孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

「王妃炎上」のはじまり、首飾り事件。~マリー・アントワネットの生涯51。モーツァルト:オペラ『クレタの王イドメネオ』第2幕後半

「首飾り事件」の首飾りのデザイン画

「首飾り事件」の発覚

1785年夏、王妃マリー・アントワネットは、ボーマルシェ作の喜劇セビリアの理髪師を、プチ・トリアノン宮殿の自分専用の劇場で、自ら上演するのに夢中になっていました。

ベルタン嬢にコスチュームを作らせ、コメディ・フランセーズの演出家を呼んで、演技指導を受け、稽古に励んでいました。

ところがある日、首席侍女のカンパン夫人が稽古に遅刻してきました。

どうしたの、と問うと、トラブル発生です、という報告。

出入りのユダヤ人宝石商人ベーマーがやって来て、『王妃が分割払いで購入した非常に高価なダイヤモンドの首飾りの支払いがないので、このままでは破産です』と泣きついてきて、王妃様に謁見を求めています、とのこと。

マリー・アントワネットは首をかしげます。

そんな首飾りなんか買った覚えがないのです。

そういえば、ベーマーは以前、ルイ15世デュ・バリー夫人に贈るために発注したが、王が崩御してしまったために引き取り手がなくなった、大きなダイヤの首飾りを、買っていただきたい、と持ち込んできた…

でも、160万リーブルという値段は、さすがに王も大臣たちも難色を示し、買わせてもらえなかった…

あの首飾りのこと?

でも、自分は買っていないのに、宝石商は何を言っているのかしら?

これが、マリー・アントワネットの転落を導くことになった、有名な「首飾り事件」のはじまりです。

軽率だった、王妃の怒り

セビリアの理髪師』の稽古を優先し、宝石商との謁見は数日後になりました。

会ってみると、ベーマーはますます不可解なことを言います。

曰く、王妃の親友ヴァロア伯爵夫人が店にやってきて、王妃が内密にその首飾りを買いたいとおっしゃいました。

そして、ロアン枢機卿が王妃の委託と称してお持ち帰りになりました、と。

王妃がびっくりします。

ヴァロア伯爵夫人なんか親友どころか、名前も初めてきいたし、ロアン枢機卿といえば、大領主であることをいいことに、聖職者でありながら好色で贅沢三昧の軽薄な人物。

かつて駐オーストリアのフランス大使となり、ウィーンに駐在したけれど、あまりに派手な振る舞いで風紀を乱し、ウィーン貴族たちが彼にならって贅沢をし始めたため、女帝マリア・テレジアの怒りを買い、マリー・アントワネットが王妃になると、すぐ解任してほしい、と母帝から頼まれたくらいの人間。

王妃も口もききたくないくらい嫌っていたのです。

衝撃的な、枢機卿逮捕

ロアン枢機卿

ロアン枢機卿があまりに派手な暮らしをしていて、大借金をしているのも有名でしたから、王妃は、彼が自分の名前を使って宝石を手に入れ、金策していたのだろう、と決めつけます。

これは誤解で、この事件にはもっと深い裏があったのですが、物事を深く考えることのないマリー・アントワネットは、ロアンを罰してほしい、と夫のルイ16世に訴えます。

従順な王も、調査をすることなく、王妃の剣幕にタジタジとなり、枢機卿の逮捕を命じます。

ロアンは、王妃の聖名祝日のミサを取り仕切るためにヴェルサイユに現れたところ、満座の貴族や廷臣たちの前で兵士に逮捕されました。

王家にも通じる大貴族であり、カトリック教会では教皇に次ぐ高位聖職者である枢機卿が、衆人環視の中で泥棒のように逮捕されるなど、前代未聞であり、貴族たちは仰天しました。

彼が何をしたかは別として、彼に与えられた恥辱は、自分たち特権階級に対する侮辱ととらえられたのです。

怒りが収まらない王妃は、さらにロアンをパリ高等法院の裁判にかけ、その罪を公衆の面前で白日のもとにさらすことを求め、実際王はその通りにしましたが、後にして思えば、これは王妃にとって自殺行為でした。

稀代の大詐欺師、ラ・モット伯爵夫人ジャンヌ

ラ・モット伯爵夫人

この事件の真相は、まさに小説よりも奇なり、です。

主犯は、くだんの「ヴァロア伯爵夫人」こと「ラ・モット伯爵夫人」でした。

彼女はジャンヌ・ド・ヴァロワ=サン=レミといい、破産した貴族、ジャック・ド・サン・レミ男爵の娘でした。

母は男爵の女中で、男爵が若くして亡くなったあと、生活に困窮して娼婦となり、幼い娘ジャンヌはほったらかしにされたのです。

彼女は畑から作物を盗んだり、物乞いをして食いつなぎました。

亡き父男爵は、現フランス王家であるブルボン家の前の王朝、ヴァロア家アンリ2世の、認知されなかった庶子の子孫でした。

ジャンヌは7歳のとき、『ヴァロア家の血を引く哀れなみなしごにどうか憐れみを!』と叫んで物乞いをしていました。

それを聞きつけた、通りがかりの侯爵夫人に『王家の子孫がなんということ』と引き取られ、修道院に入れられ、衣食を与えられました。

これだけでも、信じられないような幸運といえるでしょう。

またとない金づる、ロアン枢機卿

しかし、地味な修道院にいつまでも閉じこもっているのを嫌い、22歳のとき、ジャンヌは修道院を抜け出し、なんとかして金持ちになってやろう、と世渡りをはじめます。

美人の彼女はニコラ・ド・ラ・モット伯爵という貴族と結婚。

ラ・モット伯爵夫人となります。

ところが、伯爵は貴族といえども借金にあえいでいたので、詐欺で稼ぐ夫婦となっていきます。

ジャンヌは、大領主で好色なロアン枢機卿に近づき、関係を持ち、枢機卿にねだって夫の借金の肩代わりをしてもらい、夫も出世させてもらいます。

これに味をしめたジャンヌは、自分は王妃の親友だと嘘をつきます。

収入も大きいが借金も大きいロアン枢機卿は、ルイ13世リシュリュー枢機卿ルイ14世マザラン枢機卿のように、フランスの宰相になりたがっていました。

宰相になれば、国を牛耳ることができ、金の心配はなくなるだろう、と。

しかし、宰相になるには、王妃マリー・アントワネットのお気に入りにならなくてはなりません。

でも、母マリア・テレジアから、いかにロアンが下劣な人間か聞かされていた王妃は、ロアンと目も合わせようとしません。

ジャンヌは、ロアンに、自分が王妃との間を取り持ちましょう、と請け負い、彼は渡りに船ととびつきます。

ジャンヌは、偽の王妃の手紙を作り、ロアンはコロッと騙されます。

偽王妃との夜の密会作戦

さらに信用させるために、ある娼婦に王妃の格好をさせ、ヴェルサイユの夜の庭で、ロアンと「密会」させます。

王妃役の娼婦から、『これまでのことは水に流します』という一言だけを受けたロアンは、有頂天に。

暗闇ではあるものの、こんな茶番劇が現実に行われたのは信じられません。

王妃がお金に困っているので、枢機卿に密かに援助を求めている、と告げられたロアンは、さらに借金をこしらえてはジャンヌに渡します。

ジャンヌ夫妻はそれで大豪遊。

ふたりはさらなる詐欺のチャンスを窺います。

首飾りの詐取

事件の首飾りのレプリカ

そんな中、宝石商のベーマーが、例の首飾りを王妃が買ってくれなくて困っている、という噂を聞きつけます。

ジャンヌは、自分が王妃を説き伏せましょう、という話を宝石商に持ち掛けます。

そして、王妃はこの購入を夫の王に知られたくないので、ロアン枢機卿を仲介にすることにしました、と嘘をつきます。

枢機卿には、王妃があの首飾りをあなたが保証してくれるのをお望みです、と伝え、彼はそれに大喜びで乗ります。

そして、枢機卿は首飾りを受けとり、ジャンヌに渡します。

ジャンヌはさっそく首飾りをバラバラにし、夫がロンドンに持っていって売りさばきました。

しかし、期日が来ても、王妃からの支払いはありません。

ベーマーは、王妃に督促の手紙を送りますが、相手が王妃だけに、催促といっても回りくどい表現で書かれているので、マリー・アントワネットは読んでも意味が分からず、面倒になって燃やしてしまいます。

彼女は、不要な文書はすべて燃やしてしまう習慣がありましたが、これも後に致命的になります。

非難の矛先がなぜ自分に??

そしてついに、運命の日。

ベーマーの訴えにより、ロアンが、王妃の名を使って宝石を手に入れた、という嫌疑で逮捕されたのです。

ところが、高等法院で審理が始まると、ロアンも騙された被害者であることが明らかになりました。

真犯人のジャンヌが捕まります。

そして、事件は大々的に報道され、貴族たち、市民たちもはロアンに同情します。

裁判の公開を求めたマリー・アントワネットの意向は、まったく逆効果となったのです。

それどころか、王妃がこんな途方もない、国家予算レベルの高価な首飾りを欲しがるから、詐欺を成立させてしまったのだ、と、上からも下からも、公然と王妃を非難する声が高まります。

しかも、宝石商からの請求の手紙を王妃が焼いてしまった、というのも、証拠隠滅ではないか、と疑われました。

王妃は告訴側であったので、逆に弁明の機会もありません。

折しも、解任された財務長官が、腹いせに国家のとてつもない赤字額を公表したものですから、それさえ、マリー・アントワネットの浪費のせいにされたのです。

ヴィジェ・ルブランの描いた王妃の肖像画には、「赤字夫人」とレッテルが貼られたので、肖像画の数々は撤去されました。

王妃への誹謗中傷、高まる

そして、裁判判決の日。

ロアン枢機卿は無罪となり、市民たちは沸き立ちます。

高等法院は王権を制限し、貴族の特権を守る機関で、判事たちも貴族ですから、そもそも枢機卿の味方です。

マリー・アントワネットは、いったいわたしが何をしたというの?と泣き崩れたといいます。

ジャンヌは焼きゴテで、泥棒を意味するVの字を肩に焼き付けられる刑となりましたが、執行に際して暴れまわり、刑吏の手元が狂って胸に灼熱のコテが押し付けられ、失神します。

そして終身刑になりましたが、後に脱獄。

ロンドンに渡って、あることないこと、マリー・アントワネットを誹謗中傷する卑猥な文書を発行し、これでも大儲けします。

何の証拠もない、でっち上げの文書ですが、民衆はこの「ジャンヌ砲」を喜んで読み漁り、巷では王妃を悪口であふれかえりました。

たとえ事実でなかろうと、王妃をかばう理由もありません。

まさに、今でいう「炎上」。

ここから、マリー・アントワネットは国民から決定的に嫌われてしまうのです。

彼女が演じた『セビリアの理髪師』には、音楽教師バジリオによる、有名なセリフがあります。

わたしは誠実そのものの人々が、中傷の犠牲になるのを見てきました。いいですか、もしうまくやりさえすれば、どんなはっきりした悪意でも、下劣な考えでも、馬鹿げた作り話でも、大都会の怠け者にいくらでも植えつけることができるのです。はじめのうちはほんのかすかなざわめき、嵐の前にツバメが飛ぶような、ピアニッシモです。低くざわめいて消えてゆきますが、でも飛びながら毒の種はまいている。誰かの口がそれっをパクリととらえ、ピアニッシモで巧みに人の耳にささやきます。すると突然、害毒が生まれ、成長し、さらに増長し、だんだんだんだん口から口へ伝わってゆきます、悪魔みたいな速さで。そして突然、神のみぞ知るですが、中傷は立ち上がり、口笛を吹き、たちまち膨れ上がり、高く跳び、渦を巻き、旋回し、巻き込み、雷鳴を轟かせ、天のおかげの凄まじい叫び声になり、誰もが聞こえるクレッシェンドになり、憎悪と破門の大合唱になるのです。どんな悪魔も中傷にはかないませんよ。*1

まさか、このセリフが自分に降りかかってこようとは、ロココ劇場の舞台上ではマリー・アントワネットは思いもしなかったのです。

 

それでは、引き続き、モーツァルトオペラ『クレタの王イドメネオを聴いてゆきましょう。

クレタの王イドメネオ』登場人物

※イタリア語表記、()内はギリシャ

イドメネオ(イドメネウス)クレタの王

イダマンテイドメネオの息子

イリアトロイアプリアモスの娘

エレットラ(エレクトラ:ミケーネ王アガメムノンの娘、イピゲネイア、オレステスの妹

アルバーチェイドメネオの家来

モーツァルト:オペラ『クレタの王イドメネオ』(全3幕)第2幕

Wolfgang Amadeus Mozart:Idomeneo, Re di Creta, K.366 Act.2

演奏:ジョン・エリオット・ガーディナー(指揮)イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団、アンソニー・ロルフ・ジョンソン(テノールイドメネオ)、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(メゾ・ソプラノ:イダマンテ)、シルヴィア・マクネアー(ソプラノ:イリア)、ヒラヴィ・マルティンペルト(ソプラノ:エレットラ)、ナイジェル・ロブスン(テノール:アルバーチェ)、グレン・ウィンスレイド(バス:祭司長)【1990年録音】

レチタティーヴォ

イドメネオ

嬉し気に、エレクトラが急いでやってくる

場を外そう

(退場)

エレクトラ

かつて誰が、

今のわたしに勝る甘い喜びを味わったでしょう!

わたしはこの地を去り、

そしてわたしの愛しい、

崇めるただひとりのお方が、

神々よ、わたしと共においでになるのですね?

ああ、この喜びには、

わたしの心はあまりに小さすぎる!

恋敵から離れたら、

わたしはやってみせるわ、

媚びと愛嬌で、

これまで消すことができなかった火が、

恋敵の目のためには消え、

わたしのために燃え上がってくれるように

イドメネオ王が苦悩に満ちた壮大なアリアを歌い終わると、遠くからエレクトラがやってくるのが見えます。

彼女は、王子イダマンテの心が自分にはなく、イリアに向いているのを分かっていますから、王の命令で彼と一緒に故郷に帰ることになり、これで自分にもチャンスが回ってきた、とウキウキモードです。

王はそんなエレクトラと顔を合わせたくなくて、去っていきます。

エレクトラは、彼とずっと一緒にいることができるなら、媚びと愛嬌、恋の手練手管を駆使して、絶対彼の心を自分に向けさせてみせる、と自身満々です。

第13曲 アリア

エレクトラ

恋しいお方、

たとえ別の恋人のため、

あなたがわたしによそよそしくなされても、

わたしはひどく傷つけられはしません

厳しい恋はよりわたしを掻き立てます

身近な情熱が追い払うことでしょう、

あなたの胸から遠くの情熱を

愛の手はより力を持ちます

恋しいお人がそばにいるだけで

そして歌うのが、ト長調、アンダンテの優しいアリアです。

ギリシャ神話上の烈女のひとりで、モーツァルトのオペラの女性登場人物の中でも、もっとも恐ろしく、嫌な役といわれているエレクトラですが、モーツァルトはそんな彼女にも、恋する純情な乙女の歌を与えているのです。

先のイドメネオ王の、ティンパニ、トランペットを伴った激しいアリアの興奮を冷ますように、そしてこの後に起こる大嵐の前の静けさのように、伴奏は弦だけの繊細な音楽です。

第14曲 行進曲とレチタティーヴォ

エレクトラ

遠くから快い調べが聞こえてくる

あれは船に乗るよう、

わたしを呼んでいるのだわ

さあ、行かなければ

(急いで退場。行進曲が次第に近くで聞こえるようになり、その間に場面が転換する)

エレクトラのアリアは、遠くから聞こえてくるマーチで中断されます。

それは、水兵が勢ぞろいし、船出の準備ができた知らせなのです。

最初は弱音器をつけ、だんだんと大きくなっていきますが、同時に舞台転換もなされ、場面はクレタの首都、シドンの港に移ります。移動しているのはエレクトラなのですが、観客にとっては場所の方が近づいてきたことになります。

大がかりな現代の舞台装置ではこのような転換は難しいですが、動画のドロットニングホルム宮廷劇場のように、18世紀そのままに残された劇場の舞台では可能なのです。

レチタティーヴォ

エレクトラ

シドンの地よ、

ここはわたしにとって、

涙と苦悩と不幸な恋のひどい場所でした

でも、寛大になった運命が、

ここからわたしを連れ出してくれることになったいま、

ついにわたしはこの地を許し、

嬉しい旅立ちに際して、

安らかにここを去り、

別れを告げることができます

シドンの港には軍船が勢ぞろいし、水兵が並び、民衆が詰めかけています。

エレクトラは、故郷での惨劇から逃れ、しかも恋もうまくゆかなかったこのクレタから、王の援助のもと、恋する人とともに再び故郷に戻れるという、旅立ちに喜びは絶頂に達しています。

第15曲 合唱

合唱

海は穏やかだ、さあ、行こう

何もかもが我らを元気づけてくれる

我らは幸運を得られよう、

さあ、さあ、船出だ、

今すぐに

エレクトラ

やさしい西風よ、

お前たちだけが吹いて、

冷たい北風の猛りを静めておくれ

心地よい微風を惜しみなく恵んでおくれ、

お前たちによって愛が四方に広がるなら

合唱

海は穏やかだ、さあ、行こう

(繰り返し)

レチタティーヴォ

イドメネオ、イダマンテ、王の従者たち登場)

イドメネオ

行くのだ、王子よ

イダマンテ

ああ、何ということ!

イドメネオ

ぐずぐずするな

行くのだ、

そなたが紛れもなく数々の偉業を成したという評判が届いたら、

帰国させよう

そなたが国を治めるすべを学ぼうと望むなら、

まず始めるのだ、

不幸な者の支えになることから

そして父よりも、今のそなた自身よりも、

立派な支えになることから

(第16曲 三重唱)

イダマンテ

出発の前に、神よ、

接吻することをお許しください、

父上の手に

エレクトラ

お許しください、

喜ばしい出発のご挨拶を、

この口から申し上げますことを

お別れいたします、偉大な王様!

イドメネオ

エレクトラに)

お行きなさい、

そして幸せになりなさい

(イダマンテに)

王子よ、これがそなたの定めなのだ

ああ、天が我らの願いをお聞き届けくださるよう!

イダマンテ、イドメネオ

天が我らの願いをお聞き届けくださるよう!

エレクトラ、イダマンテ、イドメネオ

天が我らの願いをお聞き届けくださるよう!

エレクトラ

わたしはどんなに希望が持てましょう

イダマンテ

行ってまいります!

(傍白)

だが、心はここに残っている

イドメネオ

さらばだ!

イダマンテ

さらばです!

エレクトラ

お別れです!

エレクトラ、イダマンテ、イドメネオ

さらば!

イダマンテ、イドメネオ

(傍白)

酷い運命だ!

イダマンテ

(傍白)

ああ、イリア!

イドメネオ

(傍白)

ああ、息子よ!

イダマンテ

ああ、父上!

もう出発とは!

エレクトラ

ああ、神々よ、何かおかしな様子…

エレクトラ、イダマンテ、イドメネオ

どうか、この混乱が静まるように…

いや、天の慈悲はきっと救いの手を差し伸べてくれよう

(船に乗り込もうとすると、急に嵐が巻き起こる)

(第17曲 合唱)

合唱

なんという新たな恐怖!

なんという不気味な海鳴り!

神々の怒りが、海を波立たせている

ポセイドンよ、お慈悲を!

(嵐が激しくなり、海は荒れ、空には雷が鳴り、稲妻が光り、落雷が続いて船に火がつく。波間から恐ろしい怪物が現れる。)

なんという憎悪を、

なんという怒りを、

ポセイドンは我らに示すことか!

天が怒るとは、我らの非は何なのだ?

誰が罪人なのだ?

レチタティーヴォ

イドメネオ

そうだ、罪人はわたしなのだ、非情な神よ!

わたしひとりが罪を犯したのだ、

わたしだけを罰してくれ、

落としてくれ、

わたしの上に怒りを落とせ

わたしの死で満足してくれ

わたしの罪に、

わたし以外の者を生けにえに求められても、

罪なき者を渡すわけにはいかぬ

たとえそう望まれても

神は間違っている、

こんな要求をしてよいはずがない

(嵐は続く。恐怖におののくクレタ人たちは逃げ出すが、次の合唱の間に歌唱とパントマイムにより彼らの恐怖が表現される。これらは幕切れにふさわしい通例的なディヴェルティスマンとして終幕に向かう。)

(第18曲 合唱)

合唱

走れ、逃げろ、

あの凄まじい怪物から!

だがもう我らは餌食だ!

邪悪な運命よ、

お前より酷いものがまたとあろうか!

(退場しながら)

走るのだ、逃げるのだ!

(第2幕終了)

まず、クレタの民衆や乗組員たちが、航海の無事を祈る合唱を歌います。ホ長調、アンダンティーノの美しい歌です。

途中でエレクトラのソロが入り、優しい西風が順風満帆に吹くよう、祈りを捧げます。

しかし、嬉しがっているのはエレクトラのみ。

のどかな歌を中断するように、イドメネオ王が王子、従者を引き連れて厳しい表情で入場してきます。

イドメネオは王子イダマンテに対し、出発にグズグズしすぎる、と叱責し、海外で手柄を立てるまで帰ることは許さん、と言い渡します。

王子はなぜ父王が自分にそんなに厳しいのか納得がいきませんし、イリアと別れてしまうことに後ろ髪が引かれる思いです。

それでも王命に従い、王に別れを告げます。

エレクトラも嬉々として告別の挨拶をします。

三者三様の、ちぐはぐな気持ちを歌う見事な三重唱です。

別れが終わり、イダマンテとエレクトラのふたりが船に乗り込もうとすると、音楽がピウ・アレグロに急変し、にわかに天候が急変します。

これまで穏やかだった海が嘘のように荒れ狂い、嵐が巻き起こり、波浪が岸を襲い、稲妻が光り、雷が船に直撃して火の手が上がります。

さらに波間から、恐ろしい怪物が現れ、岸に向かってきます。

海の神ポセイドンが怒り、船出を阻止しているのは明白でした。

人々は、あまりのことに、なんで神はこんなに怒っているのか?とハ短調の合唱で怖れおののきます。

これは、誰か大罪人がいるに違いない。

罪人は誰だ?と、不協和音で3回、群衆は問いかけます。

イドメネオは、イドメネオを他国に逃がすというような姑息な策は神には通用しないことを思い知り、罪人は俺だ、俺を罰してくれ、と叫びます。

そして、進退窮まった王は、神は間違っている!と、冒涜の暴言を吐きます。

それを聞いた群衆は、王の告白、涜神の言葉に驚愕しますが、怪物が上陸してきて人々を呑み込みはじめると、それどころではありません。

怪物はポセイドンの眷属で、トロイア戦争のときには神官ラオコーンを呑み込みました。

続く合唱はニ短調に移り、走れ、逃げろ、と右往左往。

フランス風の上演では、ここで群衆の恐怖を表わすパントマイムが繰り広げられます。

大混乱の中、人々の阿鼻叫喚が遠くなり、絶望のあまり気が遠くなるような余韻を残して、第2幕の幕が下ります。



動画は、アルノルト・エストマン指揮、スウェーデンのドロットニングホルム宮廷劇場の上演です。18世紀の上演スタイルを忠実に再現しています。

動画プレイヤーは下の▶️です☟

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

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