
ザルツブルクの夜景
邸のあちこちにこだまする音楽!
モーツァルトのセレナードを聴いてきましたが、ウィーン円熟期の『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』までいったところで、また宮廷作曲家だったザルツブルク時代に戻ります。
セレナード、ナハトムジークなどは、夜会などのイベントの出し物、あるいはBGMとして作曲されたのですが、ノットゥルナ、ノットゥルノと名付けられた曲も〝夜の音楽〟という同様の意味です。
今回は、その中でも変わり種を2曲ご紹介します。
最初の曲は、なんと4つのオーケストラで演奏するのですが、夜会の会場であるお屋敷のあちこちに小オーケストラを配置し、エコー効果を狙った曲なのです。
まさに、貴族趣味の贅沢な趣向といえるでしょう。
メインは第1オーケストラで、第2、第3、第4オーケストラは、それをこだまのようになぞります。
だんだんと模倣は短くなり、第4オーケストラはほとんどエコー部分だけを担当します。
まさに、4チャンネルのステレオ効果を狙っているのです。
なんとも不思議な雰囲気で、ふつうのコンサートホールではまず演奏できない曲です。
モーツァルトが工夫を重ねて宴に供した音楽を、貴族になったつもりで味わってみてはいかがでしょうか。
モーツァルト:セレナード 第8番 ニ長調 K.286(269a)〝4つのオーケストラのためのノットゥルノ〟
W.A.Mozart : Serenade in D majior, K.286(269a) “Notturno for Four Orchestras”
演奏:クリストファー・ホグウッド指揮 アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック
Christopher Hogwood & Academy of Ancient Music
第1楽章 アンダンテ
第1オーケストラがメインテーマを演奏すると、第2オーケストラはそれを4小節目で重ねて同じように演奏し、その最後の小節から第3オーケストラが最後の2小節だけを繰り返し、さらにその最後の小節で第4オーケストラは終わりの音型だけをエコーで奏する、という仕掛けになっています。こうした音楽はモーツァルトの発明ではなく、当時流行った趣向のようですが、なんとも不思議な音楽です。CDで聴いても本当の効果は分からないですが、夜のパーティー会場で、ほろ酔い気分でこれが聞こえてきたら、最高です。
第2楽章 アレグレット・グラツィオーソ
優美に、とわざわざ書いてあるだけあって、さらに夜会の雰囲気を貴族的に盛り上げていきます。第1楽章と同じ手法を使って、エコー効果を出しています。遠くから響くこだまは。まるで深山にいるようです。
メヌエットはきびきびしているので、より一層エコーの効果が分かりやすいです。今度は、オーケストラが遠ざかっていくような錯覚を覚えます。トリオにはエコーがないので、第1オーケストラだけで演奏するのか、全オーケストラがやるのかは分かりませんが、メイン会場の第1オーケストラが受け持つのが妥当でしょう。
冬の夜会のメインイベント
次の曲も変わり種です。今度はふたつのオーケストラが使われますが、それはそんなに気をてらったものではなく、むしろトゥッティとソーリに分かれたバロック期のコンチェルト・グロッソを思わせます。
編成も、弦とティンパニという極めて異例です。楽章も、マーチ、メヌエット、ロンドの3楽章という例のないものです。
客の意表を突こうとした注文主の思惑でしょうが、モーツァルトは見事にそれに応えています。
ちなみに、セレナータ・ノットゥルナとは、父レオポルトが楽譜に書き込んでいるのですが、〝夜のセレナード〟といったくらいの意味で、他にはない命名ですが、特に深い意味はなさそうです。
前曲のノットゥルノとノットゥルナの違いも、それぞれ名詞の男性形、女性形というだけです。
ただし、この曲の作曲時期は冬なので、室内用ということは間違いありません。
モーツァルト:セレナード 第6番 ニ長調 K.239〝セレナータ・ノットゥルナ〟
W.A.Mozart : Serenade in D majior, K.239 “Serenata Notturna”
演奏:クリストファー・ホグウッド指揮 アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック
Christopher Hogwood & Academy of Ancient Music
第1楽章 マルチア:マエストーソ
普通は前座で演奏されるマーチ(行進曲)が、メインの第1楽章に来ているのも変わっています。しかし、内容は充実していて、凝った作りをしています。室内にティンパニが響いたかと思うと、愛らしいピツィカートが奏でられたりで、何度も聴きたくなる、くせになる曲です。
全合奏の迫力と、つんと澄ましたような弦の響きが対照的な、面白いメヌエットです。トリオは弦だけで、優美に奏でられます。
第3楽章 ロンド
農民のダンスのような愉快なメロディが繰り返される、楽しい楽章です。まさに今夜のメインイベントのような位置づけの曲だったはずです。速度も、アレグレットで始まり、途中でアダージョになり、最後はアレグロになり、ティンパニのソロやピツィカート、低弦のうめきなど、まさにユーモアたっぷりのフィナーレです。さぞや拍手喝采、宴を最高に盛り上げたことでしょう。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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