モーツァルトのピアノ・コンチェルトでは、有名でポピュラーなのは20番台の曲です。10番台の、いわばティーンの曲は、特にモーツァルトファンでなければ、あまり聴かれていないと思います。
しかし当時、ウィーンで喝采を浴びた絶頂期の音楽は10番台のもので、20番台になると次第に人気が落ちていったのは皮肉な限りです。
そんな10番台の中でも、人気が高いのがこの17番で、私も特に思い入れの深い曲です。
演奏の一押しは、このシリーズはいつものビルソンのピアノ、ガーディナー&イングリッシュ・バロック・ソロイスツです。
モーツァルト『ピアノ協奏曲第17番 ト長調 K.453』
Mozart:Concerto for Piano and Orchestra no.16 in G major , K.453
演奏:ジョン・エリオット・ガーディナー(指揮)
マルコム・ビルソン(フォルテピアノ)
イングリッシュ・バロック・ソロイスツ
John Eliot Gardiner , Malcolm Bilson & English Baroque Soloists
先の16番に比べて、あれ?と思うほどさりげないスタートです。リズムだけは、例のタンタカタッタ、ですが。しかし、聴くほどに引き込まれていきます。
曲の受け取り方はひとそれぞれですので、これはあくまでも私の個人の感想ですが、この曲には“秋”を感じます。
暑い夏が過ぎ、サッと清涼な秋風に吹かれたような、そんな印象を受けるのです。
春が来た、夏が来た、あるいは、いよいよ冬だな…というのは、毎年けっこうハッキリと感じる日がありますが、秋は、いつのまにかしのびやかにやってきて、気がつけば…という感じがしませんか?そして、いつのまにか去ってしまう…。
私がこの曲に感じるのは、そんな初秋の風です。
第2楽章 アンダンテ
この曲に感じるのは、同じく秋、それも晩秋の夕暮れです。
子供の頃、遊びに夢中になり、気が付くとあたりはすっかり暗く。
家々には明かりがともり、かしこから夕飯の支度の気配。
遠くの畑からは、焚火の香り。
日が落ちた遠くの山の稜線が、夕焼け空に真黒く浮かび上がる。
ちょっとセンチメンタルな思いにかられて家路を急ぐ…。
私は、この曲を聴くと、そのような、言いようのない懐かしさで胸がいっぱいになります。
第3楽章 アレグレット
一転、楽しいパーティのはじまりです。
楽しい、何か歌詞でもつけたくなるような明快なメロディです。この曲はモーツァルト自身もお気に入りで、ペットのムクドリ(名前は「シュタール」)に覚えさせた、ということです。
……ムクドリ? 私の地元の駅前の木々には、季節によって信じられない数のムクドリが集まってきて、ギャアギャアと耳をつんざくような音量でわめきたてるので、側を通る人はフンに気を付けながら耳をふさいで通り過ぎるありさま。市役所にだいぶ苦情が入っているようですが、野鳥でもあるので、市も有効な手立てがなく…という状況です。そんなムクドリが、モーツァルトの旋律など歌えるとは思えないので、九官鳥とか、おそらく別な種類なのでしょう。原語で何というか分かりませんが、ムクドリは誤訳と思われます。
それはともかく、ムクドリのメロディはどんどん盛り上がって、最高の盛り上がりを見せます。ピアノは飛んではねて踊って、アルレッキーノ(ピエロ)によくたとえられます。
これを得意げに弾いているモーツァルトの姿がありありと思い浮かびますが、盛り上がる曲は数あれども、この曲には特に聴衆との一体感が感じられるのです。
大好きな、最高の1曲です。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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