
ゲーテ(1749-1832)
ゲーテの脳裏に浮かんだもの
バッハの管弦楽組曲(組曲)、今回は最後の曲、第4番二長調です。
冒頭の序曲は、19世紀のバッハ復活に尽くしていたメンデルスゾーンが、老文豪ゲーテにピアノで聴かせたところ、『この威風堂々たる華やかな曲をきくと、美しく着飾った人々の行列が広い階段を下りてくる姿が目に浮かぶようだ』と言ったというエピソードが有名です。(第3番だったという説もあります)
ゲーテはバッハの亡くなる前年に生まれていますから、ベートーヴェンと同じ世代であり、華麗なるバロックの宮廷文化は過去のものとなっていた時代でした。
ゲーテは、ここに古き良き時代、華麗なバロック芸術の最後の残照をみたのでしょう。
楽器編成は、第3番のトランペット3本にティンパニにファゴットを加え、さらに第3番では2本だったオーボエが3本という、大編成です。
他の曲同様、この曲の成り立ちも確定していません。
序曲は1725年のクリスマス用に、合唱を加えられて礼拝用カンタータ『われらの口は笑みに満ち』BWV110の冒頭曲として転用されていますので、作曲はそれ以前であったことが確実です。
また、初稿にはトランペットとティンパニが無く、カンタータへの転用後に書き加えられたことも分かっています。
そのため、ケーテン時代に書かれ、ライプツィヒのコレギウム・ムジークムでの演奏用に拡大版にされた、という推定が妥当かと思います。
いずれにしてもこの曲は、リュリに始まったフレンチ・バロックの、最後の到達点、頂上といえます。
バッハ『管弦楽組曲(序曲) 第4番 ニ長調 BWV1069』
Johann Sebastian Bach:Ouverture no.4 D-dur BWV1069
演奏:ホルディ・サヴァール指揮 ル・コンセール・ナシオン
Jordi Savall & Le Consert des Nations
第1楽章 序曲
緩ー急ー緩ー急の四部形式の、187小節に達する長大なフランス式序曲です。冒頭のトランペットのファンファーレ、そしてティンパニの打撃が、祝祭ムードをいやが上にも盛り上げます。曲想のスケールは雄大で、ゲーテは、貴族たちの行列が階段を下りてくる、と描写しましたが、私には天から神が降臨してくるかのように神々しく聞こえます。「急」の部分は、8分の9拍子のジーグ風の軽快なリズムで、フーガが展開していきます。木管と弦が自由闊達に掛け合うさまは、めくるめくような愉悦の極みです。
中間部の第2ブーレーを挟んだ、実に楽しい舞曲です。第1ブーレーはトランペットが元気いっぱいに先導し、弦とオーボエが茶目っ気たっぷりに掛け合いをしていくさまは、まるで絶妙な〝ボケ〟と〝ツッコミ〟のようです。(へんなたとえですが)
第2ブーレーは弦の同一音型にオーボエ群とファゴットが短調の陰影を帯びつつ、様々な形で応答していきます。素晴らしいの一言です。
第3楽章 ガヴォット
これもお茶目できびきびとしたフレーズを全楽器で奏でますが、ここでもオーボエの応答が出色です。トランペットも上昇していく持続音で、華々しさを添えます。
にぎにぎしく進んできた組曲ですが、ここではじめて、落ち着いたひとときとなります。第1メヌエットは弦と木管のユニゾンで奏でられ、トリオは弦楽器だけのしっとりとした響きに癒されます。
第5楽章 レジュイサンス(歓喜)
ヘンデルの『王宮の花火の音楽』にも含まれていた、「歓喜」という標題の曲で、特定の舞曲ではありません。ヘンデルのものと同様、喜びに満ちた華やかな終曲です。フレーズは機知に満ち、変幻自在、聴く人をめくるめく歓喜の世界に引き込んでいくのです。
参考曲として、序曲が編曲されたカンタータの合唱曲を掲げておきます。
バッハ:カンタータ『われらの口は笑みに満ち』BWV110 第1曲
ドイツ人の作ったフランス風序曲はいったんこれでおしまいです。リュリから始まったヴェルサイユ宮殿の宮廷音楽が、諸国に広がり、バッハという大海に注いだのです。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。


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