リアルであって、リアルでない曲たち
ラモーの『新クラヴサン組曲集』クラヴサン組曲の最後、今回は第2番(第5組曲)を聴きます。
第1組曲より、さらに標題のついた曲が増え、舞曲はついにメヌエット1曲だけになってしまいました。
これらのタイトルについて、ラモーは友人あての手紙で次のように述べています。
『私がどうしてこれらの題名をつけたか、あなた自身自由にお考えください。』
つまり、聞いてもラモーは教えてくれませんが、自由に想像してよい、ということなのです。
また、ラモーは標題の裏で、これまでの様式にとらわれない、新しい自由なスタイルを模索してもいるのです。
Jean-Philippe Rameau:Nouvelles suites de pièces de clavecin : Suite in G Minor - major
演奏:フェルナンド・デ・ルカ(クラヴサン)Fernando de Luca
第1曲 トリコテ
〝トリコテ〟とは編み物のことで、英語で言えばニットです。
編み物をせっせとしている女性の描写である、という説と、音で作った編み物を意味している、という説があります。どちらに聞こえるでしょうか。
愛らしく親しみやすいメロディがロンドー形式で紡がれていきます。
第2曲 無関心
この演奏ではバフ・ストップを使用して、ピツィカートのような音色にしています。
タイトルの意味は分かりませんが、こんな標題を見てから聴くと、どうしてもよそよそしさを感じてしまいます。
この組曲で唯一の舞曲です。ト長調の第1メヌエットとト短調の第2メヌエットの2部構成です。
ラモーが後にオペラを作曲するようになると、抒情悲劇(トラジェディ・リリック)の『カストールとポリュックス』の中の1曲に転用されました。
第4曲 めんどり
これは、あまりにそのまんまの描写で有名です。この曲のタイトルは?と知らない人に聞いても当たるでしょう。
ラモーといえばこの曲を連想する人もいて、それではラモーが気の毒ですが、とても魅力的な曲ではあります。
コッコッコッ、コケッ!
単純なモチーフですが、その後の展開は凝っていて、実にクール!
演奏の難しい難曲としても知られています。
ちなみにハイドンのシンフォニー第83番 ト短調にも〝めんどり〟という愛称があり、確かにコッコッコッというフレーズがでてきます。
鳥の声は作曲家たちにたくさんのインスピレーションを与えたようです。
ご参考にハイドンの〝めんどり〟を掲げておきます。
演奏:ブルーノ・ヴァイル指揮 ターフェルムジーク
第5曲 三連音
装飾音の美しさを追求した、雅な曲です。
第6曲 未開人
この曲もラモーの人気曲で、後に傑作オペラ・バレ『優雅なインドの国々』に転用され、まさに新大陸を舞台にした幕で、ネイティブ・アメリカンのカップルが歌う愛のデュエットになりました。
フランス語では〝ソヴァージュ〟で、未開人風の髪型、という意味でも使われました。
エキゾチックな異国情緒が印象的な、一度聴いたら忘れられない曲です。
『優雅なインドの国々』の中の曲はこちらです。
演奏:テオドール・クルレンツィス指揮 ムジカ・エテルナ
こちらは、マルク・ミンコフスキの演奏会形式での素晴らしい演奏です。
Rameau, Rondeau des Indes Galantes
こちらは、若きチェンバロの鬼才、ジャン・ロンドーの演奏です。
Jean Rondeau records Rameau's Les Sauvages on harpsichord: album 'Vertigo'
〝エンハーモニック〟とは〝異名同音〟のことで、音楽理論上、名前が違っていても実際には同じ音であることを指します。
例えば、平均律ではG♯と A♭です。
しかし、当時の調律では微妙に音程が違うため、不協和音になりました。
作曲家である以前に音楽理論家だったラモーの真骨頂といえる作品で、当時の慣習を破って不協和音を大胆に使った野心作です。
室内で行われたこの試みは、のちにオペラ『イポリートとアリシー』で、満座の劇場を驚かすことになります。
第8曲 エジプトの女
ラモーの〝女シリーズ〟の最後を飾る作品です。
なぜエジプトなのか分かりませんが、確かにここにも異国情緒が漂っています。
ナポレオンがたくさんの学者を連れてエジプトに遠征し、ロゼッタストーンを持ち帰るなどしてヨーロッパに『エジプト学』を流行らせたのは、この曲が出版されてちょうど70年後の、1798年のことです。
それまでヨーロッパの人々はエジプトにどんなイメージを持っていたのか、この曲から少しでも探りたいものです。
次回は、いよいよラモー50歳の挑戦です。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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