ティーン番号最後の曲です。軽快な曲の多いティーンですが、その中でも特に軽いのがこの曲です。17番を秋にたとえましたが、この曲はまさに春、それも爛漫です。ビルソン&ガーディナーの演奏も、ふわふわとして、何の悩みもない世界を現出しています。
ところが最近、長年抱いていたイメージを覆すような演奏に出会ったのです!
聴いてみてぶっ飛びました!
なんと、ティンパニとトランペットが入っているのです!
前述したように、両者はモーツァルトではハ長調か、ニ長調、変ホ長調など、限定された調にしか登場しません。
それがヘ長調のこの曲になぜ入れた…?
調べると、ちゃんと根拠がありました。
モーツァルトは、ピアノ・コンチェルト第14番以降、几帳面に「自作品目録」をつけていました。
そこでは、この曲の編成はティンパニとトランペット付き、と書かれているのです。
しかし、ティンパニとトランペットのパート譜は残っていないので、モーツァルトの勘違い、と一般には片付けられてきました。
でも、この曲は後年、フランクフルトで皇帝レオポルト二世の戴冠式が行われた時、押しかけて行ったモーツァルトがコンサートで2曲のピアノ・コンチェルトを演じたのですが、1曲目は新作の第26番で、2曲目が旧作のこれではないか、と言われているのです。
そこで、この曲は“第二戴冠式協奏曲”と呼ばれているのですが、確かに、戴冠式という華やかな場ではティンパニとトランペットが欠かせません。
そこで、やはりこの曲にはティンパニとトランペットのパートがあり、楽譜は散逸してしまったのだ、という説があり、それに基づいて録音された演奏なのです。
Mozart:Concerto for Piano and Orchestra no.19 in F major , K.459
演奏:アーサー・スクーンダーエルド(指揮とピアノ)
クリストフォリ
Arthur Schoonderwoerd & Cristofori
例のタンタカッタタが、これが最後とばかり全曲に通じて使われています。そして、春爛漫なふわふわ気分で展開していきます。ところが、この演奏ではティンパニがドン、ドン、と突いてくるので、何とも不思議な感じですが、全然悪くありません。むしろ引き締まって、この曲の新しい魅力が引き出されています。
第2楽章 アレグレット
のどかな田舎の風景のような音楽です。牧草地で羊たちが静かに草を食んでいます。空にはゆったり雲が流れ・・・。
この曲で使われているフォルテピアノがどのようなものかは分からないのですが、これまで聴いてきたビルソンが使用する、モーツァルトの使っていたヴァルター1780年製の複製に比べ、よりチェンバロに近い典雅な響きがします。
第3楽章 アレグロ・アッサイ
ウィーン人好みの軽いタッチでピアノから始まり、管楽器がそれに合いの手を入れますが、オーケストラはいきなりなんとフーガをおっぱじめ、どんどん走っていきます。モーツァルトが大好きな、意表をつくいたずらな仕掛けです。
この演奏だと、フーガの始まりにティンパニがドンとくるので、これも引き締まって素晴らしいです。
ということで、同じ曲でも、演奏者によって何通りにも楽しめるのがクラシックの良さでもあります。
モーツァルトが実際に演じたのはどんな響きだったのだろう、テンポはどうだったんだろう…など、タイムマシンが無いので想像してもやるせない限りですが、この演奏をモーツァルトが聴いたらどう思うのかな、などと考えるのもまたクラシックの愉しみの
ひとつです。
毎回ご紹介しているガーディナー&ビルソンの演奏はこちら。
ぜひ、聴き比べてください。
演奏:ジョン・エリオット・ガーディナー(指揮)
マルコム・ビルソン(フォルテピアノ)
イングリッシュ・バロック・ソロイスツ
John Eliot Gardiner , Malcolm Bilson & English Baroque Soloists
第2楽章 アレグレット
第3楽章 アレグロ・アッサイ
今回もお読みいただき、ありがとうございました。


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