
クララ・シューマン
楽器から輝く火花
モーツァルトのピアノ・コンチェルトを初めて聴く、という人には、まずこの曲をすすめます。きっと、すぐ好きになってしまうことでしょう。ピアノ・コンチェルトの中でも1番人気の曲ではないでしょうか。
第22番に比べると編成は小さく、またオーボエの代わりにクラリネットが使われ、ティンパニとトランペットはいない室内的な趣きの曲です。
響きは清涼そのもの。
そして、〝洗練〟という言葉がぴったりくる素敵なコンチェルトです。
モーツァルト『ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488』
Mozart:Concerto for Piano and Orchestra no.23 in A major , K.488
演奏:ジョン・エリオット・ガーディナー(指揮)
マルコム・ビルソン(フォルテピアノ)
イングリッシュ・バロック・ソロイスツ
John Eliot Gardiner , Malcolm Bilson & English Baroque Soloists
さわやかな夏の朝を思わせる始まりです。そして、魅力的なメロディが吹き抜ける風のように疾走していきます。気負ったところは微塵も感じさせず、自然な流れで盛り上がっていきます。そして現れる第2テーマ。可愛らしい女性に微笑みかけられたように、胸がキュン、と鳴ります。
ピアノとオーケストラが、互いに入れ替わりながら仲良く歌っていくさまは、まことに爽快で、すっきりとした気分にしてくれます。
カデンツァはモーツァルト自身のものが残っています。
モーツァルトには珍しい嬰へ短調という変わった調で、哀愁漂うエレジーです。
このリズムは特にシシリアーノと呼ばれます。
物思いにふけりながら独り歩く夜道。
かなわない片思いの相手を想いながら…。空には、明るすぎる夏の夜の月。
モーツァルトがどんな思いでこの曲を作ったのか分かりませんが、聴く人の胸に様々な情感を呼び起こさせる切ない曲です。
第3楽章 アレグロ・アッサイ
気を取り直して、ピアノは元気に走り出し、オーケストラが追いかけます。
この疾走感はまったくモーツァルトならではのものです。
後世、シューマンの妻クララ(高名なピアニストでした)は、彼女に恋していたブラームスに対して、この曲についてこんな手紙を書いています。第17番ト長調と、この第23番イ長調の2曲の楽譜を彼女に送った返信です。
この2曲を弾いている間の気持ちは、なんとも言いようがなかったわ。初めに思ったのは、こんな楽しみを味わわせてくれたあなたを、お礼にじっと抱きしめたかったこと。このアダージョ、なんという音楽でしょう。2つとも涙が溢れて仕様がなかったわ。ことにハ長調のアダージョには心の底からゆさぶられる――これを弾いていると、天上の悦びが、身体中を流れてゆく。第1楽章のすばらしさ、それからイ長調の方の終楽章は、楽器から火花が光り輝くようね・・・。ト長調協奏曲は、あなたに送り返すつもりでしたけれど、なんだか、いつまでも持っていなければいけないような気がするの・・・こんな人間がかつて生きていたなんて、世界中を抱きしめたいくらいだわ。*1
楽器から火花が光り輝く。この楽章を言い現すのにこれ以上の言葉はありません。
ほんとうに、聴き終わったら誰かを抱きしめたくなるような、幸せなコンチェルトです。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。

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