ドン・ジョヴァンニの獲物、新婦のツェルリーナを新郎マゼットから引き離す役目を仰せつかったレポレロ。
ヘトヘトになって道を歩いていると、ドン・ジョヴァンニに出会います。
首尾はどうだ?と聞かれ、どうもこうも、万事最悪ですよ、とレポレロ。
彼は、マゼットと村人たちを言いつけ通りドン・ジョヴァンニ邸に連れていき、酒やご馳走をふるまい、不機嫌なマゼットの相手をしながら、なんとか場を盛り上げたのです。
『上出来じゃないか!』とほめるドン・ジョヴァンニ。
『でも、そこに誰が来たと思います?』とレポレロ。
『ツェルリーナだろう!』
『ご名答!で・・・』
『ドンナ・エルヴィーラもだ!』
『ご名答!』
『で、いろいろわめいていただろう?』
『まさにご名答!』
レポレロは、騒ぐドンナ・エルヴィーラをなだめすかしながら、うまく外に出して門にカギをかけてしまった、と報告します。
これを聞いたドン・ジョヴァンニは、レポレロの神対応に満足し、上機嫌になって、よーし、大宴会を開くぞ!村娘もたくさんいることだしな!と、歌い始めます。
どこまでもポジティブな男です。
その、ドン・ジョヴァンニの性格を表す真骨頂が、この『乾杯の歌』です。『シャンパンの歌』とも呼ばれますが、歌詞では〝vino〟ですので、『ワインの歌』あるいは『酒の歌』と訳す方が正確でしょうね。
ドン・ジョヴァンニ
酒で頭がおかしくなるような大宴会を準備せよ
街の広場に女の子たちを見つけたら連れて来い
何でもいいから踊らせろ
メヌエットだろうと
ラ・フォリアだろうと
ドイツ・ダンスだろうと
俺はその間
この女、あの女と恋をしたいのだ
ああ、俺のリストには
明日の朝には10人の女が加わることになる
(退場)
一晩で10人もの女性を相手にするぞ、とうそぶくドン・ジョヴァンニに、レポレロは、やれやれ、といった風でついていきます。
場面は変わって、そのドン・ジョヴァンニ邸。
マゼットがツェルリーナに対し、プリプリ怒っています。
なぜって?
そりゃそうでしょう!
よりにもよって、結婚式当日に、他の男にフラフラついていく花嫁なんか、前代未聞です。
マゼットは新妻に『けがれた手で俺に触るな!』と当然な激怒。
ツェルリーナは『私だってだまされたのよ。でも信じて、あの人は私に指一本触ってないわ。』と一生懸命、言い訳します。
ツェルリーナが、一度はドン・ジョヴァンニにイエス、と言ってしまったことは、神のみぞ知る、観客のみぞ知る、です。
それで、ツェルリーナがマゼットと仲直りするために歌うのが、世にもコケットな色気に満ちたアリア『ぶってよ、マゼット』です。
第12曲 ツェルリーナのアリア『ぶってよ、マゼット』
ツェルリーナ
ぶってよ、ぶって、私のマゼット
あなたの哀れなツェルリーナを
私はここで子羊のように
おとなしくムチ打たれるわ
髪の毛をむしってもいい
目玉をくり抜いてもいいの
それでも、あなたのいとしい手にキスするわ
ああ、どうしてそんなに頑固なの?
機嫌を直して、仲直りしてよ
そして、夜も昼も仲良くしましょう
そう、夜も昼も!
どこまでも甘く、可愛く、コケティッシュに歌います。ちょっとM的な官能も漂い、チェロのオブリガートが夢心地にさせてくれます。
チェロがこんな甘美な楽器だったとは・・・。
これを歌われて、許さない男がいるでしょうか。
自分の魅力を十分に自覚しているツェルリーナは、計算づくでやっていますし、マゼットもそれは頭では分かっていて、歌が終わると客席に向かって『皆さん、ご覧になりましたよね?魔性の女が男を手玉にとるところを。』と照れくさそうに言います。
特に魔性の女でなくとも、この程度のことは普通の女性でもできるでしょうけど。
大好きな曲なので、ドロットニングホルム宮廷劇場版とジュリーニ版のふたつも掲げておきます。
歌(ソプラノ):バーバラ・ボニー
歌(ソプラノ):グラティエラ・シュッティ
さて、いったんは機嫌を直したマゼットですが、ここはまだ危険なドン・ジョヴァンニ邸。
さらなる波乱が待っています。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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