたのを思い出します。

ずっと第1集ばかり聴いていて、第2集をよく聴くようになったのは、グールドの演奏に出会ってからでした。それ以降は、第2集の方をよく聴いている気がします。

宇宙の彼方へ

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ボイジャーの『ゴールデンレコード』(ジャケット)

グールドの弾く第2集の第1番は、1977年に打ち上げられた惑星探査船『ボイジャー』1号と2号に「地球の音」として載せられた、『ゴールデンレコード』に録音されています。

ボイジャーは惑星探査を終えた後、太陽系外に出て、他の恒星系へ向かっています。

もちろん、途中で連絡は途切れますので、流れ流れて、いつの日か地球外知的生命体に拾われ、地球の存在を知ってもらう、というロマンあふれた計画です。

2015年現在で、太陽から約195億Km離れたところを飛行中とのことです。

しかし〝お隣の恒星系〟に到達できるのは3万年後ということですから、地球外生命体が見つけた頃は人類はどうなっていることやらですが…。

『ゴールデンレコード』には、55の言語によるメッセージ、動物の鳴き声などの自然音とともに、クラシック音楽では、バッハの『ブランデンブルク協奏曲第2番第1楽章』(カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ管弦楽団)、同じくバッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ第3番ガヴォット』(アルテュールグリュミオー)、モーツァルトのオペラ『魔笛』より『夜の女王のアリア』(ソプラノ:エッダ・モーザー、ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイエルン国立歌劇場)、ストラヴィンスキーの『春の祭典』から『生贄の踊り』(イーゴリ・ストラヴィンスキー指揮コロンビア交響楽団)、ベートーヴェンの『交響曲第5番第1楽章』(オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団)、アントニー・ホルボーンルネサンス期の作曲家)の『ヴァイオルもしくはヴァイオリン属と管楽器のためのパヴァン集、ガリアード集、アルメーン集ならびにエア集』(ディヴィッド・マンロウ指揮ロンドン古楽コンソート)、ベートーヴェンの『弦楽四重奏曲第13番第5楽章』(ブダペスト弦楽四重奏団)と、このグールドの演奏が収められているのです。

ピアニストはグールドだけですから、〝地球代表〟に選ばれたのはすごいことですね。

CDではなく、アナログのレコードだからこそ、再生可能な気もします。

今も暗い宇宙空間を進みゆくレコード。その行く末は誰も知ることはできないわけです。

バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第2集 第1番~第8番』

The Well-Tempered Clavier, Book 2 no.1-8 BWV870-877

演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould

第1番 ハ長調(BWV870)

【プレリュード】ボイジャーに搭載された演奏です。グールドのテンポはゆっくりと落ち着いていて、心の芯から癒されます。いつまでも身をゆだねていたいような曲です。これを宇宙人が聴いたら、地球はさぞ平和で慈しみに満ちた星だと思うことでしょう。だんだんとフォルテになっていくのも、感情がたゆたうようで印象的です。

【フーガ】3声。シンプルなテーマがたたみかけていきますが、高貴な香りを宿した素晴らしいフーガです。特に終わり方は情緒あふれています。

第2番 ハ短調(BWV871)

【プレリュード】激しく情熱的な響きですが、聴くうちに、優雅な踊りの音楽であることが分かります。思わず体が動いてしまうような活発なリズムの曲です。

【フーガ】4声。グールドの演奏は、内緒話をしているかのように、ひそひそと語り始め、またひっそりと終わる印象的な曲です。

第3番 嬰ハ長調(BWV872)

【プレリュード】この曲も静かに〝ひそひそ〟と始まりますが、途中でいきなりフーガに転じます。グールドの演奏ではその転換が見事でしびれます。本来はこの曲だけでプレリュードとフーガを構成していましたが、この曲集に組み込まれるにあたり、全体がプレリュードとして扱われたようです。

【フーガ】4声。非常に上品な、落ち着いたフーガです。グールドは、ここでも、だんだんと音量を上げていくことで、胸がいっぱいになるような、絶妙な効果を上げています。

第4番 嬰ハ短調(BWV873)

【プレリュード】女性の問わず語りを聞いているような、しみじみとした情感の曲です。短い中に、人生のドラマが集約されている思いがします。

【フーガ】3声。プレリュードで抑えていた思いが溢れ出たようなドラマチックなフーガです。現代的な響きを感じます。

第5番 ニ長調(BWV874)

【プレリュード】この曲集で最も格式高い香りのする曲です。まるで、老伯爵が優雅にダンスを踊っているかのようです。第1集では見られなかったタイプの曲です。この曲をピアノで自分で弾けたら、どんなにか楽しいことでしょう。

【フーガ】4声。楽しいゲームのような響きのフーガです。全体的に、祝祭的な、外面的楽しみに満ちた音楽です。

第6番 ニ短調(BWV875)

【プレリュード】ニ短調らしい、颯爽とした曲です。ピアノで弾くと、現代曲かと思うほどドラマチックに響きます。

【フーガ】3声。くるくると回転するようなテーマがからみあって展開していきます。そしてからみあったかに見える糸は、素晴らしい織物に仕上がるのです。

第7番 変ホ長調(BWV876)

【プレリュード】実に楽しく、晴れやかな曲です。バロックというより、次の古典派時代を先取りしたような雰囲気があります。

【フーガ】4声。おどけたようなテーマですが、フーガの構成としては、実にオーソドックスに、ある意味堅実に組まれている曲です。

第8番 変ホ短調(BWV877)

【プレリュード】第2番と同じく、舞曲のアルマンドの形式をとっています。エキゾチックな香りもする、哀愁を秘めた音楽です。

【フーガ】4声。何かを訴えているようなテーマが、哀しくも高貴に響きます。クライマックスに近づくにつれて、万感胸に迫る思いのする曲です。

Bach: The Well-Tempered Clavier, Book II, Preludes & Fugues Nos. 1-8, BWV 870-877 - Gould Remastered

Bach: The Well-Tempered Clavier, Book II, Preludes & Fugues Nos. 1-8, BWV 870-877 - Gould Remastered

 

チェンバロの演奏はこちら。

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2集(全曲)

クリストフ・ルセチェンバロChristophe Rousset

 

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時間と音階の不思議な一致。グレン・グールド×バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第1集』(3)

前回に続き、バッハの『平均律クラヴィーア曲集 第1集』のご紹介です。

全24曲中、今回は第17番から、最後の第24番までです。

バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第1集 第17番~第24番』

The Well-Tempered Clavier, Book 1 no.17-24 BWV862-869

演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould

第17番 変イ長調(BWV862)

【プレリュード】ヴィヴァルディのコンチェルトにみられるリトルネッロ形式なので、明るくイタリア風に響きます。浮き立つようでいて、気品のある曲です。

【フーガ】4声。プレリュードの雰囲気を引き継ぎ、軽快な中に落ち着いた感じのするフーガです。

第18番 嬰ト短調(BWV863)

【プレリュード】切々と心の中の思いを吐き出すような曲ですが、この珍しい調ならではの激しさも秘めています。

【フーガ】4声。特徴的なテーマが表情豊かに展開していきます。ハーモニーが変幻していく様が心に沁み入ります。

第19番 イ長調(BWV864)

【プレリュード】さわやかなテーマがフーガ的な展開を見せます。高台に立って、平原を見はるかしているかのような、大きな気分にしてくれます。

【フーガ】3声。8分の9という変わった拍子です。最初の孤立した音にハッとさせられますが、その後淡々としながら進んでいくのにもかえって意表をつかれます。

第20番 イ短調(BWV865)

【プレリュード】サスペンス的なドラマチックさに満ちた曲です。バッハにしては直截的で単純な響きですが、それが逆に心に残ります。

【フーガ】4声。全曲中でも、特に長大で複雑なフーガです。〝練習曲〟の域を超えた難曲で、特に曲の最後はピアノでは弾けず、オルガンでしか弾けないので、他の曲より早く、オルガン曲をたくさん作ったワイマール時代に遡る曲では?とも言われています。

第21番 変ロ長調(BWV866)

【プレリュード】軽やかで、流れるような曲です。それでいて、和音が様々に変化し、複雑な表情を見せます。バッハの華麗な即興演奏を彷彿とさせます。

【フーガ】3声。楽しく、かつ奥の深い、人気のある曲です。短いですが、色々な思いを心のうちに惹起させてくれます。

第22番 変ロ短調(BWV867)

【プレリュード】宗教曲を思わせるような厳粛なたたずまいの曲です。教会でひたすら祈りを捧げている乙女の姿が目に浮かびます。何を祈っているのでしょうか…。

【フーガ】5声。瞑想にふけるような深淵なフーガです。深山の奥で座禅を組んでいる僧侶のように、東洋的なものを感じます。

第23番 ロ長調(BWV868)

【プレリュード】明るい曲ですが、決して派手ではなく、奥ゆかしい響きです。変ロ短調ロ短調に挟まれたこの曲は、〝2つの深淵の間に咲いた一輪の草花〟と言われています。

【フーガ】4声。プレリュードに引き続き、落ち着いたフーガです。さりげないテーマが展開していく様は、秋の昼下がり、斜陽に照らされたうつくしい庭の景色を思わせます。

第24番 ロ短調(BWV869)

【プレリュード】ロ短調はバッハに宿命的な調性であり、この曲集の末尾を飾るにふさわしい曲です。時計のように刻むリズムは、時の運命を示すかのようです。特にこの曲には、アンダンテの速度表示があります。

【フーガ】4声。プレリュードに引き続き、時を刻むようなリズムで展開していきます。曲想は複雑かつ崇高で、何を表現しているのか、古来議論の的になってきました。この曲にもラルゴの指定がありますが、グールドはあえて速めに演奏しています。曲が終わった後、考えさせられるような意味深な音楽、演奏です。

我が家の時計

我が家のリビングには、お気に入りの電波掛時計があります。

どんな時計か、特徴を製品のHPより引用します。

音階時報時計グランソルフェB1は音程感覚を幼児期から身につける方法として開発しました。
時計文字板をご覧下さい。
この時計の文字板には見慣れないアル ファベットが記されています。
この時計の特徴は時刻表示を音階音の基礎音ドと各時刻にあてはめた音階音の2音での表示方法を世界で初めて採用したことで す。
絶え間なく鳴らされる時報音に音程感覚を身につける効果をもたせたものです。
この時計を御家庭に設置することにより、お子さんの音程感覚の育成に是非お役立て下さい。
この製品は絶対音感の訓練にも利用することができます。

SCHLAGEN 音階時報時計

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我が家の掛時計〝グランソルフェ〟

ということで、この時計は、時報でドとともに、12の音を鳴らし、そのあとに、お好み設定で、バッハの平均律クラヴィーア曲集第1集の、それぞれの長調のプレリュードが流れる、というものなのです。

音階も12、一日の時刻も12、という、宇宙の神秘を感じさせる一致を利用したもので、まさに、我が家の日々の生活はバッハの平均律とともにあるのです。

ただ、子供に絶対音感はつかずじまいでしたが。笑

音階、そして時間。バッハの平均律クラヴィーア曲集は、耳に心地よいだけでなく、まさに宇宙の秩序を現出したものなのです。

 

チェンバロでの演奏は次です。

平均律クラヴィーア曲集 第1集全曲です。

演奏:ケネス・ギルバート(チェンバロ)Kenneth Gilbert 

 

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どこまでも優しく。グレン・グールド×バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第1集』(2)

前回に続き、バッハの『平均律クラヴィーア曲集 第1集』のご紹介です。

全24曲中、今回は第9番から第16番までです。

バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第1集 第9番~第16番』

The Well-Tempered Clavier, Book 1 no.9-16 BWV854-861

演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould

第9番 ホ長調(BWV854)

【プレリュード】どこまでも優しく、癒される音楽です。頭を撫でられているように心地よく、身を任せたくなる曲です。

【フーガ】3声。元気で快活そのもののフーガです。よしがんばろう、という気にさせてくれます。

第10番 ホ短調(BWV855)

【プレリュード】哀調あるメロディが淡々と進んでいきますが、最後の方でいきなりプレストに転じ、ドラマチックな展開を見せます。意表をつく、バッハならではの仕掛けです。

【フーガ】2声。バッハが2声で書いた唯一のフーガです。東洋的な香りもする、不思議な曲です。

第11番 ヘ長調(BWV856)

【プレリュード】トリルが印象的な、軽快な曲です。明るい長調ながら、時々陰翳がゆらめきます。

【フーガ】3声。親しみやすいメロディですが、プレリュードと同じように、少し影を感じる曲です。

第12番 ヘ短調(BWV857)

【プレリュード】晩秋の夕暮れのような、静かな寂しさに満ちた曲です。途中、寒い中でありついた温かいスープのような和音も用意されています。

【フーガ】4声。プレリュードの序章をそのまま続けて物語にしたような曲です。半音階の不安なフレーズもよぎり、どう終わるのか分からない複雑な展開ですが、最後はあっさりと終わるところがまた意表をつきます。

第13番 嬰ヘ長調(BWV858)

【プレリュード】一転、春が来た予感のする、早春の香りのする音楽です。まだ本格的な春は遠いですが、希望の光を見つけたような、静かなうれしさが込められています。

【フーガ】3声。テーマは天使が高らかに歌うように響き、福音を告げ知らすような輝かしさを感じます。

第14番 嬰ヘ短調(BWV859)

【プレリュード】決然と、目に涙を浮かべながら故郷を去る旅人を思わせるような、颯爽とした哀歌です。

【フーガ】4声。逆に、切々と自分の思いを語る人のような曲想です。ここでは、〝ため息モチーフ〟というフレーズが用いられているのです。

第15番 ト長調(BWV860)

【プレリュード】明るく陽気で、見事なまでにかっこいい曲です。私も全曲中、最も愛してやまない曲です。しびれます。

【フーガ】3声。これも弾むように軽快で、うきうきとしたフーガです。軽いようで、短調の陰も見せる、深い曲でもあります。最後に向けての盛り上がりも、まるでオペラのフィナーレを見るようで、最高です。第1番のフーガのように、最後には至高天に到達する思いがします。

第16番 ト短調(BWV861)

【プレリュード】ト短調モーツァルトにとって宿命的な調ですが、まさにオペラの悲劇のヒロインが悲しみを歌うアリアのような曲です。高音部はまさにソプラノの歌のように心に響きます。

【フーガ】4声。プレリュードに続く、ひとつの物語のような、切々としたフーガです。

Digital Booklet: Bach: The Well-Tempered Clavier, Book I, Preludes & Fugues Nos. 9-16, BWV 854-861 - Gould Remastered

Digital Booklet: Bach: The Well-Tempered Clavier, Book I, Preludes & Fugues Nos. 9-16, BWV 854-861 - Gould Remastered

 

次回、第16番から第24番です。

 

チェンバロでの演奏は次です。

平均律クラヴィーア曲集 第1集全曲です。

演奏:ケネス・ギルバート(チェンバロ)Kenneth Gilbert 

 

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バッハが示した宇宙の秩序。グレン・グールド×バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第1集』(1)

平均律とは

バッハ×グレン・グールドの最強タッグ、次はバッハ平均律クラヴィーア曲集です。

第1集第2集のふたつがあり、いずれも鍵盤楽器音楽の最高峰といえます。

19世紀の偉大な指揮者、ハンス・フォン・ビューローが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ集を〝新約聖書〟、バッハ平均律を〝旧約聖書〟と呼んだのは有名です。

私にとっても、何度聴いても飽きない、人生、生活とともにあった、かけがえのない曲です。

バッハはこの曲集で、〝平均律の良さ〟を証明することを意図しました。

平均律』とは、ピアノなど鍵盤楽器の調律方法の一種です。

音律は自然のものですが、純粋なハーモニーが生まれるようにすると、1オクターブがなぜかうまく割り切れないために、音がズレて、濁る和音が生まれてしまいます。

純正に響く和音だけで曲を作ることもできるので、そのような調律法が古来あったのですが、バッハは、全ての調性を使えた方が表現の幅が広がるため、ズレを全ての音に平均的にまぶす調律法を支持しました。それが平均律です。

いわば、全部微妙に濁って響くわけですが、気になるような範囲ではなく、それよりも、転調が自由自在にできる方を採った方がよい、という考え方です。

バッハはこの考えの正しさを示すため、全ての調性で見本の曲を作りました。

それが、平均律クラヴィーア曲集です。

第1集も第2集も、プレリュード(前奏曲フーガでワンセットとし、24曲ずつあります。

なぜ24曲なのか。

それは、ピアノの鍵盤は1オクターブに白鍵が7つ、黒鍵が5つ、計12ありますが、そのひとつひとつに長調(メジャー)と短調(マイナー)があるので、計24ある、と考えると簡単です。

プレリュードで自由自在な和音の多彩さを示すし、フーガでポリフォニーの素晴らしさを示す。

この曲集は、バッハが音楽で宇宙の秩序を示したともいえるのです。

その楽譜を、グールドがこの世に現出させた演奏です。

バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第1集 第1番~第8番』

The Well-Tempered Clavier, Book 1 no.1-8 BWV846-853

演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould

第1番 ハ長調(BWV846)

【プレリュード】最も有名で平明な曲。アルペッジョ(分散和音)として繰り返される音型は、単純ながら色合いを変幻自在に変えてゆきます。まるで、木漏れ日に照らされた葉が、風に揺れながら光と影の間を揺らめいているようです。後年、フランスの作曲家グノー(1818-1893)が、この曲を伴奏としてアヴェ・マリアを作曲したことも、あまりにも有名です。

【フーガ】4声。一歩一歩、階段を昇っていくようなフーガです。だんだん離れていく下界の景色を眺めながら、雲の上、天上の世界へ。最後の高音は、到達した天国の至高の高みのように高貴です。

第2番 ハ短調(BWV847)

【プレリュード】悲劇的な調であるハ短調らしく、前曲とは打って変わって、テンポも変わる激しさを見せる曲です

【フーガ】3声。決然としたような、きっぱりした音楽です。最後は見事なまでにドラマチックです。

第3番 嬰ハ長調(BWV848)

【プレリュード】このような、全部の調を使うという企画でなければ、ほとんど使われない調性ですが、そんな特別なことなど感じさせない、ころころと玉を転がすように展開していく軽快な曲です。

【フーガ】3声。話口調のようなテーマで、息もつかせずたたみかけるようなフーガです。その充実感は言葉では表せません。

第4番 嬰ハ短調(BWV849)

【プレリュード】この上なく高貴で、哀愁を漂わせた音楽です。低音部と高音部が互いに対話するかのように響き合い、切なく物語を紡いでいくのです。

【フーガ】5声部の三重フーガ。雨の降り始めのように、音がポツン、ポツンと流れ始め、それを見つめていると、それが次々に重なり、積みあがっていき、ついには壮大な大聖堂が目の前に現れる思いがします。

第5番 ニ長調(BWV850)

【プレリュード】流麗な、川の流れのような音楽です。メロディは最初は単純な練習曲のようですが、みるみる変幻して、めくるめく世界を作ります。終わり方もクールで、しびれます。

【フーガ】4声。風格たっぷりの、フランス風序曲のように堂々としたフレーズとリズムは、思わず一緒に口ずさみたくなります。王者のフーガ、とでも呼びたくなる曲です。

第6番 ニ短調(BWV851)

【プレリュード】即興演奏を聴いているような、自由な曲想です。これからどうなるんだろう、と展開が読めず、聴いていて、ドキドキするような曲です。

【フーガ】3声。切り込んでいくような、ナイフのように鋭いテーマが複雑に絡み合うフーガです。ニ短調らしい、激しい色彩です。

第7番 変ホ長調(BWV852)

【プレリュード】変ホ長調は雄大でおおらかな感じの調ですが、この曲もゆったりと落ち着いた、大人の音楽です。実は、プレリュードといいながら、中身は序奏のついたフーガです。後半、まったく新しいフレーズが入ってきて驚かされます。いつまでも心に残る、印象的な音楽です。

【フーガ】3声。プレリュードの雄大、壮大な感じから一転、軽く、おどけたような楽しい曲です。それでいて、後半は緊張感も漂わせる、油断のできない曲です。

第8番 変ホ短調(BWV853)

【プレリュード】悲劇の語り部のような、厳粛かつ崇高な音楽です。そのドラマチックさは、ほとんど現代的といってよいでしょう。

【フーガ】3声。バッハの中でも有名な、哀しく印象的な旋律が、語りかけるように流れ出し、重なっていきます。だんだんと、胸が締め付けられていくような思いさえします。このような曲は、あえて悲しい気分の時に聴くと、慰めてくれるような気がします。

Glenn Gould. Bach: The Well-Tempered Clavier, Book I, 1. Preludes & Fugues 1-8 BWV 846-853

Glenn Gould. Bach: The Well-Tempered Clavier, Book I, 1. Preludes & Fugues 1-8 BWV 846-853

 

次回、第9番から第16番です。

 

チェンバロでの演奏は次です。

平均律クラヴィーア曲集 第1集全曲です。

演奏:ケネス・ギルバート(チェンバロ)Kenneth Gilbert 

 

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眠れぬ夜が生んだ曲。バッハ『ゴールトベルク変奏曲』(続)

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『ゴールトベルク変奏曲』初版の表紙

今週のお題「芸術の秋」

グレン・グールドの旧録

前回に引き続き、今回はゴールトベルク変奏曲の中身をご紹介したいと思います。

冒頭、今度はグレン・グールドの金字塔、衝撃のデビュー作の旧録を掲げておきます。

1955年の録音ですが、リマスター技術もあり、60年以上前の衝撃が今もフレッシュに伝わってきます。新録よりも全体のテンポが速いのが特徴です。(新録は旧録よりテンポが遅い、と言い方が正確ですが)

バッハ『ゴールトベルク変奏曲 BWV988』

The Goldberg Variations BWV988

演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould 1955年録音

眠れない夜のために

バッハの数ある曲の中でも、特に不滅の名曲と讃えられる『ゴールトベルク変奏曲』の成り立ちには、有名な逸話があります。

ドレスデン駐在のロシア大使、ヘルマン・カール・フォン・カイザーリンク伯爵(1696-1764)は、大の音楽好きで、ヨハン・ゴットリーブ・テオフィルス・ゴールトベルク(1727-1756)という10歳の天才クラヴィーア奏者を召し抱え、常にそばに置いて演奏させていました。

クラヴィーア〟はドイツで鍵盤楽器を総称する言葉で、チェンバロ時代は主にチェンバロを、ピアノ時代は主にピアノを指しますが、厳密には分けられません。

伯爵は不眠症気味で、眠れない夜には隣室でゴールトベルクにチェンバロを演奏させたといいます。

TVもラジオもCDもスマホもない時代ですから、夜はシーンとしていたことでしょう。TVつけっぱなしでないと眠れない、という人もいますから、気持ちは分かります。

カイザーリンク伯爵は、ドレスデンで客演したバッハのオルガン演奏を聴いてすっかり大ファンになってしまい、バッハに眠れない夜のための、特別な曲の作曲を依頼します。

その注文内容は、『穏やかでいくらか快活な性格をもち、眠れぬ夜に気分が晴れるようなクラヴィーア曲』でした。

バッハがそれに応えて書いたのが、この曲です。

出来上がったのは、眠れるどころか、かえって興奮して目が覚めるんじゃないかと思われるような、壮大で充実した大作でしたが、伯爵はこの曲に満足し、バッハに〝ルイ金貨が100枚つまった金杯〟を贈り、この曲を〝私の変奏曲〟と呼んで終生愛したということです。

このエピソードは、フォルケルという伝記作家が、半ばうっとりした調子で伝えているのですが、マユツバ、とする研究者も多いです。

それは、当時ようやく14歳だったゴールトベルクが演奏できるとは思えない難曲だということと、バッハがこの曲を『クラヴィーア練習曲集 第4部』として出版した際、伯爵について全く言及していない、ことなどからです。

もしかすると、依頼に基づいたものではなくて、バッハが先に作曲して、伯爵に献呈した、ということかもしれません。

しかし、フォルケルはバッハの子供たちにも取材していますし、この曲の他の記述には信憑性が高いものもあるので、多少話は盛ったとしても、ある程度の史実は反映しているでしょう。

14歳にはとてもこれは弾けないだろう、というのも、逆に根拠はありません。音楽界には早熟の天才はしばしば現れますから。

数学的な構成

さて、曲の中身ですが、バッハはなぜか『変奏曲』というジャンルをあまり書いていません。この曲のほかには2曲ほどしかありません。

また、この曲を聴くと、〝どこが変奏曲なの?〟と思います。

ヘンデルの『調子の良い鍛冶屋』や、モーツァルトの『きらきら星変奏曲』のように、メインテーマが明確に聞こえてこず、分かりづらいのです。

それは、テーマが低音の基本線であり、各変奏は、そのテーマをさらに自由に低音で再現させているからです。

しかし、曲の構成は、バッハらしく、かなり計算された、しっかりしたものです。

1曲目にメインテーマを示した『アリア』があり、これをダ・カーポといって、最後にもう一度持ってきています。

そして、その間に、第1変奏から第30変奏まで、30曲展開させています。(つまり、計32曲、ということになります)

その性格はそれぞれに変幻自在なのですが、3曲ごとにカノン(輪唱のようなもの)が置かれていて(つまり3の倍数の曲はカノン)、しかも、カノンの音程が1曲目は1度(ユニゾン)、2曲目は2度、3曲目は3度、というように増えていって、最後の第27変奏は9度のものになるのです。

また、第16変奏がフランス風序曲になっていて、ここで大きく前編と後編に分かれています。

この曲はもちろんピアノが普及する前のものですので、2段鍵盤の大型チェンバロが指定されていて、曲ごとに、原則第1鍵盤第2鍵盤のどちらを使うか指定されています。

チェンバロは鍵盤を強く叩いても弱く叩いても出る音は同じなので、鍵盤を分け、音色と音量に変化を出しているのですが、第2鍵盤の方が強めになっていて、後編では第2鍵盤の使用が多くなっています。

そのため、楽譜に忠実に弾くのはピアノでは不可能ということになりますが、ピアニストたちはそれぞれに工夫をして弾いています。各変奏にはほとんど速度指定もないので、演奏者の解釈のしどころでもあります。グールドの旧録は、その速さに皆度肝を抜かれました。

チェンバロでの演奏、ピアノでの演奏、それぞれに趣きと良さがありますので、その聴き比べも楽しみなのです。

この曲は、正式には『2段の手鍵盤をもつチェンバロのためのアリアとさまざまな変奏』と記されています。

以下には、バッハのオリジナルの響きに近い、チェンバロでの演奏を掲げます。ぜひ、グールドのピアノと聴き比べてください。

バッハ『ゴールトベルク変奏曲 BWV988』

The Goldberg Variations BWV988

演奏:トレヴァー・ピノック(チェンバロ) Trevor Pinnock

アリア。舞曲のサラバンド風の、静かで含蓄深い味わいの曲です。これから始まる壮大なドラマの序章であり、眠れない人を優しく慰めているかのようです。

第1変奏。わくわくするような2声のプレリュードです。グールドの新録では、最初の音がすごいフォルテで、いきなり目が覚めます。(笑)第4変奏までは第1鍵盤使用です。

第2変奏。少し落ち着いた感じです。3声で進んでいきます。

第3変奏。カノンの1曲目。ユニゾン(同音)です。バスの基本線が分かりやすいです。

第4変奏。背筋が伸びるような高らかな歌です。グールドの新録では彼の鼻歌も一段と高く聞こえます。

第5変奏。1段または2段鍵盤で演奏される、軽やかに走るような曲想です。

第6変奏。1段鍵盤用の2度のカノンで、小川のせせらぎのように流れていきます。

第7変奏。落ち着いたシシリア―ノのリズムで、優しく心に響いてきます。やや憂いを含んだところも印象的です。1段または2段鍵盤用です。

第8変奏。また、走り出します。2段鍵盤用で、ピアノで弾くのは難しい曲です。

第9変奏。1段鍵盤で弾く、3度のカノン。風に吹かれるような爽快な曲調です。

第10変奏。1段鍵盤による、一度聴いたら忘れられない、つい口ずさんでしまうような4声のフーガです。1段鍵盤用。

第11変奏。2段鍵盤のための、光が静かにきらめくような、美しい曲です。

第12変奏。強い調子の、4度の転回カノンです。

第13変奏。2段鍵盤によりますが、繊細な感じの、優しく撫でるような曲です。

第14変奏。2段鍵盤による毅然とした曲。はるか高みから流れ落ちる音階の部分では、新録ではグールドの大きなハミングが聞こえます。

第15変奏。1段鍵盤による5度のカノン。この曲だけ、速度がアンダンテに指定されています。深夜の憂愁を示すような深い音楽です。

第16変奏。全曲の憂愁を吹き飛ばすような、高貴で雄大な序曲です。緩→急のフランス風序曲で、後編の始まりを告げます。変奏とは関係ないように思えますが、緩、急両方の部分で、ちゃんと低音の基本線は維持されているのです。

フランス風序曲についてはこちら。

www.classic-suganne.com

第17変奏。2段鍵盤用の、2声の流麗な曲です。

第18変奏。1段鍵盤用の6度のカノン。全体に落ち着いた調子です。

第19変奏。1段鍵盤用。無邪気で可愛い雰囲気の、ダンス風音楽です。

第20変奏。2段鍵盤用の複雑で華麗な曲です。ピアノで弾くには相当なテクニックが必要な難曲です。

第21変奏。半音階的な悲壮さも感じる7度の重々しいカノン。

第22変奏。フーガ風のバッハらしい、充実した曲。

第23変奏。2段鍵盤用で、音階が華やかに上下する、めくるめくような色彩の曲です。

第24変奏。1段鍵盤用の8度のカノン。軽やかにスキップするようなカノンです。

第25変奏。悲しげな短調の深い曲です。めずらしくアダージョの速度指定があります。2段鍵盤用。

第26変奏。気を取り直すように、毅然として立ち向かうような曲想です。

第27変奏。2段鍵盤用の、9度の最後のカノンです。前曲と同じように背筋を伸ばしたような調子です。

第28変奏。玉を転がすようなトリルが印象的な、2段鍵盤用の曲です。現代的な響きを感じます。

第29変奏。1段または2段鍵盤用で、大変テクニカルで輝かしい曲です。こんな曲を聞いたら、とても眠ってはいられません。

第30変奏。1段鍵盤で演奏される、〝クォドリベット〟という特別な曲です。ふたつの民謡のメロディを同時に歌って一つの曲にするもので、バッハ一族が集まったときなどに、宴会での余興として皆で歌ったそうです。バッハはここで、低音の基本線を前面に出しながら、ふたつの民謡を乗せるという離れ業をやっています。ふたつの民謡とは、イタリア民謡の『キャベツにカブが、俺を追い出した。母さんが肉を料理してくれれば家出しなくてすんだのに。』と、ドイツ民謡の『長い間ご無沙汰だったな、さあさあ、おいで。』です。

アリア(ダ・カーポ。冒頭のアリアの繰り返しですが、同じ曲なのに、祭のあとのような、充実感と寂しさと心地よい脱力感が感じられるのが不思議です。

 

眠れないときはもちろんのこと、生活のどんな場面で聞いても、悩みを忘れさせ、元気をくれる、かけがえのない曲です。

チェンバロの味わいも大好きなのですが、バッハ×グレン・グールドの最強タッグは、どれだけの人々を感動させてきたことでしょうか。

 

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