
アルターリア社による初版譜
雄大で、力強く
モーツァルトの明&暗2曲セット、ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 K.478の相方は、第2番 変ホ長調 K.493です。
前回のト短調が難し過ぎる、と出版者ホフマイスターから苦情を言われたため、2曲目のこの曲は版刻までされていましたが、それを流用して別の出版社、アルターリアから1787年に出版されました。その経緯は前回書いた通りです。
ト短調の方は、第1楽章の冒頭はショッキングなものの、他のト短調の曲に比べると明るい曲ですが、姉妹曲のこの変ホ長調は、もちろんとても明るい曲です。
ト短調は深い味わいでしたが、この曲はより力強く、かつ肩の力を抜いたような屈託のなさが魅力です。
要求される技巧は同レベルですが、ト短調よりも親しみやすい曲調で、ホフマイスターが望んだ大衆的な曲は、むしろこちらの方が近いかもしれません。
W.A.Mozart : Piano Quartet no.2 in E flat majnor, K.493
演奏:マルコム・ビルソン(フォルテピアノ)、エリザベス・ウィルコック(ヴァイオリン)、ジャン・シュラップ(ヴィオラ)、ティモシー・メイソン(チェロ)
大平原を馬で疾走するかのような、雄大かつ壮大なスタートです。しばしピアノと弦の対話があり、やがてピアノが天に駆け登るかのように飛翔し、聴く人の心を奪います。展開部では、ト短調を思わせるような悲しいモチーフが、ピアノと3つの弦でカノン風に厳しく呼び交わされます。そしてその緊張の中、すべてを解決するように冒頭のフレーズが戻ってくるところは、まったくシビれます。
第2楽章 ラルゲット
ピアノのつぶやきと、控えめな弦の伴奏が、静かな中にも情熱を秘めて奏でる楽章です。モーツァルトには珍しい変イ長調で書かれています。だんだんと深い海の底に潜っていくようで、響くハーモニーは幻想的です。現代的というべきか、いや、時代を感じさせない音楽というべきでしょうか。
第3楽章 アレグレット
いかにもロココ調の、むしろこの頃のモーツァルトには珍しいギャラント(優雅)なスタイルで書かれてます。かつて高級キャットフード(モンプチ)のCMに使われていたため、今でもこの曲を聴くとペルシャ猫の顔が浮かんでしまうのは困ったことです 笑。また、ピアノとヴァイオリンが並走しながら掛け合うようなところは、まさに猫がじゃれ合っているようで、微笑ましい感じがします。ただ、愛らしいだけでは終わらず、激しい部分もあり、ピアノ・コンチェルト 第20番 ニ短調 を思わせる場面もあります。間違いなく、モーツァルト円熟期の作品なのです。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。

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