孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

パリの女性たちを怒らせた大宴会。~マリー・アントワネットの生涯53。モーツァルト:オペラ『クレタの王イドメネオ』第3幕(2)

フランス人権宣言(ジャン=ジャック・フランソワ・ル・バルビエ画)

人類が到達した、偉大なる宣言

1789年7月14日。

パリ市民が、絶対王政の圧政の象徴であったバスティーユ監獄を陥落させ、フランス革命の火ぶたが切って落とされました。

7月14日は、フランス共和国建国記念日であり、「パリ祭」として今でも祝われています。

ただ、バスティーユ襲撃は、まだ法的な意義、評価がされない間は単なる反乱、暴動であり、パリの争乱はフランス各地に広がってゆきました。

地方の農民や都市民が在地の第一、第二身分を襲うという、無秩序なパニック状態となってしまいました。

「大恐怖」といわれています。

立憲国民議会はこの事態を収拾するため、8月4日夜に「封建的特権の廃止」を宣言。

中世以来の領主裁判権カトリック教会の十分の一税を廃止、租税負担の平等、市民への公職開放、農地を領主から小作民に買い戻すこと、などが定められました。

さらに、自由主義貴族でアメリカ独立戦争の英雄、ラ・ファイエット侯爵(将軍)が中心となって起草した「人権宣言(人間と市民の権利の宣言)」が採択されます。

ここに、現代の民主国家に続く基本的人権の尊重」「国民主権が示されました。

ボーマルシェが『フィガロの結婚』でフィガロの口を通して訴えた、生まれつきの家柄ではなく、個人の能力や努力が重視される「近代」がやってきたのです。

ところで現代。

この〝当たり前〟の原則が、強権国家の台頭で揺らいでいます。

あらためて、人類があまたの流血の上に勝ち取った「人権宣言」の普遍的価値を、見直すことが求められているように感じます。

人権宣言を認めなかった国王

さて、この「近代的理念」は、18世紀に盛んになった啓蒙思想によって育まれた成果であり、フランス革命でいきなり生まれたものではありません。

フリードリヒ大王やヨーゼフ2世、エカチェリーナ女帝といった名高い「啓蒙専制君主たちは、この理念に一定の理解がありました。

しかし、その実現はあくまでも、君主による「専制」「恩恵」で行われるものであって、人民が君主に求めたり、ましてや、倒したりして実現するのはもっての外でした。

ルイ16世もまた、同じ考えでしたので、議会のこの決議や宣言の批准はのらりくらりと引き延ばしていました。

王位を狙うオルレアン公が糸を引く過激派は、やはり実力行使しかないと、ヴェルサイユにいる王一家への攻撃準備を水面下で始めました。

この情報をキャッチした王の政府側は、それに対抗するため、仏領フランドルの連隊をパリに呼びました。

ラ・ファイエット将軍率いる国民衛兵は、議会と王家の両方を守る軍隊でしたから、いざというときどちらにつくか分かりません。

たとえ王家側についたとしても、同胞であるフランスの民衆を鎮圧するのに躊躇するということは、バスティーユ襲撃のときに証明済です。

フランドル連隊は、いわば〝外人部隊〟なので、その心配はないのです。

明日のパンもないのに!パリジェンヌたちを怒らせた大宴会

10月3日。

フランドル連隊がヴェルサイユに到着すると、大オペラホールで歓迎の晩餐会が開かれました。

パリでは飢饉で人々が餓死寸前だというのに、ここではワインやたっぷりのご馳走が振る舞われました。

その席に、なんと国王と、王太子を抱いた王妃が現れたのです。

王や王妃が直接、軍隊を宴席でねぎらうなど、前代未聞。

王妃マリー・アントワネットは、得意の微笑みと優雅な仕草で各テーブルを回り、愛想を振りまいたのです。

兵士たちはこのサプライズに熱狂。

士官も兵士も、感激のあまり剣を鞘から抜き、ばんざいの声が広大な会場を揺るがします。

そして、返礼として、士官が王のために歌を歌いました。

王に忠誠を誓ったヒット曲

グレトリ

それは、フランドル出身の作曲家、アンドレ=エルネスト=モデスト・グレトリが書き、1784年にパリで初演、大ヒットしたオペラ・コミック『獅子心王リシャール』の中の1曲でした。

「リシャール」は英語で「リチャード」であり、中世、第3回十字軍の英雄、英国王リチャード・ライオンハートリチャード1世のことです。

歌は、陰謀で捕らえられ、幽閉されているリシャール王を、忠臣ブロンデルが助け出そうとし、王への忠誠を歌うものです。

まさに、逆境におかれているルイ16世に贈るにふさわしい内容です。

士官は「リシャール」を「ルイ」に言い換えて歌ったかもしれません。

グレトリは、当時のパリで最高の人気を誇ったオペラ作家で、マリー・アントワネットの庇護も受けていました。

モーツァルトもパリ訪問の際、かならず会って知遇を得るよう、父レオポルトに指示されていました。

今でも、故郷のベルギー、リエージュには巨大な像が立ち、偉業を讃えられており、ユーロ導入前のベルギーの高額紙幣の肖像になるくらいの偉人です。

では、ルイ16世夫妻を励ました、その勇壮な歌(ロマンス)を聴いてみましょう。

グレトリ:オペラ・コミック『獅子心王リシャール』より『おおリシャール、わが王』

エルヴェ・ニケ指揮ル・コンセール・スピリチュエル、ブロンデル:エンゲルラン・ド・イス(テノール)(2019年録音 古楽器使用)

ブロンデル

おお、リシャール、おお、わが王よ!

全世界があなたを見捨てている

あなたの運命を心配しているのは、

地球上でわたしだけなのでしょうか?

ほかの誰もがあなたを見捨てたとしても、

わたしはあなたの足かせを打ち破ってみせましょう

王が愛する高貴な夫人の心は、

悲しみに打ちひしがれているに違いない

そう、彼女の心は悲しみに打ちひしがれている!

統治者よ、名誉の栄冠に劣らない友人を求めてください

思い出という娘たちが捧げる、

最愛のギンバイカの花のもとで

吟遊詩人とは愛に他なりません

忠義と変わらぬ心は

何の見返りも求めません

動画は同じくエルヴェ・ニケ指揮ル・コンセール・スピリチュエルの上演ですが、ブロンデル役はレミ・マチューです。

動画プレイヤーは下の▶️です☟

リエージュの巨大なグレトリ像

激昂するパリの女性たち

ヴェルサイユでのこの「狂宴」の噂は、たちまちパリにもたらされました。

明日のパンさえ事欠くパリにあって、贅沢な食べ放題、飲み放題の宴を、王夫妻と、自分たちを弾圧するために集められた軍隊が行ったとあって、市民たちは激昂。

特に怒ったのが町の女性たちでした。

腹を空かせた乳飲み子を抱えたり、娼婦として日銭を稼いだり。

生きていくのも限界です。

宴の2日後の朝、彼女たちはヴェルサイユへ行こう!そして王をパリに連れ戻せ!」を合言葉に、ヴェルサイユに向かいます。

降りしきる雨の中、何千という女性たちが進みます。

ヴェルサイユ行進」「10月行進」と呼ばれる歴史的事件です。

ヴェルサイユ最後の日

ヴェルサイユ行進

宮廷は昼になるまでこの事態に気づかず、王はいつも通り狩りに、王妃はプチ・トリアノン「村里(アモー)」で庭いじりをしていました。

そこに、下層民たちがヴェルサイユに押し掛けてくるので、至急宮殿にお戻りください、という急報が入ります。

マリー・アントワネットは急ぎ村里を離れますが、彼女は愛するこの地に二度と戻って来られませんでした。

ルイ16世も楽しい狩りを中断させられて不機嫌です。

大臣たちは、国王一家にランブイエに避難するよう進言し、馬車も用意しますが、王はなかなか決心がつきません。

そうこうするうち、女性たちは国民議会に押し掛け、「パンを!パンを!」と叫びます。

議員たちは、代表団を王のもとに送ることでいったん群衆を落ち着かせます。

女性の代表団に面会したルイ16世は、とても優しく対応し、彼女らをねぎらったので、代表のひとりの娼婦は失神したくらいでした。

王は、帰りには自分の馬車を提供する、とまで申し出たといいます。

群衆の元に戻った代表団は、丸め込まれただろう、と非難され、このままでは帰れない、とヴェルサイユを去る様子はありません。

行進を鎮圧もできず、国民衛兵を率いて、ただその後をついてきたラ・ファイエット将軍が王の護衛につくと、国王が「人権宣言」に署名したことも伝わり、いったん群衆は沈静化します。

国民議会に迫る女性たち

早暁の惨劇

朝4時、王一家が眠りに就くと、なんと将軍までベッドに入って寝てしまいます。

しかし朝方、数人の女性と、女装した男性がヴェルサイユ宮殿に忍びこみます。

そして、王妃の部屋に向かい、護衛していたスイス傭兵と小競り合いになり、傭兵は殺されてしまいます。

騒ぎで目を覚ましたマリー・アントワネットは、危機一髪、秘密の通路で夫王の部屋に逃れました。

ラ・ファイエットが駆け付けたのはそのあと。

彼は「両大陸の英雄」と讃えられていましたが、これで「眠り将軍」というあだ名をつけられてしまいました。

それにしても、この暗殺団は、迷路のようなヴェルサイユの中で、王妃の部屋のあり場所を知っていたとしか考えられず、オルレアン公の陰謀の匂いがします。

群衆の前に出た王妃

バルコニーで王妃の手にキスをするラ・ファイエット

血を見た群衆は興奮し、王の居室のバルコニー下に集まり、「王はパリへ!王はパリへ!」シュプレヒコールを上げます。

しぶしぶ、王がバルコニーに出ると、群衆は歓声を上げ、拍手。

やはり国王を見ると、人々は感動してしまうのです。

しかし、事態はこれで収まりませんでした。

では、王妃は?

群衆は、「王妃はバルコニーへ!王妃はバルコニーへ!」と叫び始めます。

マリー・アントワネットは、自分が憎まれているは知っていましたが、それよりも、群衆に媚びを売るということに、ハプスブルク家の誇りが許しません。

しかし、もはや手はありません。

王妃がバルコニーに出ると、群衆は静まり返っています。

そこに、まだ人民に人気のあったラ・ファイエット将軍が進み出て、王妃に跪いて騎士道のマナーにのっとってキスをすると、「王妃ばんざい!王妃ばんざい!」の声が上がりました。

部屋に戻ったマリー・アントワネットは、歓呼に喜ぶどころか、屈辱に震え、『彼らは王とわたしを無理矢理パリに連れていくでしょう。先頭には、わたしたちの護衛兵の首を槍につけてね。』とネッケル夫人に言ったといいます。

民衆に連行される国王一家

護衛兵の首を掲げてパリに戻る民衆、女性たち

午後2時に、王妃の言葉通り、ヴェルサイユ宮殿の大きな金の門が開かれ、6頭立ての馬車で王一家がパリに向かいます。

王が民衆に連行されるという、この前代未聞の出来事で、フランスの君主政は事実上終わったといえます。

マリー・アントワネットらの馬車は、かつてお忍びでワクワクしながら通ったパリへの道を、葬列のような気分で、周囲の好奇と嘲笑の目にさらされながら進みます。

着いたところは、パリ市内のかつての王宮、チュイルリー宮

ルイ14世ヴェルサイユ宮殿を造営してそこに移るまでの王宮でしたが、その頃には150年もの間、打ち捨てられ、廃屋のようでした。

家具はなく、扉も鍵がかからず、割れた窓から隙間風が吹き込んできます。

4歳の王太子ルイ・シャルル『ここは汚いね、ママ』と言うと、マリー・アントワネットは、『ここはルイ14世がお住みになり、居心地がよいと思われていたのですよ。わたしたちがそれ以上を求めてはなりません。』と諭します。

鈍感力の強いルイ16世は何も思わず、『きょうはそれぞれできることをして、横になりなさい。わたしはこれで満足だ。』とあくびをして、寝てしまいます。

しかし、マリー・アントワネットにとって、この日の出来事は、世界がひっくり返ったに等しいものでした。

それでも、これから王家を襲う悲劇に比べたら、まだ序の口だったのです。

1871年パリ・コミューンで焼失する前のチュイルリー宮殿

それでは、モーツァルトのオペラ『クレタの王イドメネオ』の続きを聴きましょう。

このオペラでも、無為無策の王に対し民衆たちが大挙して迫る、という場面となります。

クレタの王イドメネオ』登場人物

※イタリア語表記、()内はギリシャ

イドメネオ(イドメネウス)クレタの王

イダマンテイドメネオの息子

イリアトロイアプリアモスの娘

エレットラ(エレクトラ:ミケーネ王アガメムノンの娘、イピゲネイア、オレステスの妹

アルバーチェイドメネオの家来

モーツァルト:オペラ『クレタの王イドメネオ』(全3幕)第3幕

Wolfgang Amadeus Mozart:Idomeneo, Re di Creta, K.366 Act.3

演奏:ジョン・エリオット・ガーディナー(指揮)イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団、アンソニー・ロルフ・ジョンソン(テノールイドメネオ)、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(メゾ・ソプラノ:イダマンテ)、シルヴィア・マクネアー(ソプラノ:イリア)、ヒラヴィ・マルティンペルト(ソプラノ:エレットラ)、ナイジェル・ロブスン(テノール:アルバーチェ)、グレン・ウィンスレイド(バス:祭司長)【1990年録音】

レチタティーヴォ

(アルバーチェ登場)

レチタティーヴォ

アルバーチェ

陛下、王宮の前に多くの民衆が集まり、

王と話したいと大声で求めております

イリア

(傍白)

新たな不安に心の準備をしておかなければ

イドメネオ

(傍白)

息子が失われてしまう

アルバーチェ

海神の祭司長が彼らの先導をしております

イドメネオ

(傍白)

ああ、事態はあまりに絶望的だ

分かった、アルバーチェ

エレクトラ

(傍白)

新たにどんな災いが…

イリア

(傍白)

民衆は煽動されている…

イドメネオ

では、話を聞きに行こう

(当惑した様子で退場)

エレクトラ

お供いたします

(退場)

イリア

わたしもお供いたします

(退場)

イダマンテはさすらいの旅に出、残された絶望の3人のところに、アルバーチェが飛び込んできて、さらに緊迫した情勢を伝えます。

すなわち、民衆が王宮に詰めかけ、王との面会を求めている、というのです。

先導しているのは、海神ポセイドンの祭司。

神の怒りに対する王の無策に、抗議しに来たのは明白でした。

王はさらに悪化する事態に当惑しながら王宮に急ぎ、イリア、エレクトラも従います。

レチタティーヴォ

アルバーチェ

不幸に見舞われたシドンよ!

町にどれほど陰惨な死と破壊と恐怖が覆っていることか

ああ、シドンはもうシドンではない

シドンは涙の町、

この王宮は悲しみの館だ

さても、天によって我らへの慈悲はすべて遠ざけられたか?

そうとは限らぬ…

わたしはまだ望みを持っている

誰か好意ある神が、

このおびただしい血で怒りを鎮めてくれると

すべてを変えるのに、

ひとりの神でじゅうぶんだ

峻厳は寛容に譲るだろうから…

だが、誰が我らに同情してくれるのか、

まだ分からぬ…

ああ、天は何も聞いてくれぬか!

ああ、わたしには見える、

クレタがその栄光を廃墟の下に埋めるのが…

駄目か、そうならぬまで、

この惨状は収まらぬのか

ひとり残った、忠臣アルバーチェは、海の怪物によって殺戮と破壊の巷と化したシドンの町の惨状に、茫然と立ち尽くします。

これがあの、活気に満ちた港町の姿とは、信じられません。

わたしは東日本大震災が起きた2ヵ月後、仕事上仙台の事務所の被害状況を確認する必要があって、仙台空港に降り立ちました。そして、津波に襲われ、がれきの山と化した空港周辺の町を目の当たりにして言葉を失いましたが、そのとき頭をよぎったのがこのアルバーチェのレチタティーヴォでした。オペラの架空の光景が、現実となって目の前に広がっていたのです。そしていま、能登震災の報道に触れても、このフレーズが思い出されます。

第22曲 アリア

アルバーチェ

運命にそう定められているなら、

それともクレタに非があるなら、

神々よ、クレタは滅んでもよいのです

クレタが罪の償いをしても、

それでも王子と王はお救いください

どうか、ひとりの人間の血でお鎮まりください

わたしの血があります

わたしのでよろしければ、

今やすでに力衰えたこの王国に、

正義の神々よ、

お慈悲をくださいますように

続いてアルバーチェは、自分自身を生けにえに捧げようという、気高い志を歌いますが、それで解決するはずもなく、運命の過酷さに対する人間の無力さを伝えるアリアとなっています。

オペラの筋上重要ではないため、実際の上演ではカットされることが多いですが、弦楽器だけで伴奏される、味わい深い歌でもあります。

第23曲 レチタティーヴォ

イドメネオがアルバーチェと従者に伴われて登場。王はアルバーチェに付き添われて謁見用に設けられた玉座に着く。)

祭司長

あたりに目をお向けいただきたい、

ああ、王よ

そしてご覧いただきたい、

残忍な怪物がこの貴い王国で、

どのように恐ろしい殺戮を行っているかを

ああ、ご覧なされ、

あれらの道が血の海になっているのを

足を踏み出すごとに目に入りましょう、

人々がうめき、

体を毒で膨らませて息絶えるのが

幾千のひとが怪物の大きな汚い腹に、

生きたまま呑み込まれて死んでゆくのを、

すでにわたしはこの目で見ています

その口は常に血にまみれ、

そしてますます貪欲です

方策はあなた様だけが持っておられます

あなた様なら死から救い出せます、

生き残った者を、

恐怖に叫び声を上げ、

助けを求める生き残りの民を

なぜためらわれますのですか?

神殿へ、さあ、王よ、神殿へ!

生けにえは何です、

どこにおります、

ポセイドンに捧げられるべきものを、

その手にお渡しくださるよう

イドメネオ

もはやこれまで…

神官よ、さらには皆の者よ、

聞くがよい

生けにえはイダマンテだ

さあ、いよいよ見るがよい、

神々よ

どんな目で見るか知らぬが、

父親がわが子を殺めるのを

(心乱れて退場)

場面代わって、王宮。

力強いアルペッジョが鳴らされますが、それはもはや王の権威を表わすものではなく、王に対する圧倒的な神威を示すかのようです。

たくさんの民衆が詰めかけています。

彼らは、怪物に家族や友人を殺され、それでも無為無策の王に抗議しにやってきたのです。

革命が起こったといってよいでしょう。

リーダーはポセイドンの祭司長。

皆を代表し、町の惨状を伝え、神の怒りを収めるのは王にしかできない、早く神殿に行って生けにえを捧げよ、と迫ります。

音楽は緊迫の度を強め、王を追い詰めてゆくかのようです。

民を守るという王の義務を突き付けられたイドメネオは、ついに観念し、生けにえはわが子イダマンテだ、と民衆に告げ、神殿に向かいます。

第24曲 合唱

合唱

ああ、恐ろしい誓い!

凄まじい光景よ!

死が君臨し、

地獄の扉を残酷にも開いている

祭司長

慈悲深い天よ

王子に罪はなく、

誓いこそが非情

誓いを守らんとする、

父の手を止めたまえ

合唱

ああ、恐ろしい誓い!

(繰り返し)

(全員、悲嘆に暮れて退場)

残された民衆、祭司長は、生けにえが、まさか王の跡継ぎで人望厚い王子イダマンテであり、王が息子を捧げるという誓いを立てさせられていることを知り、恐怖におののきます。

音楽はハ短調、運命の過酷さと、それに対する人間の弱さを表わしています。

中間部で、イダマンテに同情する祭司長のソロが入りますが、民衆の戦慄がそれを上回ってゆきます。

オーケストラは最後、しめやかに、落ち着いた調子となりますが、それは希望の光ではなく、弔いの前触れなのです。

 

動画は、アルノルト・エストマン指揮、スウェーデンのドロットニングホルム宮廷劇場の上演です。18世紀の上演スタイルを忠実に再現しています。

動画プレイヤーは下の▶️です☟

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

Listen on Apple Music


にほんブログ村


クラシックランキン