お色気を使って何とか、新郎マゼットのご機嫌を直すことに成功したツェルリーナですが、遠くからドン・ジョヴァンニの声が聞こえると、急にうろたえはじめます。
そして、あの人がくる、逃げなきゃ、とパニくっています。
その様子を見たマゼット、『何をあわててる?別に来させればいいじゃないか。ははぁ、やはりふたりの間には何かあったんだな!?』とまた疑い、隠れて様子を見てやろう、と、傍らにあった壁龕(ニッチ)に身を隠します。
ここから第1幕終幕まで、音楽は途切れることなくフィナーレとして続きます。その冒頭にふさわしい、ワクワク、ドキドキするようなスタートです。
第13曲 第1幕フィナーレ(前半)
マゼット
急げ、急げ
奴が来る前に隠れよう
あそこに壁龕がある・・・
ここに隠れてじっとしていよう。
ツェルリーナ
ちょっと、ちょっと
どこに行くの?
隠れたりなんかしないで
見つかったら大変よ
あの人、何をするか分からないわ!
マゼット
やらせとけばいいさ
ツェルリーナ
そんなこと言ったら駄目よ!
マゼット
大声でしゃべっているがいい
で、お前はここにいろ
ツェルリーナ
あんた、頭がどうかしてるわよ!
マゼット(傍白)
あいつが本当に無実かどうか、見極めてやるぞ
(壁龕に隠れる)
ツェルリーナ(傍白)
なんてひどい人
なにがなんでもかたをつける気ね
ドン・ジョヴァンニが、4人の家来を従え、村人を伴って登場します。
ドン・ジョヴァンニ
さあみんな!
盛り上がって!
目を覚まして!
張り切って、愉快に時を過ごそう!
笑って、ふざけて、楽しくやろう!
(家来たちに)
お前たち、舞踏会の会場に皆さん全員をお連れしろ!
そしてたっぷりと飲んで食べてもらうのだ
家来たち
さあみんな!
盛り上がって!
目を覚まして!
張り切って、愉快に時を過ごしましょう!
笑って、ふざけて、楽しくやりましょう!
家来たち、村人たちは舞踏会の会場に向かって退場しますが、ドン・ジョヴァンニは目ざとくツェルリーナを見つけてしまいます。
ツェルリーナ
この茂みに隠れていれば、見つからないかも
ドン・ジョヴァンニ
私の可愛いツェルリーナ
見つけたよ、もう逃がさないよ
ツェルリーナ
ああ、行かせて・・・
ドン・ジョヴァンニ
いやいや、ここにいなさい
ツェルリーナ
どうかお情けを・・・
ドン・ジョヴァンニ
そう、すべては愛だ
こっちに来なさい
君を幸せにしてあげるから
ツェルリーナ
ああ、こんなところをあの人が見たら・・・
(ドン・ジョヴァンニは壁龕にツェルリーナを連れ込もうとし、そこに隠れていたマゼットを見つける)
ドン・ジョヴァンニ
マゼットか?
マゼット
はい、マゼットですけど?
ドン・ジョヴァンニ
なぜ隠れていたんだ・・・?
・・・お前の可愛いツェルリーナは
お前がいなくて寂しがっていたぞ?
マゼット
分かっていますよ、旦那様
ドン・ジョヴァンニ
それなら元気を出すのだ
(遠くからダンス音楽が聞こえる)
おお、始まったぞ
楽士たちが
一緒に行こう
ツェルリーナ、マゼット
はい、はい、3人で踊りにまいりましょう・・・
(退場)
ここはちょっとしたドタバタ劇的な笑いの場面です。ツェルリーナを連れ込もうとしたところに亭主マゼットが。開き直ってごまかすドン・ジョヴァンニに、モーツァルトはヴァイオリンにからかうような音型を奏でさせています。
そして、いよいよ派手な舞踏会が始まる・・・という前に、舞台は暗転し、音楽の調子が変わります。
ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオ、ドンナ・エルヴィーラの3人が、ドン・ジョヴァンニに復讐をすべく、現れたのです。
3人は、仮面舞踏会用の仮面をつけて、顔を隠しています。舞踏会を利用して、ドン・ジョヴァンニに近づこうというのです。悲壮な覚悟が音楽でも表されます。
ドンナ・エルヴィーラ
勇気を出すのです、親愛なるおふたり
あの男の非道を暴くために
ドン・オッターヴィオ
この方のおっしゃる通りだ
勇気を出さねば
(ドンナ・アンナに)
あなたも、苦しみと恐れを追い払うのです
ドンナ・アンナ
この企ては危険に満ちています
失敗に終わるかも
愛しいいいなずけの身も心配です・・・。
(レポレロが窓を開け、通りの3人に気が付く。背後から、メヌエットが聞こえる)
レポレロ
旦那、ご覧ください
仮面をつけた立派な方々がお見えです
ドン・ジョヴァンニ(窓から一目見て)
お通ししろ、光栄だと伝えろ
アンナ、エルヴィーラ、オッターヴィオ
今の顔、今の声であの裏切者だとわかる
レポレロ
もしもし、仮面をつけた方々、もしもし・・・
アンナとエルヴィーラ(オッターヴィオに)
さあ、答えて!
ドン・オッターヴィオ
何用か?
レポレロ
よろしければ、主人があなた方を舞踏会にお招きしたいと申しております
ドン・オッターヴィオ
それは光栄だ、感謝申し上げる
ではまいりましょう、お二方も
レポレロ
旦那はこのご婦人方にも、手を出すんだろうな
ドン・オッターヴィオは、勇気を出そう、と言いながら、いざレポレロから声をかけられると、緊張してしまってすぐには答えられず、女性陣に促される始末です。ここでも、彼の優柔不断が露呈してしまっています。
ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオ
正義の天よ、お守りください
私の心の強い望みを
ドンナ・エルヴィーラ
正義の天よ、復讐させてください
私の裏切られた愛に
この3人のアダージョは、まるでミサのような敬虔な祈りとして、天に昇っていきます。 アンナ、エルヴィーラの上昇して下降するソプラノには、魂が揺さぶられる思いがします。仕返し、復讐という、キナ臭い願いなのですが、音楽はどこまでも清らかです。
『ドン・ジョヴァンニ』の名演は数ありますが、DVDで観られるものの中では、サー・チャールズ・マッケラス指揮&プラハ国立歌劇場が、モーツァルト生誕250周年を記念し、初演の舞台となったスタヴォフスケー劇場(エステート劇場)で上演したものが出色です。ドン・ジョヴァンニが堕天使のように扱われ、この祈りの場面ではドン・ジョヴァンニが一緒に出てきて、天を切ない顔で見上げるという演出が印象的です。
さて、3人の復讐は成就するのでしょうか。それは次回に。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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